第3.5章 ~君を想う・君を守る~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
物音ひとつしない部屋。
逆にその静けさが耳鳴りの様に鼓膜に響く。
しばらくすると自分の心臓の音が聞こえてきた。
トク、トクという鼓動を聞くうちに、りおは今朝から何となく引っかかっていた事をぼんやりと考えた。
(やっぱり……何か大事な事…忘れている気がする…。とても…大事な…)
それが何なのか、どうして忘れたままなのか、今は分からない。
だがそれを、思い出さなければいけない気がするのだ。
何故なら、りおには一つ気がかりがあったから。
記憶の混乱は今回が初めてでは無いという事だ。
ずっと昔…子どもの頃に、両親と共に事故に遭った。
その事故で相手の運転手と警察官だった両親は死に、りおだけが生き残ったのだと聞かされた。
命は助かったものの、事故の衝撃と両親の死を目の当たりにして、事故前後の記憶が曖昧になっていた。
特に事故前の記憶は、学校や友達についてはぼんやりと記憶に残っている事もあるが、両親の事は全く覚えていない。
育ててくれた祖父母は、ゆっくりお前のペースで思い出せば良いから、と言って多くを語ってはくれなかった。
だが高校生の時—――
祖父が亡くなる前…『あれは事故ではなく両親は殺されたのだ』と打ち明けられた。
真相を確かめようとしたところ、警察組織に父親の名は無く、母の名も分からない。
事故のニュースすら見つからない。何もかもがウソだったと知った。
真実を明らかにしたくて、警察官になった。
今心に引っかかる《何か》が、事故以前の子どもの頃の記憶なのか、今回の《ウェストホールディングス事件》で抜け落ちた記憶なのかは分からない。
ただ、忘れてはいけない事だった……気がするのだ。
(この《何か》も、両親の事も、すべてが分かる時が…来るのかな…)
自分が知りたい事なのに、どうしようもなく恐ろしいものの様にも感じる。知りたい。でも知りたくない。
(ああ、こんなんじゃいけないのに…)
弱気になっている場合じゃないんだと、りおは自分に喝を入れる。
気持ちを落ち着かせるためにゆっくり息を吐いた。
(やっぱり秀一さんと一緒に寝れば良かったな…)
りおは体を小さく丸めると、毛布に包まって目を閉じた。
りおが寝入った頃、部屋のドアが静かに開いた。
赤井がそっとベッドに近づき、りおの寝顔を覗き込む。
「ふう…。キスに流されて危うく抱いてしまうところだった…」
危ない危ない、と首の後ろをさすりながら、赤井はりおが眠るベッドの横に座り込んだ。
「こうやって…昼も夜も…毎日一緒に居れるようになったんだ。
体を繋げなくても…お前を感じることは出来る…」
りおの顔に手を伸ばすと優しく頭を撫でた。
顔にかかった髪をそっとかき上げてやる。
警察病院で眠っていた時に比べれば、こけた頬もだいぶ元に戻った気がした。
スースーと静かな寝息が聞こえ、その音に合わせて肩が上下している。
その姿が可愛らしくて、愛おしくて、思わず赤井は微笑んだ。
「優しくて泣き虫で、大胆で繊細で、強いくせに弱くて…
無鉄砲なのに計算ずくで、鋭いくせに鈍感で、いつも俺をハラハラさせて。
でも、そんなお前が…どうしようもないくらい、愛おしいよ」
左手の親指でそっとりおの頬を撫でる。
そのまま目元を、そして柔らかな唇をゆっくりと撫でた。
りおの寝顔を眺め、赤井は目を細めた。
ギシッ…
りおのベッドの中に、赤井は自分の体を滑りこませる。
「抱きはしないが…やっぱり一緒に寝よう」
小さく丸まっているりおの体を、自分の方へと引き寄せた。
「う…ん……しゅ…ち…さ…」
りおがわずかに声を出したので、起こしてしまったか、と思わず顔を覗き込む。
背中をトントンと優しくたたいた。
すぅ——…
再び気持ち良さそうな寝息が聞こえる。
赤井はホッと胸を撫で下ろし、りおの頭に頬を寄せた。
「そんな可愛い顔で俺の名を呼んでくれるな…。決心がグラつくだろう?」
くすりと笑って何度か頭を撫でてやる。
「おやすみ。りお」
小さく呟いて赤井も目を閉じた。
**
曇っていた夜空は少しずつ雲が流れ、やがて月が顔を出す。
二人が眠る工藤邸を月が優しく照らした。
何事もない、平和な夜。平和な時間。
お互いの体温を感じながら幸せそうに眠る二人は——このあと再び大きな事件が待ち構えている事を、まだ知る由も無かった……。
==第3.5章完==