第3.5章 ~君を想う・君を守る~
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夜——
昼間の疲れもあり、りおは早めにベッドに潜り込んだ。
暗い部屋にもだいぶ慣れ、今では電気を消して眠ることができる。
今日も完全に照明を落として横になると、月明かりがカーテンの隙間から部屋を照らしている事に気付く。
ベッドから降りて閉めてあったカーテンを少し開け、再びベッドに戻り月を眺めた。
諸伏警部の笑った顔が脳裏に浮かぶ。
景光とそっくりだったその目元には、わずかにシワがあった。
(ヒロ先輩も、もう少し年を取ったらあんな感じだったのかな)
若くしてその命を散らし、永遠に年を取らなくなった。
あれから何年か過ぎ、自分はその分年齢を重ねた。
生き続ける限り、その差は開く一方だ。
無性に寂しく、そして悲しい気持ちになった。
涙がこぼれそうになり慌てて拭う。
「私が泣いていたら秀一さんを悲しませてしまうわ。
彼を一時忘れてしまったことでも十分彼を悲しませ、苦しめていたのだから……これ以上は……」
組織から《シルバーブレッド》と恐れられる男が見せた弱った姿。
自分が彼を忘れたことが原因なのは辛かった。
「ごめん。ごめんね。秀一さん…」
ぎゅうっと胸の奥が痛む。
「はぁ…」
涙の代わりに大きく息を吐く。
「今日は確かに、昔のことを思い出すことが多かったな…」
卒業以来会っていなかった冴島教官の話は、日々のけん騒の中で忘れかけていた、当時の記憶を色鮮やかにした。
あの頃は誰もが希望に満ち溢れ、そして仲間を信頼し笑顔が絶えなかった。
古き良き思い出。
だが、その日々はもう決して戻ってこない。
あの頃笑っていた彼らは……もういない——
再びベッドを出て窓辺に立つ。
満月はもう少し先…それでも明るい。
月明かりに照らされた窓辺は、青みがかった灰色の世界。
色を失った景色は少し寂しげに見えた。
今の自分の心を映しているようで、思わず目を背けた。
カチャ…
「ッ!」
静かに部屋のドアが開いた。
「!」
「すまん…。起きていたのか」
部屋の侵入者に一瞬ドキッとしたが、すぐに赤井の声が聞こえてりおは表情を緩める。
「うん。月がキレイだったから…」
「そんな薄着で……風邪ひくぞ」
赤井は部屋に入るとドアを閉め、りおに近づく。
窓の外を見ながら、ああ確かにキレイだな、と微笑んだ。
「どうしたの? こんな時間に」
「……」
りおの質問に赤井はすぐには答えず、ほんの少し考えるそぶりを見せる。
「…心配になったんだ。うなされているんじゃないかと思って」
「私が?」
「ああ。諸伏警部に会うことも、警察学校も、否応なくスコッチを思い起こさせる。
懐かしい思い出は一時心を和ませるが、後には『あの頃にはもう戻れない』と思い知らされる。
今のお前には……負担が大きいと思ったんだ」
「心配性ね、秀一さんは」
「そうか? お前の顔を見る限り、俺の読みはアタリだと思っているが」
「ッ!」
何も言い返せなくなり、りおは下を向いた。
「すまん。困らせたいわけじゃなんだ」
りおの肩に手を置き、心配そうに顔を覗き込む。
そのまま優しく抱き寄せた。
赤井の来ているTシャツが頬に触れる。
耳を澄ますと、穏やかな呼吸音と鼓動が聞こえてきた。
それだけで赤井への想いがあふれ出る。
もっと触れたいという気持ちが抑えられなくなった。
「秀一さん…ッ」
りおは思わず赤井に抱きついた。その背中に手を回す。
先ほどよりもグッと二人の体が密着した。
「ッ! りお…ッ。ダメだ…それ以上くっつくと…」
切羽詰まったような赤井の声が頭の上から聞こえた。
りおから離れようと体を引く。
りおはそれを阻止するように服を掴んで赤井にしがみ付いた。
この温もりを手放したくないと、りおも必死だった。
「こら、りお」
「?!」
赤井の言葉と共に、りおの体がふわりと抱き上げられた。
そのままベッドに近づくと、ドサッと仰向けに押し倒される。
「りお。分かっているのか?
先日も言った通り、俺はお前をもうずっと抱いていないんだぞ」
「……」
「どういうことか…分かるな?」
「…つ、つまり…?」
「つまり……かなりの欲求不満だ」
あからさまに言われて、りおの顔は真っ赤になった。
「そんなに俺にしがみ付いてきて…そろそろ我慢も限界だ。
…これ以上くっついてくるならこのまま…抱くぞ?」
最後の言葉は耳元で吐息と共にささやかれ、りおの体はビクリと揺れた。
「言葉だけで……感じたか?」
そう言って赤井は、意地悪そうにククッと笑う。
りおへの牽制のつもりだったが、りお手はなおも赤井の服を握り閉めていた。
離れるつもりはないらしい。
赤井は片手でりおの頭部を支えると、顔の角度を変えりおに口づける。
浅く何度もリップ音を鳴らして唇をついばんだ後、ぬるりと舌を入れた。
その行為だけでりおは息を詰める。
呼吸すらも奪われて、苦しさと気持ちよさで頭がボーッとした。
ふと我に返ると、お互いハァハァと荒い呼吸を繰り返していた。
りおはすでに体に力が入らない。
覆いかぶさる赤井の顔を、蕩けた顔で見上げるだけだった。
「りお…体…辛かったら言ってくれ。
俺は自分のわがままでお前を抱きたくないんだ。
今日は大立ち回りもした。
お前が無理なら今日はこれ以上しない」
薄っすら汗を浮かべ、欲情の色を見せる赤井の顔はどこか苦しげだ。
それが『お前に忘れられた夢を見る』と言っていた時の顔と同じ気がした。
自分のせいで、こんなにも赤井を苦しめていると思うと切なかった。
しかもここで行為を止めるという選択肢は、彼にとってかなりキツイはず。
それでも…そうりおに告げる赤井の精神力は凄まじい。
そこまでして自分を気遣ってくれることに、りおは申し訳なさと愛おしさで涙が出た。
「秀一さん…そんなこと言わないで。
私はあなたに抱いて欲しい。お願い。私を…抱いて?」
「良いのか? 本当にこのまま…抱くぞ?」
もう止められないからな、と一言つぶやいて
赤井は着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。