第3.5章 ~君を想う・君を守る~
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「さくら、帰りましょうか?」
高木刑事と諸伏警部を見送り、昴はさくらに声をかけた。
「うん…」
さくらはそう返事をしたが元気が無い。
昴は心配そうに顔を覗き込んだ。
「まだめまいがしますか? 肩を貸しましょうか?」
顔色は青白く、ひどく疲れた様子だった。
車まで歩かせるのは厳しいな…と昴は考えていた。
「昴さん、助けてくれてありがとね。
もし、そばに昴さんが居なかったら……かなりのピンチだった」
「まあ、いざとなれば私が駆け付けると思って、無茶したんでしょ?」
さくらの言葉を聞いて、昴はため息交じりに返事をした。
「ふふふ。まあね。さすがに退院して、そんなに経ってないしね」
おどけた様にぺろりと舌を出す。
しかし表情とは裏腹に、体はだいぶしんどいようだ。
半日歩き回った疲れも出ているのだろう。
「お姫様抱っことおんぶと、どちらが良いですか?」
「いや、どっちも遠慮したいけど。
今めちゃめちゃ人がいっぱいいるじゃない」
「仕方ないでしょう? ここで無理して倒れた方が目立ちますよ」
「肩を貸してくれれば、自力で歩けます」
「そんな青い顔をして…?」
やれやれ、と昴はため息をつく。
こうなると何を言ってもガンとして首を縦には振らないだろう。
昴にしてみれば、それも想定内ではあったが。
「まったく…頑固ですね…」
昴はさくらの肩に手を回し立ち上がらせると、エレベーターに向かって歩きだす。
たった数歩歩いただけで、さくらの膝からガクンと力が抜けた。
「おっと! 危ない!」
すぐにさくらの両肩を掴んだ。
「ほら。数歩歩いただけでこれですよ?
車はエレベーターから離れていますし、無理しない方が…」
「じゃ、じゃあ、せめてこのフロアのエレベーターに乗るまでは、このままで行かせて。
地下ではおんぶしてもらうから」
「分かりました」
ようやく妥協点を見出し、昴はさくらの体を支えながらゆっくりエレベーターを目指した。
「ほら、エレベーターに着きましたよ」
やっとの思いでエレベーターに乗り込むと、昴は操作ボタンの《閉》を押した。
エレベーターの扉が音もなく静かに閉まる。
ふわっとカゴが動き出すと、さくらはふう~ッと安堵のため息をもらし、昴にもたれかかった。
「意地を張らずに、私に運んでもらうという選択肢は無かったのですか?」
「こんなイケメンで長身の男性に抱えられたら、イヤでも目立っちゃうでしょ?」
こんな美人で華奢な女性が、犯人と一対一でやり合った方が目立つだろ…と思ったことは言わないでおいた。
「エレベーターを降りれば車まで少し歩きます。
駐車場では大人しく私に運ばれて下さい」
念を押すように少々威圧的に伝えた。
「は…い…分かってます……というか…もう一歩も…歩けま……」
「さくら!!」
ガクリと力が抜け、さくらの体が崩れ落ちる。
とっさに抱き留めた昴は「ふ~、あぶない」とため息交じりにつぶやいた。
「ギリギリまで頑張りすぎだ…」
よいしょとさくらを抱き上げ、エレベーターの扉が開くと、昴は大事そうに車まで運んだ。
**
「りお。着きましたよ」
何度目かの昴の声掛けで、ようやくりおのまぶたが動いた。
「…う…ん……もう家に着いた…?」
片目を擦りながら、りおはきょろきょろと周りを見回す。
「ぐっすり眠っていましたからね。車から降りて歩けますか?」
「えっ!?」
声をかけた昴と目が合った瞬間——
りおは驚きの声を上げた。
アンバーの瞳が一瞬だけ険しくなったことを、昴は見逃さなかった。
「?! りおッ?」
「え…あ…。ご、ごめん、昴さん」
すぐに取り繕うようにりおは笑顔を見せた。
「どうしたのです? 今私の顔を見て…すごく驚いていた。
まるで…知らない人を見るような目だった」
忘れるわけがない。毎夜見る夢。
その時の瞳と全く同じだった。
ドクッと昴の心臓が脈打つ。胸の奥に不安と焦燥感が入り混じる。
眉間にしわを寄せ、悲しげにりおの顔を見た。
「ご、ごめんなさい。なんか…夢を見てたみたいで…。
祖父母と出かけた夢。
運転していたのが祖父だったのに、目が覚めたら祖父じゃなかったから…驚いちゃって」
申し訳なさそうに、りおはそう説明した。
昴はその間も難しい顔をしてりおを見つめている。
「大丈夫よ。もうあなたを忘れることは無いわ。
万が一…頭があなたを忘れても、体はあなたを覚えているから」
「体?」
昴は不思議そうに聞き返した。
「あの時…確かにあなたとの記憶はなくしてしまっていた。
けれど病院の屋上であなたに抱きしめられた時、その手の感触とあなたの瞳と匂いは覚えていた。
『私はこの人を知っている』って。大切な人だって感じたの。
それがあれば、何があっても必ずあなたを思い出すわ。
だから心配しないで」
「……分かりましたよ…」
不安がなくなったわけではないが、自信に満ちたりおの顔を見て、ようやく昴も表情を緩めた。
家に入りひと心地つく。
爆破未遂男のせいで昼食を食べていなかった二人は、昴が途中のデリで買ったサンドイッチとサラダを食べることにした。
車内で眠ったおかげで、りおの疲れた体も幾分軽くなった。
昴がコーヒーを淹れている間に、りおはダイニングテーブルに買ってきた物を広げた。
「今日は…昔の事を思い出すことが多かったですね…」
昴は食べていたサンドイッチを皿に置き、りおに声をかけた。
「え? そう…かな?」
「警部や教官と会って、少なからずスコッチの事は考えたでしょう?
帰りの車でも昔の夢を見ていた。
記憶の混乱があったばかりですし…。ちょっと心配です」
やはり諸伏警部に会わせたのは失敗だったか…。
昴は外出を許可した事を少々後悔した。
「たまたま…ですよ」
目を伏せたまま、りおは答えた。
悲しそうな顔をする昴を直視できない。
彼を困らせたかったわけでは無いのに…。
なんでも無いフリをして、りおはサラダを頬張った。