第3.5章 ~君を想う・君を守る~
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「星川さんっ! 大丈夫ですか?」
諸伏が二人の元へと走り寄ってきた。
昴がさくらから体を離し、二人は諸伏へと視線を移す。
昴は耳に掛けてあったワイヤレスイヤホンを素早く外すと、ズボンのポケットに突っ込んだ。
「諸伏警部…スミマセン。出過ぎたマネを…」
「いいえ。あなたが助けてくれなければ、私は刺されていた。
本来なら私があなたを助けなければいけない立場なのに…」
申し訳なさそうに諸伏は下を向いた。
そんな彼の様子を見て、なんとかフォローしなければ…とさくらは悩む。
「あ、じ、実は私格闘技を習ってて。
つい、体が勝手に動いて余計なことを…」
フォローになっているのかなっていないのか…。
しかしそれを聞いた諸伏は、
「ああ、格闘技を…。それでそんなにお強かったのですね」
合点がいったようにうなずいた。
「毛利探偵の娘さんも空手をやられていると聞いたことがあります。
最近は強い女性が多いですね」
言われてみれば、確かに多い気がする。
蘭は空手、世良はジークンドー。自分の周りには強い女性ばかりだ。
諸伏警部が納得したようなので、さくらは「ふぅ…」と小さく息をついた。
「で、そちらの方は? もしかして…コナンくんが言っていた《恋人》さん?」
遠慮がちに諸伏は訊ねてきた。
「あ…え、ええ。まあ…」
なぜこんなにタイミング良く恋人が登場するのか…。
これでは他の男と出かけた彼女を、ストーキングしているアブナイ彼氏みたいだ…。
どう説明しようか…。再びさくらは悩む。
「私は沖矢昴と申します。
実はこの近くで、尊敬する格闘技の先生の講習会がありまして。私も参加してきたんですよ。
先ほど終わったので、地下のデリで昼食でも買おうかとこちらに寄ったんですが、突然悲鳴が聞こえたので…」
とっさとはいえ、こんな言い訳で諸伏警部が納得するだろうか…。
さくらはジロリと昴を見上げる。
「ほお~。あなたも格闘技を。しかしおかげで助かりました。
私の位置からでは到底間に合いませんでしたから」
「間一髪でしたけどね。でもまさか、さくらが居るとは思いませんでしたよ」
諸伏と昴の会話を聞いて、よくもまあ口から次々とデマカセが…、とさくらの顔が引きつる。
が、それ以上諸伏も突っ込むことは無く「そういえばこのデパートの地下にあるベーカリーは有名ですよね」と、嬉しそうに昴に話しかけていた。
どうやら諸伏警部はかなり食通なようだ。
さくらはやれやれと昴の肩に頭を付けた。
「立てますか?」
昴に声を掛けられ、肩を借りながらさくらは立ち上がった。
少し足元がおぼつかなかったが、めまいの方は治まったようだ。
しばらくすると店員の通報により、捜査一課の面々がバタバタと現場に駆けつけた。
高木刑事に「あれ、星川さんと…沖矢さんじゃないですか」と言われ、思わず「あ」と声を上げた。
「ホームセンターの強盗事件以来ですね」などと談笑しながら、すでに顔見知りとなってしまった高木刑事に諸伏警部を紹介した。
目暮警部も話に加わり、今回の事件について諸伏が詳細に説明すると、警察官同士の聴取は短時間で済んだ。
聴取が終わると、目暮警部がご苦労だったな、と3人をねぎらう。
「しかし…君たち関わると、だいたい犯人が伸びとるな…」
目暮警部が半ば呆れ顔で昴達に声をかけた。
「え、ええ…まあ…」
「あはは…つい…体が動いちゃって…」
何と答えて良いのか、昴もさくらも曖昧に笑ってごまかした。
「まあ、とにかく大きなケガをした人もいなかったし、爆弾もフェイクだった。
被害が最小限で良かったよ」
ご機嫌な表情で目暮警部は二人に言うと鑑識係に呼ばれ、「それじゃあ」と手を上げてその場を離れた。
後に残された高木警部が腕時計を確認すると、「あ…」と声を上げる。
「諸伏警部、昼過ぎの新幹線に乗られるとおっしゃっていましたけど、だいぶ時間を押しています。
もし他に寄るところが無ければ、自分が東京駅までお送りしますが…」
遠慮がちに諸伏に提案した。
「あ、そうですね。今から乗り継ぎをしたのでは間に合わなそうだ…。
ではお言葉に甘えてお願いします」
諸伏は高木に向かって小さく頭を下げた。
さくらはそんな諸伏を遠くから見つめる。
視線に気付いた諸伏は、微笑みながらさくらに近づいた。
「今日は半日ありがとうございました。
まさか最後に事件に巻き込まれるとは思いませんでしたけど…。
ですが、あなたとご一緒出来て本当に良かった」
優しい笑顔を向け、そう声をかけた。
「私の方こそ…ありがとうございました」
さくらもまた、諸伏の顔をジッと見つめて微笑む。
二人の間にそれ以上言葉は無かった。
諸伏が右手を差し出した。さくらもそっと右手を出し、二人は握手をした。
「それじゃ。また春に」
「ええ。桜の時期に…また」
二人の手は離れ、諸伏は踵を返すと高木の元へと歩み出す。
さくらは無言で彼の後姿を見送った。
***
帰りの新幹線の中、諸伏は窓の外を眺めていた。
高層ビル群はすでに後方で小さくなり、見えるのは平野部の住宅街。
その景色も飛ぶように後ろに流れていく。
ふとジャケットの胸ポケットから、1枚の写真を取り出した。
「お前の愛した女性は…今幸せそうでしたよ。
そこに行きつくまでに…きっとたくさん辛い思いもしたことでしょう。
それでも。彼女は『今幸せです』と言っていた。
その幸せがずっと続くよう、私たちも祈りましょう」
写真には警察学校の制服を着て、笑顔で並ぶ景光とりおの姿が写っていた。
写真の裏には『好きな子ができたんだ』と、小さく走り書きされていた。