第3.5章 ~君を想う・君を守る~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ッ! 星川さん!」
諸伏はすぐに男を止めようと二人に駆け寄る。
だが男は一瞬だけ諸伏を目視すると薄笑いを浮かべ、怯む様子もない。
二人まとめて相手をするつもりのようだ。
「この男…只者ではないわ!」
「なに?!」
一瞬だけ諸伏と目を合わせ、さくらが叫ぶ。
それを聞いて諸伏は眉をひそめた。
確かにこの目の鋭さ、動き、ナイフの扱い。
素人とは思えない。
男は諸伏とさくらを交互に見ながら、ナイフを構える。
二人が少しでも動くと、ピゥと刃先を鳴らして威嚇した。
何度かそのような牽制をするうちに、男は自分の足元に売り物のブランドバッグが転がっている事に気付く。
どうやら先ほど悲鳴を上げた客が落としたらしい。
それを突然、諸伏に向けて蹴りつけた。
「ぐッ!」
諸伏は飛んで来たバッグを手で払いのける。
「諸伏さん! 危ないッ!」
「?!」
バッグに気を取られ、諸伏は初動が遅れた。
男がナイフを振りかざし、諸伏に襲い掛かる。
ガッ!!
「な?!」
二人の間に体を割り込ませたさくらは、振り下ろされた男の腕を、交差させた自身の腕で受け止めた。
男は驚いた顔をしている。
そのスキに、さくらは男の腹を押し戻すように蹴った。
「ぐはッ!」
男は体を丸めて数歩下がる。
「このッ! アマぁぁぁ!」
逆上した男は血走った目をさくらに向けると、先ほどとは比べ物にならないスピードで襲い掛かった。
ピュッ!
ヒュンッ!
ナイフの刃が空を切る。
さくらはそれを難なく避けた。
「クソッ! ちょこまかと!!」
男は苛立ちを隠そうともせず、なおもナイフで襲いかかってくる。
さくらは男の攻撃をかわしながら、反撃のタイミングを見計らっていた。
男の気持ちは完全にさくらに向いている——
今がチャンスだと諸伏がそっと男に近づき、手刀で首の急所を狙った。
「ふんッ! お見通しだよッ!」
だが男はすぐに諸伏の方へ向き直り、手刀をかわすとナイフで切りつけようとした。
諸伏は身を屈めて攻撃を回避するが、男の動きが速く避けるだけで精一杯だ。
やはりこういった事に慣れているようだ。
「こっちよ!」
さくらが叫ぶと、再び男はさくらへ視線を移し、攻撃を仕掛ける。
さくらはそのまま男の気を引きつけ、諸伏や買い物客から離れるように移動した。
とはいっても、さくらも退院してからそんなに日にちは経っていない。
いつもに比べて息が切れるのが早く、体も重く感じる。
一撃でこの男を倒さなければ勝機はなさそうだ。
男は尚も右、左と切り付けてくる。
さくらはそれを避けながら、少しずつ後ろに下がった。
(数メートル後ろに買い物カートがある。
それを使って間合いをとれば…)
そう思っていた時だった。
グラリ…
「?!」
突然強いめまいがした。
視界がぼやけ、体の力が抜ける。
ドサッ
そのまま尻もちをつくように座り込んだ。
「星川さん?!」
諸伏は驚き、慌ててさくらの元へとダッシュする。
男を客や諸伏から離そうと移動していたため、諸伏とさくらの距離はかなり開いていた。
(だめだ! 間に合わない!!)
「フフッ。どうした? 降参か?」
男はさくらに近づき、歩みを止めた。
見下すようにさくらをにらみつける。
「ッ!」
さくらも相手に鋭い目を向けるが、めまいのせいで男の顔がゆらゆらと揺れていた。
必死に目を開けるが、めまいは治まるどころか視界がぼやけて良く見えない。
(この状態で避けきれるか?)
さくらのこめかみのあたりから流れた汗が、アゴをつたってポトリと床に落ちた。
それを見て、さくらの焦りを見透かしたように、男の口角がわずかにあがる。
強がる女の顔は良い。
その顔で必死に隠そうとする《焦り》や《恐怖心》が見え隠れする様は、男の加虐心をさらに煽る。
男はさくらの首元にナイフをピタリと当てて、クッと刃を立てた。
「ッ」
ピリリと痛みが走る。
ナイフの刃が皮膚をわずかに裂き、ジワリと血がにじんだ。
「このまま強く引けば、お前の頸動脈はバッサリだ」
男はニヤリと口角をあげる。
「俺に命乞いをしてみろ。
そうだな…土下座をして『命だけは助けてください』と言えば、助けてやってもいい」
優位な立場に立った男はさくらを見下し、ヒヒヒと声をあげてあざ笑う。
しかしさくらの表情は変わらない。
命乞いどころか、『あなたの言いなりにはならない』という強い意思が伺える。
激しく動いたせいで呼吸は荒く顔には汗が浮いているが、鋭いアンバーの瞳が男を射抜いた。
ナイフを首元に当てられ、すぐそこに死が迫っているというのに。
(なんだ?! この女…)
自分の思い通りにならないことに苛立った男はサッと表情を変える。
「屈するより死を選ぶか。ならば……死ね」
男は目を見開き、狂気の顔を向ける。
ナイフの引こうとグリップを握り直した。
その時——
ドカッ!!
凄まじい音と共に、男を見上げたさくらの視界に長い脚が見えた。
「?!」
その脚は男の横っつらを蹴り飛ばす。
さらにもう一発、今度は軸足を替えて男の首元にまわし蹴りが決まる。
男の体は吹っ飛び、壁に激突すると白目をむいて伸びてしまった。
「さくらッ! ケガは?」
すぐさま蹴りを繰り出した男が、さくらの両肩を掴んで叫んだ。
「す、昴さ…ん…」
少し苦しそうな顔で、さくらは昴の名を呼んだ。
「どこかケガしたのか?」
眉間にしわを寄せ、悲痛な面持ちで訊ねた。
「ううん。ケガは…してない。ちょっとめまいしただけだから…」
昴を見上げたさくらは、青い顔をして息を切らし汗の雫が額に浮いていた。
「そうか…急に激しく動いたせいだな。
ん? 首元…少し出血してる。大したことはなさそうだが…」
「ああ、さっきナイフの刃を当てられたから…。大丈夫。そんなに痛くない」
さくらの言葉に、昴はホッとした表情を浮かべ「良かった」とつぶやく。
そのままさくらを抱きしめた。