第3.5章 ~君を想う・君を守る~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「デパート?」
「ええ。同僚にお土産を買っていこうと思いまして。
ところが私、こういう事に疎くて…。
毎回『センスがない』と、怒られてしまうんですよ。
今回は汚名返上したいので、ぜひ星川さんに見立てて貰おうと思いまして」
「なるほど。そういう事なら! お任せください」
二人はにこやかに会話をしながらタクシーを降り、店へと入っていった。
***
「次は買い物か…」
タブレットでりおの行き先を追っていた昴は、二人がデパートに入っていったのを大通りから目視した。
デパートの地下駐車場に入って車を停め、りおのバッグに取り付けた盗聴器で様子を伺う。
「やれやれ。警察学校へ着いた時はどうなるかと思ったが…。
発作を起こさずに、よくやり過ごしたな…」
エンジンを止め、タバコに火を付けながら昴はため息をついた。
今は落ち着いているが、記憶が抜け落ちた影響は、今後出てくる可能性があると医師から言われている。
スコッチの兄と出かけると聞いた時は、正直反対だった。
スコッチの死は、彼女がPTSDを発症した直接的な原因なのだから…。
その兄と会うとなれば悲しみに翻弄され、兄に対して罪悪感を抱きかねない。
再びさくらを苦しめてしまうだろう。
しかし彼女は言い出したら聞かない。
それはもう何度も経験済みだ。
ヘタに反対をするとかえって意固地になるので、許す代わりにGPSと盗聴器を取り付ける提案をした。
彼女も万全でない自覚があるのだろう。あっさり了承した。
これで万が一彼女に何かあれば、自分はすぐに駆けつけることが出来るというわけだ。
心配なことに変わりはないが、過保護にし過ぎてもりおは怒る。
今日の様子をからするに、本人も自分自身をコントロールする術を学びつつあるようだ。
ある意味、今回の外出は良いリハビリなのかもしれない。
昴はタバコをくわえ深く吸い込むと、僅かに上を向いて煙を吐いた。
「頑張り過ぎなければ良いがな」
***
「敢助君にはこれかな」
「えっ!! そ、それどなた用ですか?」
「えっと…同僚で腐れ縁の男で…」
「成人男性にそれはちょっと…」
「そ、そうですか?」
「こっちなんてどうでしょう?」
諸伏のセンスの無さに苦笑いしつつ、お土産を見繕っていく。
人数は多くなかったので、小一時間程でお土産が決まった。
「いや~。あなたに頼んだのは正解でした。
私一人だったら1週間あってもこのチョイスは出来ませんでしたね」
頭を掻きながら照れ笑いをする諸伏を見て、さくらはクスクスと笑った。
「それは良かったです。同僚の方にも喜んでもらえると良いですね。
あ、そうだ。荷物多くなっちゃいますし、お土産は宅配で送りますか?」
「そうですね。その方が助かります」
「じゃあ、あそこのサービスカウンターへ行きましょう」
たくさんのお土産を持って、二人はサービスカウンターへと向かった。
諸伏が送り状を書いている間、さくらはカウンター近くの売り場で商品を見ていた。
贈答用のお菓子やお酒が並んでいる。
「あ、ウィスキーだ…。
ボトルの形がおしゃれ~。秀一さんに買っていこうかな」
地球儀のような形をした、おしゃれなウィスキーのボトルを見つけて思わずつぶやいた。
他にもボトルは普通だが赤井が好んで飲むバーボンや、普段飲まないジャパニーズウイスキーの最高峰などが並び、さくらは「う~ん…」うなってしまう。
「秀一さんはボトルの形より味かな…。
好きなのはバーボンだけど…でもジャパニーズウィスキーも飲んでみて欲しいような……」
どっちが喜ぶか…。
さくらは思いっきり頭を悩ませた。
「ああ…もう、訊いた方が早いかも。
どうせ聞こえているんだろうけど、盗聴器に話しかけても意味ないし…。
メールしてみようかな」
考えることを諦め、さくらはバッグの中のスマホを出そうと、かがめていた体を起こす。
その時ふと、非常口へと続く通路に人影を見つけた。
どうやら男が一人座り込んでいるようだ。
(あれ? どうしたんだろう? 具合でも悪いのかしら?)
さくらは周りに店員がいないか確認するが、それらしい人はいない。
もし具合が悪いならこうしてはいられない。
さくらは慌てて男に近づいた。
声を掛けようとした瞬間、その足元にある物が何かの《装置》であることに気付く。
「ッ!!」
タイマーのスイッチのようなものを押そうとした男の手を、とっさに掴んだ。
「なッ!?」
驚いた男が、手を掴まれたまま振り向く。
「あなた、何を…」
さくらが言いかけた時、男はその手を振り払おうと腕を大きく振った。
投げ飛ばされないように力を入れ、さくらは男の足を払う。
バランスを崩した男はすぐに床へと倒れた。
「ぐぅッ!!」
さくらは唸り声をあげて床に転がる男をにらみつける。
「ここでいったい何を…」
ギラリ
男の目が鋭く光った。
鮮やかな手さばきでポケットからバタフライナイフを取り出すと、さくらに襲い掛かる。
「キャ——ッ!!」
ナイフを見た店内の客たちが悲鳴を上げた。
「ッ!?」
諸伏はその悲鳴を聞いて何事かと振り返る。
その瞬間——
目に飛び込んできたのは、ナイフを持った男がさくらに向かって右! 左! とナイフを振りかざしている姿だった。