第3.5章 ~君を想う・君を守る~
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「諸伏は…殉職…したんだな。
今のお前と……同じ部署で」
冴島は顔を上げ、校庭を眺めていた。
「…はい…。私の…目の前で」
「ッ!」
冴島は目を見開き、思わずさくらの顔を見た。
さくらは表情を変えず、冴島を見上げた。
しばらく沈黙が流れる。
風が吹き、周辺の木々がざわざわと音をたてた。
「広瀬…それは辛かったな…。
その事を諸伏警部はご存じなのか?」
「いいえ…。おそらく殉職した事もハッキリとは知らされていないと思います。
でも、彼は…とても頭が良い方なので…」
「そうか。それで…ここへ」
冴島は離れたところで電話をしている、諸伏の方へ視線を向けた。
「今日ご一緒させていただいたのは偶然です。
私の知り合いと警部が一緒だったところに、偶然私が居合わせて…。
ひょんなことから一緒にここへ来ることに」
「なるほど」
(偶然か…。はたしてそうかな…?)
そう思いながら、冴島はさくらの話を聞いていた。
「広瀬。仕事で辛いことがあったらココへ来い。
力になってやることは出来ないが…愚痴くらいは聞いてやるよ。
俺ももうしばらくは、ここで後進の教育に注力するつもりだ。
いつでも歓迎してやるから。顔を見せに来い」
冴島はさくらの方へ向き直ると、ジッとその瞳を見つめた。
「ありがとうございます。
教官は祖母の時もそうやって私に声を掛けてくださいましたね。
誰にも悟られないように、心の内は隠していたのに。
教官にだけは隠せなかった。
何故…そんなに親身になって下さるのですか?」
さくらは在学中にも感じていた疑問を冴島にぶつけた。
冴島が一瞬動きを止める。
「?」
さくらが不思議そうに冴島の顔を見上げると、やがて彼はフッと微笑んだ。
「当たり前だろう? 俺は警察の人間であるのと同時に、教育者でもあるんだ。
それくらい見抜けなくてどうする?」
はははと愉快そうに笑う姿を見て、さくらは一瞬ぽか~んとした。
「た、確かにそうですね。何聞いてるんだろ。私」
冴島につられて、さくらも笑った。
(お前の事は…ずっと見ていたんだ。
それが俺に出来る…唯一の罪滅ぼしだから…)
にこやかに笑うさくらの顔を見て、冴島は心の中でつぶやいた。
「スミマセン。お待たせしました」
電話を終えた諸伏が、小走りに二人に近づいた。
「仕事の電話ですか?」
「ええ。私の担当では無かったのですが、知恵を借りたいと言われまして」
「なるほど。優秀な警部さんは引っ張りだこだ」
冴島と諸伏は笑顔で話をしている。
「そういえば、私が電話中お二人は何を話されていたのですか?
ずいぶん楽しそうでしたね」
突然話をふられて、さくらはドキッとした。
「ああ。警察学校の授業はどういうものかと聞かれたんですよ。
ココでの訓練はものすごく厳しくて音を上げる者も多いし、脱落する者もいる。
しかしその中で自分の信念を持って学んだ子たちは、やがて優秀な警察官になるんだと話していたんです」
冴島は機転を利かせ、ニコニコしながらそう答えた。
「諸伏…いや、あなたの弟さんも優秀だった。
《人を守る警察官になる》という信念を持っていた。
彼がいるだけで…険悪なムードも不思議と穏やかになる…。
やんちゃな5人組の中で彼は独特のオーラを持っていましたよ」
昔を懐かしむ様に話す冴島の目は、とても優しかった。
「そうでしたか」
諸伏は嬉しそうに答えた。
「幼い頃に両親を亡くし、兄弟離れ離れになりました。
何度か会ってはいましたが、私の中で景光は幼いままなのです。
彼がどんな仲間とどんな生活をして、何を思いそして散っていったのか…。
それを少しでも知りたかった」
諸伏の言葉を聞いて、さくらの心が痛む。
警察学校時代、景光の近くに居た。
そして、その命が尽きた瞬間にも居合わせた。
諸伏が知りたいことを、自分はたくさん知っている。
なのに…今の自分は、彼にその事を語る事が出来ない。
景光にとって唯一の肉親であり、心から憧れた兄だというのに。
さくらがうつむき拳をぎゅっと握る姿を、冴島は横目で見ていた。
その後、警察学校時代の思い出話を冴島はしてくれた。
諸伏は時々声を上げて笑う。
5人組のやんちゃっぷりは後々語り継がれるほど有名な話だ。
「優秀なやつらでしたが、諸伏が殉職したなら…
すでに5人のうち4人が亡くなりました。
皮肉なものですね…。
今も昔も…私のような無能な人間が生き長らえて…
優秀なヤツらが死んでいくなんて…」
冴島は寂しそうにつぶやいた。
(今も昔も?)
冴島の言葉に二人はわずかに反応した。
だが教官といえども現職の警察官。
仲間を失った経験は少なからずあるのだろう。
「校長先生はご立派だと思います。
毎年多くの卒業生を送られるのでしょう?
素人同然の若者を優秀な警察官に育て上げる。
それは簡単な事ではありません。
先生のご努力あってこそだと思います。
そうやって先生に送られた警察官たちは、例え殉職をしたとしてもその教えを胸に職務を全うできることを、誇りに思っていると思いますよ」
さくらは自身が感じている事を素直に言葉にした。
「そう言ってもらえると救われるよ。
だが、本音を言えば…優秀じゃなくて良いんだ。生きていて欲しかった。
将来の有る若者なんだ。例え卑怯者だと言われても…生きていて欲しかったよ。
まあ、こんなことを言ったら教官失格だがね」
自嘲気味に笑いながら、冴島は頭を掻いた。
「校長…」
諸伏も悲しそうに微笑むと、それ以上は何も言うことが出来なかった。
その他にもたくさん思い出話を聞いた諸伏とさくらは、冴島に別れを告げると警察学校の門を出た。