第3.5章 ~君を想う・君を守る~
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翌朝——
米花町の駅前で待ち合わせた諸伏とさくらは、電車に乗り込む。
通勤通学のピークは過ぎていたものの、車内は少し混んでいた。
座席が空いていなかったので、ふたりは並んで吊革につかまる。
「私のわがままにお付き合いただいて…。
本当にありがとうございます」
「いえ…。でも私で良かったんですか?」
昨日が初対面だったにも関わらず、なぜ一緒に出掛けたいといわれたのか…。
さくらは正直不思議だった。
「もちろん大歓迎ですよ。こちらこそ無理やり誘ってしまって申し訳ありません。
せっかく上京しましたし、一人でぶらぶらするのもちょっと寂しくて。
星川さんはもう少しお仕事をお休みされると、昨日おっしゃっていたのでね。
思わず『これはチャンスだ!』と。
久しぶりに出来た私の〈東京の友人〉として、半日お付き合い頂けると嬉しいです」
遠慮がちにではあるが、景光そっくりの笑顔を向けられて言われれば、断れるはずがない。
「わ、私で良ければ…。半日お付き合いさせていただきます」
優しく微笑む諸伏を見て、さくらは照れくさそうに答えた。
キッ!
とある駅から乗り込んだタクシーがタイヤを鳴らして停まった。
後部座席のドアが開くと、諸伏とさくらが順番に降り立つ。
二人が車から降りたことを確認すると、タクシーのドアが閉まった。
「こ、ここは…」
タクシーが走り去った後に見上げた大きな門。
そこには《警視庁警察学校》の大きな文字。
景光・降谷など5人組と、さくらが卒業した母校である。
「ちょっと待っていてください」
諸伏はさくらにそう声を掛けると、看守のところへと足早に向かう。
二言三言話をして、すぐにさくらの元に戻ってきた。
「昨日連絡を入れておいたのでスムーズでしたよ。中に入れます」
行きましょうと言われ、警察学校の敷地内へと足を踏み入れた。
(ま、マズイ…。当時の教官がいたら、私がここの卒業生だとバレてしまう…)
さくらは戦々恐々としながら、諸伏の後ろをついて行った。
校庭の横を通り過ぎようとした時、隅にある小さなベンチが目に入る。
「あ…」
思わずさくらは足を止めた。
(祖母が亡くなって…泣いている姿を誰にも見られたくなくて…。
あそこに座っていた時、声を掛けてくれたのがヒロ先輩だった…)
そして、ヒロ先輩が卒業する日…。
無言でCDを渡されたのも、あのベンチだった。
《空を見上げて、風を感じて》あの歌の入ったCD…。
ザザッ!
風が強く吹いた。
さくらの長い髪が右から左へと大きく揺れる。
卒業の日。
あの時も風の強い日だった。
《好き》
たった二文字の言葉を言えないまま、景光の背中を見送った。
それはたぶん…彼も同じだったと思う。
寮に帰ってCDを聴いた時、そう直感した。
『先輩も好きでいてくれたんだ…』
それが分かっただけで十分だった。
卒業後に背負う使命を思えば、恋愛に現(うつつ)を抜かしている場合ではない。
だからこそ、お互い自分の感情にフタをした。
その分同じ使命を、同じ信念を胸に…——
二人は危険な任務に身を置いたのだ。
遠い思い出…。
なぜか涙は出なかった。
ようやく涙なしで思い出せるほどには、傷が癒えたのだろうか?
それとも自分が薄情になっただけなのだろうか?
景光と話した頃よりずっと古めかしくなったベンチを見て、さくらはそんなことを思った。
「星川さん?」
諸伏が声をかけた。
「えっ!? あぁ…スミマセン。
桜の木がいっぱいだな~と思って。春はキレイなんでしょうね」
「そうですね。桜の花…お好きですか?」
諸伏はさくらの顔を見つめ、問いかけた。
「春の訪れを知らせる花としては好きですけど…儚く散っていく様は…あまり好きではありません」
さくらの顔がわずかに曇る。
春を思わせる柔らかで優しい笑顔。
そしてその笑顔は、たった一発の銃弾によって一瞬で散っていった。
まるで…桜の花が散るように。
風に揺れるさくらの髪は、悲しげな目元を隠す。
それを諸伏は黙って見つめていた。
そこへ男性が近づいてくる。
その事に気付いた諸伏は、そちらへ向き直ると微笑んで会釈をした。
さくらも男性の方を見る。
見た瞬間、声が出そうになった。
(き、教官ッ!)
祖母の死で落ち込んでいた時、自身のミスで訓練中にケガをした。
その時に声を掛けてくれた、あの教官だった。
《番外編「雨のち笑顔」》
しかしここで名を呼ばれたら諸伏に正体がバレてしまう。
さくらはとっさに諸伏の背後から男性と目を合わせると、口元に人差し指を立てた。
男性は目が合った瞬間何かを言おうとしたが、さくらのジェスチャーを見て言葉を飲み込む。
諸伏から「校長先生です」と紹介をされ、お互いに「初めまして」と挨拶をした。
♪♬♫♪~ ♪♬♫♪~
挨拶の後、当たり障りのない世間話をしていると突然、諸伏のスマホが着信を知らせる。
「ちょっと失礼します」
そう言うと諸伏はスマホを片手に、その場を離れた。
「…広瀬。久しぶりだな」
諸伏が二人から距離を取り電話に出たことを見届けると、校長はさくらに声をかけた。
「お久しぶりです。冴島教官。校長になられたのですね」
さくらは先ほどとはうって変わって、笑顔を見せる。
その顔を見て、冴島校長もホッとしたように笑顔になった。
「お前は今、どこで何をしているんだ?
どうして諸伏警部と一緒にここへ?」
在学中からさくらの事を案じていた冴島は、さくらの顔を覗き込む様にして問いかけた。
「申し訳ありません。
最初の質問にはお答えすることができません。
お伝えできるのは…今現在も任務中であるということだけ…」
さくらはそう言って言葉をにごした。
「そうか…」
冴島はすべてを悟ったようだった。
米花町の駅前で待ち合わせた諸伏とさくらは、電車に乗り込む。
通勤通学のピークは過ぎていたものの、車内は少し混んでいた。
座席が空いていなかったので、ふたりは並んで吊革につかまる。
「私のわがままにお付き合いただいて…。
本当にありがとうございます」
「いえ…。でも私で良かったんですか?」
昨日が初対面だったにも関わらず、なぜ一緒に出掛けたいといわれたのか…。
さくらは正直不思議だった。
「もちろん大歓迎ですよ。こちらこそ無理やり誘ってしまって申し訳ありません。
せっかく上京しましたし、一人でぶらぶらするのもちょっと寂しくて。
星川さんはもう少しお仕事をお休みされると、昨日おっしゃっていたのでね。
思わず『これはチャンスだ!』と。
久しぶりに出来た私の〈東京の友人〉として、半日お付き合い頂けると嬉しいです」
遠慮がちにではあるが、景光そっくりの笑顔を向けられて言われれば、断れるはずがない。
「わ、私で良ければ…。半日お付き合いさせていただきます」
優しく微笑む諸伏を見て、さくらは照れくさそうに答えた。
キッ!
とある駅から乗り込んだタクシーがタイヤを鳴らして停まった。
後部座席のドアが開くと、諸伏とさくらが順番に降り立つ。
二人が車から降りたことを確認すると、タクシーのドアが閉まった。
「こ、ここは…」
タクシーが走り去った後に見上げた大きな門。
そこには《警視庁警察学校》の大きな文字。
景光・降谷など5人組と、さくらが卒業した母校である。
「ちょっと待っていてください」
諸伏はさくらにそう声を掛けると、看守のところへと足早に向かう。
二言三言話をして、すぐにさくらの元に戻ってきた。
「昨日連絡を入れておいたのでスムーズでしたよ。中に入れます」
行きましょうと言われ、警察学校の敷地内へと足を踏み入れた。
(ま、マズイ…。当時の教官がいたら、私がここの卒業生だとバレてしまう…)
さくらは戦々恐々としながら、諸伏の後ろをついて行った。
校庭の横を通り過ぎようとした時、隅にある小さなベンチが目に入る。
「あ…」
思わずさくらは足を止めた。
(祖母が亡くなって…泣いている姿を誰にも見られたくなくて…。
あそこに座っていた時、声を掛けてくれたのがヒロ先輩だった…)
そして、ヒロ先輩が卒業する日…。
無言でCDを渡されたのも、あのベンチだった。
《空を見上げて、風を感じて》あの歌の入ったCD…。
ザザッ!
風が強く吹いた。
さくらの長い髪が右から左へと大きく揺れる。
卒業の日。
あの時も風の強い日だった。
《好き》
たった二文字の言葉を言えないまま、景光の背中を見送った。
それはたぶん…彼も同じだったと思う。
寮に帰ってCDを聴いた時、そう直感した。
『先輩も好きでいてくれたんだ…』
それが分かっただけで十分だった。
卒業後に背負う使命を思えば、恋愛に現(うつつ)を抜かしている場合ではない。
だからこそ、お互い自分の感情にフタをした。
その分同じ使命を、同じ信念を胸に…——
二人は危険な任務に身を置いたのだ。
遠い思い出…。
なぜか涙は出なかった。
ようやく涙なしで思い出せるほどには、傷が癒えたのだろうか?
それとも自分が薄情になっただけなのだろうか?
景光と話した頃よりずっと古めかしくなったベンチを見て、さくらはそんなことを思った。
「星川さん?」
諸伏が声をかけた。
「えっ!? あぁ…スミマセン。
桜の木がいっぱいだな~と思って。春はキレイなんでしょうね」
「そうですね。桜の花…お好きですか?」
諸伏はさくらの顔を見つめ、問いかけた。
「春の訪れを知らせる花としては好きですけど…儚く散っていく様は…あまり好きではありません」
さくらの顔がわずかに曇る。
春を思わせる柔らかで優しい笑顔。
そしてその笑顔は、たった一発の銃弾によって一瞬で散っていった。
まるで…桜の花が散るように。
風に揺れるさくらの髪は、悲しげな目元を隠す。
それを諸伏は黙って見つめていた。
そこへ男性が近づいてくる。
その事に気付いた諸伏は、そちらへ向き直ると微笑んで会釈をした。
さくらも男性の方を見る。
見た瞬間、声が出そうになった。
(き、教官ッ!)
祖母の死で落ち込んでいた時、自身のミスで訓練中にケガをした。
その時に声を掛けてくれた、あの教官だった。
《番外編「雨のち笑顔」》
しかしここで名を呼ばれたら諸伏に正体がバレてしまう。
さくらはとっさに諸伏の背後から男性と目を合わせると、口元に人差し指を立てた。
男性は目が合った瞬間何かを言おうとしたが、さくらのジェスチャーを見て言葉を飲み込む。
諸伏から「校長先生です」と紹介をされ、お互いに「初めまして」と挨拶をした。
♪♬♫♪~ ♪♬♫♪~
挨拶の後、当たり障りのない世間話をしていると突然、諸伏のスマホが着信を知らせる。
「ちょっと失礼します」
そう言うと諸伏はスマホを片手に、その場を離れた。
「…広瀬。久しぶりだな」
諸伏が二人から距離を取り電話に出たことを見届けると、校長はさくらに声をかけた。
「お久しぶりです。冴島教官。校長になられたのですね」
さくらは先ほどとはうって変わって、笑顔を見せる。
その顔を見て、冴島校長もホッとしたように笑顔になった。
「お前は今、どこで何をしているんだ?
どうして諸伏警部と一緒にここへ?」
在学中からさくらの事を案じていた冴島は、さくらの顔を覗き込む様にして問いかけた。
「申し訳ありません。
最初の質問にはお答えすることができません。
お伝えできるのは…今現在も任務中であるということだけ…」
さくらはそう言って言葉をにごした。
「そうか…」
冴島はすべてを悟ったようだった。