第3.5章 ~君を想う・君を守る~
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それから数日後(退院から約1週間後)——
さくらは東都大学に顔を出していた。
公安の協力者でもある森教授の所へ挨拶にきたのだ。
リハビリも兼ねて今日は一人。
体力的には調子が良いときの半分くらいにはなっただろうか…。
無理は出来ないが短時間の外出くらいなら、と昴を説得したのだ。
家を出る直前まで昴は『一緒に行く』とゴネていたけれど。
もちろん丁重に断った。
(あんなイケメン連れて学内を歩いていたら、後で学生たちに何言われるか…。
どうせ『足元気を付けろ』だの『無理するな』だの理由をつけて、スキンシップしてくるだろうし…。
《星川さくら》は組織をあざむく仮の姿。
目立つワケにはいかないんだから…)
最近の様子から昴の行動が手に取るように分かる。
想像しただけでも恥ずかしい…。
さくらわずかに顔を赤くしたまま、研究室へと向かった。
「君が無事で良かった。
風見君から連絡を貰った時は、本当に驚いたよ…」
いつもは陽気な森教授も、さくらの顔を見て心底ホッとしたように表情を緩めた。
だが、ようやく一人で出かけられるようになったとはいえ、しばらくは通院も必要な状態には変わりはない。
大学への復帰はもうしばらくかかりそうだ。
教授も事態を把握しており、さくらの事は良く分かっている。
「復帰はいつでもいい。しっかり治して、また元気な姿を見せてくれ」
森教授は優しい笑顔を向けた。
教授への挨拶を済ませ、さくらは研究室を出た。
昴に帰宅連絡を入れようとバッグからスマホを取り出す。
『…でね、…あれ………かな?』
「?」
その時、大学には不釣り合いな子どもの声が聞こえた気がした。
スマホを持ったまま、さくらは周りをキョロキョロと見回す。
「あ! やっぱりそうだ。さくらさ~ん!」
直後に聞きなれた声で名を呼ばれた。
「あれ、コナンくん。どうしたの~?」
声のした方へ振り向くと、コナンと見知らぬ男性がこちらを見ていた。
男性と目が合ったので、軽く会釈をして二人の方へ歩み寄る。
コナン達もさくらの方へと近づいた。
時刻は4時過ぎ。
すでに一日の講義が終わり、多くの学生たちが正門へと向かっていた。
その間を縫うようにして3人は顔を合わせた。
「さくらさん、今日はどうしたの?
まだお仕事には復帰しないんでしょ?」
「ええ。もうしばらくお休みを頂くから、そのご挨拶をと思ってね」
「そうなんだ…。体はどう?」
「うん。だいぶ良いよ。体力はまだまだだけど、短時間なら一人で出歩くのも平気」
退院直後よりだいぶ血色の良いさくらを見て、コナンの顔がパッと明るくなった。
「じゃあさ。さくらさんもこのあと僕たちと一緒にお茶でもどう?」
「え?」
突然のお誘いにさくらは驚いた顔をした。
男性もニコニコしている。
「い、良いけど…。あの…そちらの方は?」
さっきより小さな声で、遠慮がちに訊ねた。
「あっ! ごめんなさい。紹介がまだだったよね。
こちら長野県警の諸伏高明警部だよ。
で、こちらが東都大で森教授の助手をしている星川さくらさん」
コナンが子どもらしい明るい声で紹介してくれた。
(え? 長野県警の…諸伏…?)
紹介を聞いてさくらは固まった。
警察学校時代、景光から警察官の兄がいると聞いていた。
そしてその兄が長野県警にいることも。
ジッと男性の顔を見つめる。
(目元…そっくり…。じゃあ…この人が…)
景光とよく似た目元。
スラッと背が高く知的な感じだ。
口髭が特徴的だが、もし無ければ景光と同様にかなり童顔かもしれない。
諸伏家はそういう遺伝子が備わっているのだろうか。
「あの……私の顔に何か付いています?」
あまりにジッと見過ぎて、諸伏警部が照れくさそうにさくらに声をかけた。
「え? あっ…いえ! す、スミマセン」
恥ずかしくなって慌てて下を向いた。
「えっと…。お二人とも、今日はなぜここ(大学)に?」
目を合わさず、さくらはごまかすように当たり障りのない質問を投げかけた。
「東都大は私の母校なんですよ。
学生時代お世話になった教授が来月退職されると聞いて。
ちょうど休みが取れたものですから、今回はプライベートで上京したんです。
駅前で偶然コナンくんに会ったので、教授のところへご挨拶に伺ったあと、お茶でも飲もうということになって」
「なるほど。それで」
コナンの知名度に驚かされつつ、二人が一緒にいた理由に納得した。
「まさかこんなキレイな方ともお知り合いだなんて。君は本当に顔が広いね」
諸伏の言葉にさくらは赤面する。
「ダメだよ諸伏警部。さくらさんにはステキな恋人がいるんだから」
コナンは意地悪そうな笑みを浮かべ、諸伏を見上げた。
「恋人? それは残念。せっかくこんなキレイな人とお近づきになれたのに」
言葉とは裏腹に、優しく微笑む諸伏の顔を見て、コナンは思わず視線をそらした。
そのあと3人で大学近くのカフェへと入った。
コナンはケーキを目の前にして嬉しそうだ。
お互いに簡単な自己紹介をして、コナンと諸伏警部の出会いや、大学の教授の話で盛り上がった。
「あの《文章作成嫌いの森教授》の助手をされているとは…。
法学部でも結構有名でしたよ。あれで良く論文が認められたものだと…」
「昔はああじゃなかったらしいですよ。
なんでもライバルだった方に、論文の文章を指摘されたことがあったらしくて。
教授曰く、『アイツに内容を指摘されても腹が立つが、文章の言い回しまでケチ付けられるのはもっと我慢ならん!!』のだそうです。
それで、『できるだけ人目に触れるものは自分では書かない』ってへそを曲げたらしくて」
なんだか子どものケンカみたいですね、と諸伏は笑う。
その笑顔は景光にそっくりだった。
さくらは一緒に笑いながら、その顔を懐かしそうに見つめる。
グラスの中の氷が、カラン…と寂しげな音をたてた。
しばらくすると「ボク、ちょっとトイレ!」と言ってコナンが席を外し、店員にトイレの場所を聞きに行ってしまった。
しばし二人の間に言葉は無く、静かな時間が流れる。
日が短くなり、カフェの窓から見える大学の建物は、夕焼け色に染まっていた。
諸伏は手にしていたコーヒーカップを置くと、優しくさくらを見つめ口を開いた。
「星川さん。私…明日昼過ぎの新幹線で長野に帰るのですが、その前にちょっと寄りたいところがあるんです。
ご迷惑でなければ、明日の午前中一緒に行っていただけませんか?」
「え? 私とですか? それは構いませんが…。でも、どちらに?」
「それは行ってからのお楽しみ…という事で」
フフッと口元を緩ませて笑うと、諸伏は再びコーヒーを手に取る。
さくらは不思議そうに彼の顔を見つめ、これ以上は聞いても教えてもらえなそうだな…と、カフェオレを一口飲んだ。
そんな二人の様子を、カフェの大きな柱の陰で、コナンがそっと伺っていた。
夜——
りおは昼間あったことを赤井に話した。
「明日スコッチの兄と出かける?」
意外な人物の名が出て、赤井は面食らった顔をしていた。
「うん。諸伏警部、明日の午後には長野に帰るらしいんだけど、その前に行きたいところがあるって…。
そこに一緒に行って欲しいって言われたの」
「警部はお前とスコッチの関係を知っているのか?」
「たぶん、知らないと思う。
おそらく彼が公安に居た事すら知らされていないし、殉職した事もはっきりとは告げられていないはずよ」
(大学で会ったのは偶然か…それとも…?)
赤井はアゴに手を当てて考えていた。
「行くのは良いが…体は大丈夫なのか?」
「うん。カウンセリングが無ければ疲れないし。
電車やタクシーを使うらしいから大丈夫」
それでも退院したばかりだ。体力があまりない。
その上スコッチの兄に会うというのも、赤井は心配だった。
とはいえ危険があるわけでもなさそうだし、ヘンに反対するのもおかしい。
そもそもダメだと言ったところで、絶対に聞き入れない気がする。
「分かった。だが条件がある。
スマホのGPSをONにしておくこと。
後をつけるとまでは言わないが、近くに待機している。
それと…悪いが盗聴器を付けさせてくれ。
発作を起こしたり、体調に変化があればすぐ駆けつけられるだろう?」
「相変わらず心配性ね……秀一さん。
でもその方が私も安心かも。警部に迷惑かけてもいけないしね」
今の状態が決して万全ではない事はりおも分かっている。
赤井の提案を素直に飲んだ。