第3.5章 ~君を想う・君を守る~
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その日の夜——
二人は入浴を済ませ、ソファーに並んで座った。
りおは赤井の右腕にノエルからもらったチェーンブレスレットを付ける。
「良かった。女性用だから付けられるか心配しちゃった」
アジャスター部分が長かったおかげで、赤井の手首にブレスレットを付ける事が出来た。
「これで…おまじない完了か?」
半信半疑という顔で、手首に付けられたブレスレットを赤井は眺めた。
「まさか。ここからおまじないを掛けるからね」
そう言ってりおは赤井の首に腕を回す。
「ッ! ち、近い…」
抑えが効かなくなったらどうするんだ! と赤井は心の中でツッコんだ。
そんな赤井の焦りも知らず、りおは赤井の耳元に唇を寄せた。
「秀一…」
「?!」
突然耳元で呼び捨てにされ、赤井の心臓がドキリと跳ねる。
「私はあなたを忘れていない。大丈夫。
愛してるわ…秀一さん」
吐息が耳にかかる距離で甘くささやかれた。
僅かにりおの唇が耳たぶをかすめる。
背中にゾクリと欲が走った。
そのまま唇は赤井の耳を離れ、ブレスレットが付けられた方の腕に触れた。
ひじの内側の柔らかい所に、りおがキスをする。
ちゅっ!
「ッ!」
そのまま強く肌を吸われた。
りおの唇が離れると、僅かにうっ血の痕が付いている。いわゆるキスマークだ。
りおは場所をずらし、もう一度吸い付く。
ちゅくっ!
「ふッぅ!」
思わず声が出てしまう。
普段ならこんなところ感じるはずがない。
どうやら心とは裏腹に、体の方はかなりキているようだ。
りおは唇を肌につけたまま、今度は何度か唇で食むように愛撫をすると突然、キスマークを舐めた。
ぺろ…
「ッ!」
最初は短く。
触れるだけのキスをして、またそこを食むように愛撫する…。
少しずつ場所をずらし、愛おしそうにゆっくりと赤井の腕に触れるりおを見て、赤井の呼吸数は僅かに上がった。
やがて行為は次第にエスカレートして、今度は手首からひじの近くまで、つぅーーっと長いストロークで舐めあげた。
「うぁッ! りおっ! そ、それ以上はダメだっ!」
体に湧き上がる熱をどうにかしようと、赤井は短い呼吸を繰り返す。
「あ、ごめん。つい…」
りおは顔をあげて申し訳なさそうに笑う。
(おいおい…わざとじゃないのか?)
こっちの気も知らないで…。
ドッドッと早鐘のように打つ鼓動を感じながら、赤井は大きく深呼吸をした。
「これで私はあなたのそばに居るわ。
目が覚めて不安になったらこのキスマークを見てね」
(なるほど。このキスマークを見れば否応なく今の行為を思い出し、お前が俺を忘れていないと自覚できるというわけか)
りおの意図を正しく察した赤井は、小さくうなずく。
「じゃあ、これで明日の朝どうなるか…。
楽しみだな」
赤井は僅かにくすぶる熱をごまかすように、笑顔を向けたのだった。
真夜中——
赤井は夢を見ていた。
降谷と二人、扉を開けてりおの病室に入る。りおは降谷とにこやかに会話を始めた。
日本語が分かるはずなのに、何を話しているのか理解できない。
会話に入れず、楽しそうな二人をボンヤリと眺めていた。
やがてりおが赤井に気付く。
視線をこちらに向けた。
りおのアンバーの瞳と目が合う。
だが、その目は知らない人を見る目だ。
(ッ! そんな目で…俺を見るな…)
赤井は目をそらしたいのに、アンバーの瞳から目を離せない。
はちみつ色に輝く宝石。
自分を見つめるその美しさに心奪われた。
「私…本当に覚えていなくて…」
りおの言葉にハッと我に返った。
続く言葉を自分は知っている。
もう二度と聞きたくない。
(やめろ…それ以上何も言うな…)
そう何度も懇願するのに、りおの唇は非情な言葉を発する。
「あの…どちら様ですか?」
「ッ!!」
その言葉を聞いて目の前が真っ暗になる。
赤井はシャツの胸元を握り閉め、床に膝をついた。
引き裂かれるような胸の痛み。
「お前の口からそんな言葉聞きたくない!
やめろ! やめてくれ!」
そう叫ぼうとして目が覚めた。
「また…か」
小さくつぶやいて、はぁはぁと短い呼吸を繰り返す。
汗だくになった体を起こした。
胸の奥の方に、痛みとも乾きともいえない不快感が残る。
起きたばかりの時は夢だと分かっているが、リアルに残る胸の不快感は、時間を追うごとに不安を募らせる。
夢だったのか現実なのか。
いつも分からなくなる。
「ふぅ…」
一つため息をつき、右手で顔の汗を拭った。
チャリ…
かすかなチェーンの音に気付き、ベッドサイドの小さな電気をつけて右腕を見た。
アンバーとシトリンのチェーンブレスレット。
寝る前にりおが付けてくれたものだ。
『良かった。女性用だから付けられるか心配しちゃった』
嬉しそうにブレスレットをつけてくれたりおの姿が脳裏に浮かぶ。
ライトに照らされるアンバーのビーズは、りおの瞳と同じ色。
優しい輝きを放っている。それは笑った時のりおの瞳に似ていた。
フッと赤井の口元がゆるむ。
次に見えたのは腕に付けられたキスマーク。
『私はあなたを忘れていない。
大丈夫。愛してるわ…秀一さん』
そうささやいたりおの声を、吐息を、思い出した。
思わず腕のキスマークに触れる。
そっと撫でると、
『…秀一さん…』
優しく自分の名を呼ぶ声が聴こえた気がした。
しばらくそうしていると、先ほどまでの胸の不快感も不安も、ウソのようにスッと消えていった。
(お前のおまじないはすごいな…)
ラクになった胸元をさすり、赤井は思わず笑みをこぼした。
「はぁ~~~…」
上を向き、大きく安堵のため息をつく。
今日はこのままゆっくり眠れそうだ…と赤井は思った。
再びベッドに潜り込んで目を閉じる。
すぐに睡魔がやってきた。
ウトウト…としたところで、りおに腕を舐められたことを思い出す。
「??!」
腕の柔らかいところを強く吸われ、ひじ近くまでつぅーっとなめられた情景がリアルに思い出された。
肌に感じたりおの吐息
柔らかくて温かい唇と舌の感触
「ッ!!」
再び体に熱が溜まる。
(りおのヤツ~~っ! …覚えておけよ…)
今度は別の煩悩で眠れなくなった赤井は、やけくその様に勢いよく布団をかぶった。
翌朝——
「秀一さん…おはよ。
簡単なものだけど…ご飯できたわ。起きて」
りおの声で起こされた。
「ぅ……ん…」
起きようとは思うのだが、赤井の目はまったく開かない。
「んん……今…何時だ?」
「もうじき7時よ。朝食にしましょう」
「え、7時?!」
さっきまで開かなかった目がパチリと開いた。
小学生は間もなく登校する時間だ。
いつもならとっくに変装を終えている時間でもある。
赤井は飛び起きて時計を見た。
確かにあと数分で7時だ。
(そうだ…あのあと悶々としてなかなか寝付けなかったから…)
チラリと赤井はりおの顔を見る。
当の本人はそんな事とは知らず、涼しい顔をしていた。
(お前のおかげでこっちは欲求不満が溜まったぞ…)
ホントに人の気も知らないで…と、ため息をついた。
だが、久しぶりに明るい気持ちで朝を迎えることが出来た。
「おまじない、効果あった?」
部屋のカーテンを開けながらりおが訊ねた。
「ああ。十分効果あったよ。
だが…お前の体力が万全になったら、この礼はたっぷり体で返すからな」
「え? それってどういう意味…」
りおがそう質問する前に、赤井はベッドから起き上がると「飯にしよう」と言って、部屋のドアを開けた。
その顔がわずかに赤くなっていることに、りおは気付いていた。
(ちょっと…やり過ぎちゃったかな。
でも私だって同じ日数、秀一さん不足だって分かっているのかしらね?)
そんなことを考えながら、りおは赤井の後を追った。