第3.5章 ~君を想う・君を守る~
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ウェストホールディングスの事件後、入院していた警察病院からりおが退院して数日が経過した。
今回の事をきっかけに、二人は再び一緒に暮らす事を決めたのだが…。
赤井のりおに対する《態度》は以前とはだいぶ変わったようだ。
恋人というよりは『保護者』と言っても良いかもしれない。
『りお、もう少し食事を取らないと体力がもたんぞ』
『湯冷めをするからもう一枚羽織れ』
『読書も良いが体の為に早く寝ろ』
などなど…。
あげればキリが無い。
口調が違うだけで、日中は昴仕様で同じようなことを言っている。
つまり、昼夜を問わず『ああしろ』『こうしなさい』なのだ。
確かに…そうなってしまうほど心配をかけてしまったのだから、仕方がないのだけれど。
りおはソファーに座ったまま、家事をこなす昴のうしろ姿を見つめる。
(まあ…今までの事を考えると、平和な悩み…なんだけどね)
読んでいた本に視線を落とし、ため息交じりに小さくつぶやいた。
そうは言っても、今の自分にとってはかなり重要な案件だ。
今日も朝食後、洗濯物を干そうとしたら「ここは良いから座ってなさい」と注意された。
一緒に暮らす事を決めたのだから、家事は分担すべきだと思っている。
前に一緒に暮らしていた時も、そうしていたはずだ。
いつまでも病人扱いでは困る。
本を置きクッションを抱えたまま、この状況をどう打開するかりおは考えていた。
「りお。どうしてそんなに難しい顔をしているのです?
どこか具合でも悪いのですか?」
洗濯物を干し終えた昴が、心配そうにりおの顔を覗き込む。
「具合が悪いわけでは無いです…。ただ納得していないだけで」
「納得?」
りおの言葉の意味が分からず、昴は同じ言葉を復唱する。
「昴さん。最近私を甘やかし過ぎではありませんか?
もう病人でもけが人でも無いのですから。
そこまで過保護にしなくても大丈夫ですよ」
不満そうな口調で抗議するのを、昴は黙って聞いている。
すべてを聞き終わると「フム」とアゴに手を当てて、りおの顔をジッと見つめた。
「つまり、あなたに対する私の対応が気に入らないと?」
「まあ…早い話がそういうことです。
一緒に暮らすと決めたのですから、全部昴さんが背負い込むことはないんですよ?」
りおとしては自分と一緒にいることで、昴(赤井)に負担を掛けたくないのだ。
お互いに仕事を持っている。
今は療養中とはいえ、まったく動けないわけでもない。
むしろリハビリとして、少しずつ動きたいと思っていた。
「なるほど。あなたの言いたいことは分かりました」
昴はほんの少し表情を緩めると、りおの隣に腰かけた。
「ふう…」
すぐには目を合わさず、一つため息をこぼす。
しばらく考え込んでいたようだったが、ふいに視線を上げると真っすぐりおの顔を見た。
「少し…あなたに干渉しすぎましたね。それは謝ります。
ただ…私の言い分も聞いてくれますか?」
「昴さんの言い分?
過保護になってしまうのは…私が…あなたを忘れてしまったから…ですよね?」
昴が自分に執着するのは、一時的とはいえ赤井の事を忘れたせいだろう。
それは薄々感じていた。
「ええ…。あなたに『どちら様?』と言われたことは…自分が思っていた以上にショックだったようです。
実は…その時のことを毎日夢に見るんですよ」
「え?」
初めて知る事実にりおは驚いた。
毎日夢に見る?
返す言葉も無く、今度はりおが目をそらした。
「驚きました?
たった数日、あなたに忘れられただけでこのザマです。
女々しい男でしょう?」
昴は自嘲気味に笑う。だが、りおは笑う事など到底出来なかった。
「朝その夢で目が覚めて、何とも言えない後味の悪い感覚が残ります。
夢か現実か区別がつかない…と言ったらいいでしょうか。
そんな時は、そっとあなたの部屋をのぞいて、あなたがココ(工藤邸)にいることを確認すると、ようやく《夢だった》と安心するんですよ。
だから…朝あなたの笑顔を見ると、あなたの心や体の負担になる事は避けようと…無意識のうちにそう思ってしまうみたいで。
それでつい口うるさく、注意ばかりしてしまったかもしれません」
申しわけなさそうに昴は説明してくれた。
「それで…あなたにイヤな思いをさせてしまったなら…謝ります」
膝の上に置かれた昴の手は、ぎゅっと握られていた。
「ご、ごめんなさい。あなたのことをこんなにも…傷つけていたのね…」
昴のここ最近の行動の裏に、こんな思いを抱えているとは…。
りおは申しわけない気持ちでいっぱいになった。
「あなたが悪いわけではありません。
そばに居ながら、あなたの心が限界を超えるまで見て見ぬふりをした私の責任です。
すべては自分が招いたこと…。
だから…謝らないでください」
昴の悲しげな顔を見ると余計に切なくなった。
「それなら…夜は一緒に寝ませんか?
隣に居れば不安にならないでしょう?」
りおは昴の手に自分の手を重ねた。
自分が昴に出来ることは———
そばに居て、『あなたの事は忘れない。忘れていない』と繰り返し伝えることくらいしか思いつかなかった。
「魅力的な提案ですが…今はまだやめておきます」
「えっ? なんでですか?」
昴の返事が《拒絶》のように思えて、りおは泣きそうな顔で昴を見つめる。
「あ! いや、私も出来れば一緒に寝たいですよ?
でも…あなたの体のことを考えると…」
「私の……体?」
涙目になりながら自分を見つめるりおの肩を、昴はそっと引き寄せた。
「あ~~…、りお。私が何日あなたを抱いていないか知っていますか?
警察病院には2週間近く入院していたのですよ?
それ以前も、あなたの体力は限界ギリギリだった。
そんなあなたを無理やり抱くほど、私は鬼畜ではありませんよ」
少し顔を赤くして、昴はゴホンと咳ばらいをした。
りお本人は涙目のまま、ぽかんと口を開け、真っ赤になって固まっている。
「な、なんか…ホント…いろいろ…ごめん」
りおは何と言って良いか分からず、ただ謝ることしか出来ない。
「い、いえ。良いんです。
今のあなたの体力は調子が良い時の半分以下。おそらく2階へ上がる事だってキツイはずです。
夜一緒に同じベッドにいたら…私は自分を抑えられる自信がありません。
ですから…もう少し体力が戻るまで…。
それまでは別々で。体調が良くなったら…その時はぜひ一緒に寝てください」
昴はりおの肩を抱いたまま、こつんと頭を寄せた。
「…うん…分かったわ」
昴の気遣いに、りおも頬をすり寄せた。
「でも、今の不安を取ってあげるにはどうしたら…。あ! そうだ!」
突然りおが何か閃いたように、昴から体を離し立ち上がった。
ちょっと待っててね、と言ってリビングを出る。
やがて、考えるようなそぶりをしながらゆっくりと戻ってきた。
「手持ちのアクセサリーってあなたに買ってもらった《ピアス》と、自分で作った《ネックレス》と、この《ブレスレット》の3つしかなくて…。」
そう言いながら、チャリ…と金の細いチェーンブレスレットを昴に見せた。
「これ…実はノエルに買ってもらったの。
観光案内を頼まれて、公安警察が張り込みをしている中、東都タワーやショッピングモールへ二人で行った時に。
『君の瞳と同じ色だったから』って」
「エヴァンから?」
「うん。さすがに…あなたの前でこれを付けるのはちょっと気が引けて…。
引き出しにしまってあったんだけど。
夜寝るときに、私があなたの腕にこれを付けてあげるわ。
私の瞳と同じ色のブレスレット。おまじないと一緒にね」
他の男からのプレゼントと聞いて若干のジェラシーを感じたが、自分の事を気にして引き出しにしまってあったと聞けば、それはそれで少々エヴァンが可哀想になった。
りおの手のひらに視線を落とす。
瞳と同じアンバーのビーズがきらりと光る。
一緒に揺れるシトリンも、日に透けた時のりおの瞳にそっくりだった。
「このブレスレットで…私に暗示をかけてくれるのですか?」
興味ありげに、昴はりおの顔を覗き込む。
りおは「そんなに期待しないで」と片手をひらひらと小さく振った。
「暗示…と言って良いのか…。おまじない程度よ。
私がそばにいなくても安心できるようにね。
効果があるかどうかは分からないけど…まずは試しに…ね!」
何か妙案があるらしい。
りおはニコリと微笑んだ。