第3章 ~光と影と~
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コンコン
「どうぞ」
りおの声で返事が返ってきた。
ガラガラと音を立ててドアを開ける。
病室へ二人の男が入ってきたことに、りおは不思議そうな顔を向けた。
りおの話し相手をしていた看護師が立ち上がる。
「じゃあ、私はこれで。何かあれば広瀬さん、ナースコールを押してくださいね」
看護師は二人に会釈をして病室を出て行った。
部屋には赤井と降谷、そしてりおだけになった。
「あ、あの~…ふ、降谷先輩…ですよね? どうして私の病室に?」
(警察学校の時から俺を知っていた、と言っていたな…)
先輩と呼ばれて、以前K国にバーボンとラスティーとして出国する際に、そんな話をしたことを思い出した。
「あ、ああ。君は忘れてしまっているが、今俺は君の上司なんだ」
「あ! す、すみません…。そうみたいですね。
私もさっきドクターから聞いたばかりで…」
降谷の言葉を聞いてりおは申し訳なさそうに謝った。
「でも、本当に何も覚えていないんです。
警察学校を卒業して公安部に配属になった事は覚えているのですが…その後何をやっていたのか、まったく…」
アンバーの瞳が辛そうに揺れていた。
「じゃ、じゃあ…君はこの男の事も…覚えていないのかい?」
降谷は自分の後ろにいた赤井に視線を移す。
りおは降谷の視線の先にいる男性をじっと見つめた。
「さっき、病室に来られた方ですよね?
私の事『りお』って呼んでいらっしゃった。
でも…ご、ごめんなさい。失礼ですけど…どちら様ですか?」
「ッ!」
『どちら様ですか?』
その言葉が自分に向けられていることに、赤井はショックを受けた。
こんなに近くにいるのに、りおが遠くに感じる。
目を合わせることが出来ず、唇をかみしめた。
しばらく沈黙があってから赤井は口を開いた。
「わ、私は…FBI捜査官…赤井秀一です」
「FBIの方? 私…FBIの知り合いがいるのですか?」
その言葉にいたたまれず、赤井は踵を返すと黙って部屋を出て行く。
「お、おい! 赤井!!」
降谷は赤井を追うように病室を出る。
たった一人取り残されたりおは、赤井という男性が目に涙を浮かべていたことに気付き、動揺していた。
「まてよ! 赤井!」
病院の屋上へと出た赤井を降谷は追いかけた。
まだ小雨の降る屋上のフェンスの前で、ようやく二人の足は止まる。
細かい雨粒が赤井の帽子とシャツを濡らした。
「見るなっ!!」
追いかけてきた降谷に、赤井は叫んだ。
左手の拳でフェンスを思いっきり殴ると、水しぶきが飛ぶ。
そのまま赤井はフェンスを掴んだ。
「見ないでくれ…」
こちらを振り返らない赤井の肩は震えていた。
「あ、赤井…」
この男のこんな姿を初めて見た。
沈着冷静で口数が少なく、感情をあまり表に出さない。
正直何を考えているのか分からない。
それが今まで降谷が感じてきた赤井という男だ。
それが広瀬に『どちら様?』と言われた事にショックを受け泣いている。
正直、かける言葉が見つからない。
この男がーー
こんなに分かりやすく傷ついているというのに…。
何も言えず黙っていると、降谷の後ろで大きな音がした。
ガタタンッ!
振り向くとそこには、部屋を出てきたりおがいた。
「ひ、広瀬! お前何やってるんだ!!」
ふらふらとおぼつかない足取りで、点滴のスタンドにしがみつくようにして歩いてきたようだった。
降谷の声に赤井も振り向く。
「広瀬! お前3日も昏睡状態だったんだぞ。
しかもさっき目を覚ましたばかりだろう! こんなところまで出て来て…」
そう言いながら降谷はりおに触れようとした。
だが、りおはまっすぐ赤井を見つめ、ふらふらとしながら赤井の元まで進んでいく。
その様子を見て、降谷はそれ以上言葉をかけることも、ましてや触れることも出来なかった。
カラカラとスタンドの音が響く。
あと少しで赤井の元にたどりつく…その時、ガクッと膝の力が抜け転びそうになった。
「ッ! りおっ!」
赤井が慌てて手を差し伸べ、すんでのところで抱き留めた。
ふわりと赤井の吸っているタバコの香りと、石鹸の香り。
そして赤井自身の優しい香りがした。
(あ…私…この人を…知ってる…)
そう、直感的に感じた。
りおはそのまま体の力を抜き、赤井に身を委ねた。
「りお?! おい! 大丈夫か?」
突然、りおの体から力が抜けたために、赤井は意識を失ったのかと焦っていた。
そんな赤井の焦りも知らず、りおはゆっくりと顔を上げ、赤井の顔を見た。
キレイなペリドットの瞳。
そこには薄らと涙がたまっていた。
そっと手を伸ばしてその涙を拭う。
そのまま赤井の頬を撫でた。
りおの行為に赤井は驚き、目を見開く。
「ごめんなさい。あなたの事を覚えていなくて。
でも、私はあなたを知ってる。絶対に忘れちゃいけない人だって。
なのに…なのに……ごめんなさい」
りおの目にも涙があふれていた。
「お願い…泣かないで。ちゃんと思い出すから。
きっと私にとって、あなたは忘れちゃいけない人なの。必ず思い出すから…。
だから…泣かないで…」
りおは両腕を伸ばして赤井の首にしがみつく。
「りお…っ」
赤井も名を呼びながらりおの体を抱きしめた。