第3章 ~光と影と~
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翌日——
雨が病室の窓を激しく叩いていた。
「今日は一日雨か…」
赤井は窓から外を眺めていた。
午前中だというのに、灰色の雨雲のせいで外は日暮れの様に暗い。
ザアザアと激しく降る雨の音が、静かな病室に響いた。
りおを見ると、それまでと変わらず眠っている。
赤井は看護師にりおを頼むと、着替えを取りに一旦工藤邸に戻ることにした。
工藤邸に着きシャワーを浴びる。
洗濯機を回し、着替えを用意した。
たまっていた新聞にもザッと目を通す。
りおが意識を失ってから、すでに3日が経っていた。
新聞はCEO逮捕の記事が連日一面を飾っている。
「3日か…。そろそろお前に会いたいよ」
一向に目を覚まさないりおの姿を思い出し、赤井は寂しさを覚えた。
手を伸ばせば、すぐ触れられる距離にいるのに。
声が聴けない。
アンバーの瞳に自分が映らない。
自分に笑いかけてくれない。
当たり前にあったことが、こんなにも…
こんなにも尊いものだったのかと思い知らされた。
「はぁ…」
重いため息をつき、新聞を片付けた。
りおが入院しているのは警察病院。
そのため赤井も『沖矢昴』には変装せず、顔を隠すくらいの簡単な変装のみでいられる。
Tシャツに長袖シャツを羽織り、下はブラックデニムというラフな格好だ。
サングラスと帽子を身に着け、荷物をまとめて玄関を出ようとした時、赤井のスマホが着信を知らせた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
病院に着くと、赤井は大急ぎで病室へと向かう。
ガラッ!
病室のドアを開けるとベッドに体を起こし、ドクターと話すりおの姿が見えた。
「りおっ!」
思わず声をかけるが、
「し~っ! 赤井さん。ちょっとこちらへ」
看護師が部屋へ入ろうとした赤井の体を止め、廊下へと一緒に出るように促した。
「今、ドクターが診察しています。しばらく外でお待ちください。
広瀬さん、ちょっと記憶が混乱しているようです。
詳しい話は診察後にドクターからあると思いますので…」
フロアの談話室にいるように言われ、仕方なくそこでドクターが出てくるのを待った。
しばらくするとバタバタと廊下を走る足音が響き渡る。
こちらの姿を見つけたのか、足音の主が近づいてきた。
「赤井! 広瀬が目を覚ましたと聞いたんだが…」
「降谷くん…。俺も着替えを取りに戻った時に連絡が来たんだ。
今ドクターが診察中で、ここで待機している。
看護師が言うには少々記憶が混乱しているらしいんだが…。詳しくはまだ分からない」
赤井の説明を聞いて、降谷は「そうか」とつぶやくと、隣の席に腰を下ろした。
「3日か…長かったな」
降谷は小さくつぶやいた。
「ああ…。このまま目を覚まさないんじゃないかと心配したよ」
前にも一度あったがなと、赤井は安堵の笑みをうかべながら答えた。
「あとは…どの程度影響が残ったか…だな。
相当無理をしていた。分かっていたのに…何もしてやれなかった」
降谷は顔の前で組んでいた両手にグッと力を入れた。
「それは俺も同じだ。悪夢にうなされて飛び起きる所を見ていながら…。
無理やりにでも新出先生の所で治療をさせていれば…」
下を向き、赤井は目を閉じた。
15分程待ったところで、先ほどの看護師が談話室に顔をのぞかせる。
「広瀬りおさんの関係者の方…あ、いらっしゃいましたね。
ドクターがお話あるそうです。カンファレンス室へご案内いたします」
二人は顔を見合わせ立ち上がった。
カンファレンス室で赤井、降谷そしてドクターが向かい合うように座ると、ドクターは二人の顔をじっと見た。
そして意を決するかのように一呼吸置くと、静かに話し出した。
「まず広瀬さんの体調ですが、点滴と休息によってだいぶ快方に向かっています。
食欲も少しありそうだったので、今日の昼食からお粥を召し上がってもらうことにしました。
食べられるようでしたら、徐々に常食に戻していきます」
良い知らせに二人の顔は自然と笑顔になった。
「ただ、心の方なんですが…」
そう前置きするとドクターは苦し気な表情を見せた。
「何か…よくない事でも?」
なかなか説明を始めない事にしびれを切らし、赤井がドクターに問いかけた。
「大変申し上げにくいのですが…広瀬さんのここ数年の記憶がスッポリ抜け落ちています」
「「え?!」」
「いわゆる『解離性健忘症』です。
広瀬さんの場合は、度重なる心的外傷体験が要因ですね。
治療としては薬を使って記憶を取り戻す手助けをすることで、早期に記憶が戻る場合もあります。
数日で思い出すこともありますし、何年もかかって少しずつ思い出す方もいます」
ドクターの説明を聞き、二人は言葉を失った。
「ど、どれくらいの期間の記憶が…無いのですか?」
ようやく絞り出すように赤井が訊ねた。
「先ほど話した様子だと…7~8年ほどでしょうか?
『自分は警察学校を卒業したばかりだ』とおっしゃっていましたから」
警察学校を卒業した頃まで記憶が無いとすれば、りおに赤井の記憶は全く残っていないことになる。
あまりにショッキングな現実に、赤井は声も出ない。
イスに座ったまま動けなくなってしまった彼に、降谷はかける言葉が見つからなかった。
「まずはお会いになってみてください」
そうドクターに言われ、赤井は力なく立ち上がる。
二人は病室へと移動した。