第3章 ~光と影と~
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「組織はノエルを殺す気が無い? どういうことですか?」
りおは無理やり病院を退院し、工藤邸に戻っていた。
家に着いてすぐ、話があると言ってソファーに腰かけると昴に向かって自分の考えを伝えた。
「ノエルとジンはかなり密に連絡を取っていたわ。私たちにも分からないように。
アジトではほとんど彼らと会っていない。西村殺しの直前も、二人はアジトではなく外で会っていた。
おそらく、ジンにとって依頼主であるウェストホールディングスはあくまでビジネスパートナー。
お金になるかどうかってだけだと思うの」
りおの話を聞き、昴は身を乗り出すようにして問いかける。
「ノエルは死の覚悟をしていました。組織ではないとするなら、誰に命を狙われるというのですか?」
「CEOの護衛…よ」
「護衛?」
りおは視線を落とし、一瞬押し黙った。
「……CEOは誰も信用していない。お金以外は。
お金で雇った護衛を置いているのよ。ただの護衛じゃないわ。中東や南米でかつてゲリラ活動を行ってきた傭兵よ。
いくらあなたたちFBIがたくさんの訓練を積んできたとはいえ、相手は戦争のプロ。
それが一人二人じゃない。いくらノエルといえども、たった一人でCEOを殺すには…」
「捨て身の作戦しかない…ということですね」
「ええ、そうです」
りおはそう答えると目を閉じ下を向いた。
「いつからその情報を掴んでいたのですか?
組織の事も。傭兵の事も」
「西村殺害前から、ノエルとジンがやけに行動を共にしている事が気になってた。アジトには二人揃っていなかったし…。
ノエルに日本にいる間だけ仕事を手伝わせるって、よく考えるとおかしいでしょう。
よほど旧知の仲でなければ、あのジンがそんな事するとは思えない。
傭兵の事は、ノエルがCEOを狙うんじゃないかって分かってから、CEOの周辺を調べたの。
そしたら…以前からボディーガードとして傭兵を雇っていたらしくって。
ここ数日ウェストホールディングスへの外国人の出入りが多いのも事実」
「それらを総合的に判断して、結論付けた…と?」
「ええ。もちろんその考えに至ったのは、ついさっきだけどね」
さすが日本警察。国内の情報収集はお手の物だ。
「さっき降谷さんにも同じ情報を伝えたんだけど…。
彼が危惧しているのは、国内で『戦争』が始まるんじゃないかって事なの」
「!?」
穏やかでない言葉に、昴はギクリとした。
「そ、そうか…相手は外国人の傭兵…戦争のプロだ。そんな奴らがノエル相手とはいえ、銃器類を大量に使ったら…」
「ええ。あたり一帯戦場と化すわ。この日本でそんなことさせるわけにはいかない。
CEOに進言して、なんとか日本警察が護衛をするって打診しているようなんだけど…」
「ダメなのか?」
「護衛をするなら勝手にやれと。自分の身は自分で守るって言って聞かないらしいの」
「戦争を回避するには、ノエルを止めるしかないのか…」
果たして、自分の信念を貫こうとしているノエルを止めることが出来るのか?
昴はりおの肩に手を置き、自分の元へと引き寄せた。
「戦争を回避するだけじゃないよ。ノエルも死なせない。CEOも」
りおは昴の手に自分の手を重ね、そうつぶやいた。
2日後——
厳戒態勢となったウェストホールディングスCEOのお屋敷は異様な光景だった。
敷地内は何十人もの外国人が迷彩服を着て、警備している。
その敷地の外側に日本の公安警察が待機しているという二重の警備。
明らかに常軌を逸していた。
CEOは降谷を屋敷の中へと呼ぶと、彼に冷たい視線を送る。
「やあやあ、警察の方。今日もご苦労様ですね。
あなた方のお気持ちは大変ありがたいが、私には屈強なボディーガードが多数いる。
まあ、どうしてもというなら、敷地の外で待機するのは構わないですよ。その代わり私のやり方にケチをつけては困ります。
何しろ私の命がかかっているのですから」
琥珀色の液体をのどに流し込みながら、CEOは口調だけは柔らかく降谷に釘を刺した。
「承知しました。ただここは日本。日本のルールに沿った行動をお願いいたします。
私たちもあなた方に手錠はかけたくありませんから」
降谷は冷たくそういうと、応接室を出て行った。
「生意気な若造だ」
降谷の態度に、CEOは苦虫をつぶしたような表情をした。
「おーおー。たくさんいるねぇ…」
ノエルは屋敷が見下ろせる、とある小さなビルにいた。双眼鏡を使って警備の様子を伺っていた。
「強行突破は難しいかな~。とすると…西側の狭い路地から侵入するか…だが、見つかると逃げ道は無い…な」
その時ノエルのインカムからジンの声が聞こえた。
『コルンとの勝負はお前の勝ちだな』
「ジンよ、お前の仲間は大丈夫か? あんなポンコツばっかりじゃ、お前も苦労するな」
『うるせえよ。お前が優秀すぎるんだろうが』
明らかに腹立たしく舌打ちをしてきた。
「まあ、そう怒るな。お前との付き合いもこれで最後だな。
まさかNYで助けたヤツが組織の幹部になっているとは、夢にも思わなかったよ」
ずいぶん昔、まだFBI捜査官をやっている頃、スラム街にふらりと現れた男がジンだった。
ヘマをやって大ケガをしていたところを助けた。
見つけた場所が場所だっただけに、どこぞやのチンピラかと思っていた。その時はお互い名も名乗らなかった。
そいつがいつの間にか組織の幹部となり、シュウに撃たれた俺を助けてくれた。
『ふん。これでお互い貸し借りナシになったな。
おっと、そうだ。屋敷の敷地内に爆弾を一つ仕掛けてある。爆発は1時間後。
その混乱に乗じてCEOを殺るなら殺れ。俺からの餞別だ』
「Thank you. 世話になったな、ジン。じゃあな」
ノエルはジンとの通信を切った。
CEOは組織にノエルの始末を頼んでおきながら、傭兵を多数呼び寄せ、自身をガードさせていた。
はなから組織を信じてはいなかったのだ。
そのことをジンも感じ取っていた為、本気でノエルを始末しようとは思っていなかった。
あわよくば、金を搾り取るだけ搾り取ってしまおうと考えていたほどだ。
「ウェストホールディングスとの取引はこれっきりだ。
昔組織と馴染みだったというんで、甘い汁を吸わせてやったが…新薬も失敗したようだし、『これ以上の介入はするな』とあの方からのご命令だ。
ノエルの手にかかり、地獄へと行くがいい」
ジンはいつもの様にニヤリと笑う。
ただその笑いが一瞬で消えたことに、そしていつにも増して強い酒を飲んでいることに気付いたのは、ウォッカだけだった。