第3章 ~光と影と~
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翌日——
りおは病院のベッドで眠っていた。
救急搬送中に一度意識を回復したが、連日の睡眠不足により体力的には限界だった。
精神安定剤の点滴をしているため今は眠っている時間が長い。
体が限界だったせいもあり、深く眠っていて悪夢も見ないのか、久しぶりに穏やかな寝顔を見せていた。
(ここのところ、まともに眠っていなかったからな。ゆっくりおやすみ)
昴はりおの隣でそっと頬に触れた。
コンコン
「どうぞ」
ドアのノックに、昴は返事をして立ち上がる。
ガラッ
「ッ!」
入ってきたのは…ノエルだった。
コツコツとりおに近づくと顔を覗き込んだ。
「すっかりやつれちまったな」
「良くここが分かりましたね」
昴はノエルの顔をまっすぐ見て言った。
「なに、ちょっと調べればすぐわかる。
新田を見つけたのも…どうやらさくららしいな。
俺との電話で気付いたのか。さすがだな」
「それより、新田はCEOの親族。そいつを殺したんだ。いよいよ組織に狙われるぞ」
昴は厳しい口調だ。
だが、そんなことは意に返さないとでも言いたげな表情で、ノエルは昴を見る。
「それならご心配なく。CEOはその親族も切るつもりだったんだ。すべては依頼主の思惑通りさ。
うだつの上がらない新田が、昔からジャマだったみたいだからね。
さらに言えば、ウェストホールディングスは製薬事業からの撤退を考えているんだ。
サカモト製薬の事件で、世の中の製薬会社への目は厳しくなった。
さらに今回の新薬の失敗。これ以上傷口を広げないためにね」
ノエルは折り畳みの椅子を一つ出してくると、そこにドカッと座った。
「無許可で行った実験の罪をすべて清里、西村、村中、新田の4人に押し付け、その天誅をミシェルが下す。自分は知らぬ存ぜぬさ。
頃合いを見て事業をたためばCEOは何も手を汚さずに、粛清と事業立て直しが出来るっていうのが今回の筋書きさ。
もちろん、筋書き通りに終わらせるつもりは…ないけどね」
「エヴァン! お前!」
昴はエヴァンの胸ぐらを掴んだ。
「今度こそCEOを殺るつもりだな?!
いくらお前が強くても、一人で何ができる? 殺されに行く気か?」
激しい口調でまくしたてる昴とは対照的に、ノエルの顔はとても穏やかだった。
「なあ、さくらのやつ良い寝顔だなぁ。すべてが終わるまでこうやって眠ってくれていると良いなぁ。
そしたら俺のことは死んだと言わず、また好き勝手に遠くへ行ったと伝えてくれ。
頼む。先輩からシュウへ最期のお願いだ」
その言葉を聞いて昴の手が止まる。
「…や…ろ…。バカ野郎!! こんな時に! 先輩面…するな…!!」
最後の声はかすれていた。
「ははは。すまん。本当は…1年半前に…お前に撃ち殺されていれば良かったんだな。お前の手で終わるのも悪くなかったんだが…。
『弱い者の味方になってくれ』これが俺をかばった少年、クリスの遺言なんだ。クリスは暴動で死んだコーディーの兄だった。
親に捨てられ、兄弟で必死に生きてきた。二人はいつでも社会の弱者だった。
俺はクリスの為にも、あそこで死ぬわけにはいかなかったんだ。
それからもう一つ。クリスはあの時、不治の病にかかっていたんだ。
お前に肩を撃たれ『これでようやくコーディーの元に行ける』そう言って自分の頭を撃ったんだよ。
あれはお前へのあてつけなんかじゃない。今日は…それだけ伝えたかったんだ」
ノエルは自身の胸ぐらを掴んだままの昴の腕を掴むと、そっと服から引き離した。
グッと昴の肩を抱き、
「頼んだぞ。相棒」
そう一言いい残して部屋を出て行った。
「エヴァン…死ぬな…死なないでくれ…」
昴の目から涙がこぼれた。
心の底にあった本音がようやく口を突いて出てきた。
1年半前も本当は殺したくは無かった。だが、彼の暴走を止めるにはこれしか方法が無かった。
ずっとずっと苦しかった。
「泣かないで…秀一さん…」
「ッ!!」
突然りおの声が聞こえて、昴は顔を上げる。
目を覚ましたりおは、真っすぐ昴の顔を見て微笑んでいた。
「泣かないで…。一緒にノエルを守りましょう。絶対に彼を死なせない」
「りお…!」
昴はりおの駆け寄り抱きしめた。
不思議だな。お前に言われると、それがどんなに無謀なことでも出来そうな気がするんだ。
だからみんな笑顔になれるのか…。
りおを抱きしめる腕に力が入った。
***
「ウォッカ、すぐにコルンと連絡を取れ。例のCEOからノエルを消すよう依頼があった」
アジトにいたジンの元に連絡があったのは、つい30分ほど前だ。
「ふん。親族まで殺っておいて、自分の命はよほど惜しいらしいな。
あのミシェルに狙われたとあっちゃあ、生きた心地がしないだろうよ」
くくくっと笑ってジンはタバコに手を伸ばす。
「ノエルがコルンの狙撃でやられるとはとても思えねえが、まあ依頼だから仕方ねえ。
まずは二人のお手並み拝見と行こうぜ」
心底楽しそうに笑いながら、ふう~っと煙を吐いた。
りおの病室を出たノエルは、隠れ家であるアパートに戻ってきていた。
「おそらくジンのヤツはスナイパーを一人こちらに差し向けるだろう。
コルンとかいう無口なヤツか、キャンティだったか?ちょっとうるさい女。
勝負をさせて…ジンは高見の見物か。
アイツも人が悪い」
ノエルはふふっと笑った。
シュウは自分が組織に狙われると心配していたが、当の組織はウェストホールディングスにそこまで肩入れしているわけでは無い。
以前組織のボスと何かしらの関わりがあったようだが、それも昔の話だ。
陣頭指揮を任されているジンにとっては、ただの金づるでしかないのだ。
「命の危険は…あのCEOの命を狙うとき…だな」