第3章 ~光と影と~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日(日曜日)——
りおのケガの一報を受けた公安デスクでは、降谷と風見が聞き込みで分かったことを整理していた。
「清里晴美と西村孝人は、異母兄妹で間違いありませんでした。
父の辰朗には認知されませんでしたが、毎月多額の金が晴美の母に手渡されていたようです」
「広瀬の睨んだ通りだったな…」
降谷は顔のアザだけで、良くここまでたどり着いたものだと感心した。
「清里は元々《田口建設》という建設会社と懇意だった。
田口建設と辰朗の長峰建設は、建設界を二分するような大きな存在でお互い仲も良くない。
そこで清里は、辰朗の隠し子と婚姻を結び、田口建設と長峰建設の仲を取り持つことで、力をつけて行ったのです。
西村は元々父親とは折り合いが悪く、絶縁状態だったので、清里事件の時には清里と西村は繋がりませんでした」
「なるほど。父親サイドではなく、認知されていない妹サイドからのアプローチだったわけか。
そして議員である妹の夫と、大学の後輩である厚務省の職員。西村はそこを繋いだんだな」
「そうです。西村にはウェストホールディングスの後ろ盾があります。
金に糸目を付けず、清里や村中に賄賂を渡していたものと思われます」
「広瀬が言っていた、新薬の実験か…。実験を見逃してもらう代わりに、多額の金を…」
「まだ証拠はありませんが、おそらく。
清里は村中への口利きとして利用されたのではないでしょうか?
村中は西村の後輩。当然西村からも同じような話を聞いていた。
初めは渋っていた村中も議員の後ろ盾があるならと、安心していたのかもしれません」
金に物を言わせて、自分の都合の良いように操っていた。降谷は唇を噛んだ。
「この情報を広瀬にも伝えてやってくれ。あと、FBIにもな」
「はい」
風見はすぐさま情報をりおのスマホとFBIに送信した。
風見から送られたメールを見たりおは、すぐに昴に伝えた。
「昴さん、これを見て!」
「なるほど。西村はかなり際どい事までやっていたようですが…新薬が絡んでいるとなると、西村一人で行うには無理があるように思います。
相当の金が動いたでしょうから…。
婿養子である西村にそこまでの権限は無いでしょう」
「つまり…。後ろ盾になっているウェストホールディングスのCEO…彼がすべての黒幕かもしれないということ?
今回の件、すべての元凶はこのCEOだとノエルが知ったら…。
彼の信念からすれば、ノエルの次のターゲットって…」
りおは昴の顔を切なげに見つめた。
「まずいことになりそうですね。
おそらくジンへ『清里達の暗殺』を依頼したのが、そのCEOの可能性があります。
新薬の研究が上手く行かず、上層部の保身を図るために。
直接接点のあった者だけを切り捨てるなんて、彼らの常套手段ですよ。
ウェストホールディングスはその昔、烏丸グループとも懇意だったと言われています。
その繋がりで組織に殺しの依頼をしたとするならば…。
もしエヴァンがCEOに刃を向けるとなると…組織への裏切り行為となる」
すなわちそれは、組織に命を狙われるということだ。
「ッ! なんとかしてノエルを止めなきゃ!」
席を立ち、リビングを飛び出そうとするりおの腕を昴は捕まえる。
「ちょっと待って! 落ち着いてください。
りお、あなた今自分がどういう状況か分かっていますか?」
「私の…状況…?」
やっぱり分かっていませんね…。
昴はため息をつく。
「あなた、最近あまり眠れていないんじゃないですか?
もちろん、仕事で徹夜の日もありましたが…。
悪夢を見て眠れない日が何日も続いていませんか?」
言い当てられて、りおはギクリとした。
「悪夢にうなされたりパニックを起こしたり、それらはすべてPTSDの症状です。
西村の頭部を目撃したあなたは、少なからずストレスを感じている。一度新出先生に見てもらった方が良い。
ましてやCTでは何とも無かったとはいえ、頭も打っています。
しばらく安静にしているようにと、昨日の病院でも言われたでしょう」
昴の言っていることは十分分かる。
けれど、じっとしていて手遅れになったら…そう思うと、りおは居ても立っても居られなかった。
「昴さん、離して! 言いたいことは分かるけど!
手遅れになって後悔したくないの!」
強引に昴の手を振りほどこうとした瞬間——
パンッ!
昴の左手がりおの頬を叩いた。
「俺だって! 俺だって後悔したくないんだ!
また声が出なくなったらどうする?
またフラッシュバックが起きたら?
過呼吸の発作が起きたら?
その時敵に狙われたらどうするんだ!!」
今まで見たことが無いほど、辛そうな顔をして昴は叫ぶ。口調は赤井になっていた。
それを見て、りおはハッと我に返る。そのまま昴に抱きついた。
「ごめんなさい…」
そういうのが精いっぱいだった。そんなりおを昴は大事そうに抱きしめる。
「りお、お前は人の辛さや苦しさも、自分の事のように感じることが出来る。
それはお前の長所だ。だから誰よりも優しくなれる。
だが、それは短所でもあるんだ。
傷ついた経験があるからこそ、感受性が強い。必要以上に傷ついてしまう。
お前の心は今、それに耐えられる状態ではない。
ようやくここまで回復したのに、また闇の中に逆戻りするつもりか?」
昴は言葉を選び、りおに言い聞かせるように話す。
「ノエルには俺が会ってくる。
今度は戦ったりしない。話をしてくるだけだ。
お前は新出先生の所に行くんだ。良いな」