第3章 ~光と影と~
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「で、何を調べれば良いのですか?」
りおの部屋へと呼ばれた昴はPCの前に座った。
「清里と西村をつなぐものを調べていたの。
清里に直接接点が無くても、家族に接点があるかと思って。
そしたら、清里の奥さん『晴美』の額に生まれつきのアザを見つけた。
同じようなアザを見たことがあって…記憶をたどったら…おそらく西村の…頭部を見つけた時…」
「ッ! 西村の顔に同じようなアザがあったと?」
「ええ。たぶん。一瞬しか見ていないから自信ないけど…。
PCで生前の西村の顔を確認出来るけど…怖くて…お願いできる?」
「分かりました」
昴はPCに向き直る。
りおはマウスを操作し、まず晴美の顔写真を昴に見せた。
「ほら、ここ。額の左側。形も蝶のような…かなり特徴的でしょう?」
「なるほど。これは生まれつきのようですね。では西村の顔も確認します」
「うん。私は後ろを向いてる」
昴はPCのキーボードを操作した。
大きく映し出された西村の顔写真。
右のこめかみよりやや下…耳の前辺り…確かにアザがあった。
はる美と同じ蝶のような形の小さなアザ。こちらも生まれつきのようだった。
「確かに西村にもありますね。形もそっくりです。
よく見れば小鼻の形や額の形…顔の特徴も何となく似ていますね。
清里の妻と西村本人に血縁関係がある…ということでしょうか?」
昴は2枚の写真を見比べながらりおに問いかけた。
「晴美は母子家庭で育っているみたい。父親が同じなのかも。
西村は確か婿養子で西村家に入ったはずだから、西村の旧姓を調べないといけないわ」
昴は西村の経歴を調べた。
「旧姓は長峰…大手の建設会社の次男です。父親は長峰辰朗。ですが長男次男以外に子どもはいませんね」
「認知…してないのかも。晴美は外の女性に産ませた子。世間体を考えてその存在を隠した。その代わり金銭的な援助はしていたと考えれば…。
だから! 建設系に太いパイプを持つ清里とお見合い結婚したんじゃないかしら?!」
「なるほど。あとは裏を取るだけですね」
「ええ。風見さんにも連絡して、一気に攻めます」
ようやく見え始めた突破口。
りおの言葉にも力が入った。
「その前に! りお。少し休みなさい」
珍しく昴の語気が強い。
「言うことを聞かないなら、当て身で強制的に寝かせますが?」
「そ、それは後々痛いので…寝ます…」
「よろしい」
りおは渋々ベッドへと入る。
PCは電源を落とされ、昴が小脇に抱えた。
「PCはお預かりしておきます。夕食が出来たら起こしますから。それまで寝てください」
布団を掛けられ、照明も真っ暗にならない程度に落とされる。それだけで睡魔がやってきた。
「おやすみなさい」
昴にそっと頭を撫でられると、そのままスーッと眠りに落ちた。
***
再び悪夢の扉が開く。
コツコツとノエルが笑顔で近づいてくる。
「さくら、こっちにおいで」
そう言ってノエルは手差し伸べた。
「さあ、俺の手を取るんだ」
差し出された手を見て、りおが再び顔を上げると……
ノエルの顔は恐ろしい殺人鬼の顔をしていた。
「ッ! い、いや…来ないで…」
りおは首を横に振り、その手から逃れようとする。
一歩…二歩…
りおは震える足で後ろに下がる。
「!」
足に何かが触れた。
ごろり…
何かが転がる音がする。
りおが震えながら足元に視線を落とすと…
血の気のない紫がかった顔は苦悶の表情を浮かべ、カッと見開かれた大きな目でりおの顔を凝視する、西村の頭部が転がっていた。
「ッ!!!」
りおは声も無く飛び起きた。
「はッ…は…はぁ…はッ…ひゅ…」
(ま、ずい……)
「はッ…はぁ、は…はぁはぁ…はッ」
呼吸は乱れ視界が狭くなる。
指先がビリビリとしびれた。
「ふーーっふーーっ」
吐き出す息に意識を向ける。
体を丸め、過剰な呼吸を何とか整えようと必死になる。
苦しさのあまり強く掴んだシーツには、大きなしわが寄った。
しばらくそうしていると、少しずつ呼吸がラクになる。
脱力し、そのままベッドに倒れ込んだ。
のしかかるような倦怠感に、思わずそのまま身を沈めて眠ってしまおうかと思った。が、眠るのが怖い…。
また悪夢を見たら…
また発作を起こしたら…
自分は正気でいられるのだろうか…
恐ろしさで身震いがした。
しかし、だからといってこのままずっと寝ない訳にはいかない。
体を横にしたまま、夢を見ないくらい深く眠ろうと目を閉じる。
結局、数十分寝ては目が覚め、またどれくらいか眠っては目が覚める……ということを繰り返すだけだった。
夕食時——
りおがダイニングに顔を出した。
「よく眠れましたか?」
「あ…うん。ありがとう。昴さん」
顔色は優れないまま、りおはフラフラとテーブルにぶつかりながら席に着いた。
目の下のクマはさらに濃くなっている。
どう見ても睡眠が取れた様には見えない。
(…やはり、眠れていないのか…)
昴は小さく息を吐いた。
食事をしている時、りおは昴に声を掛けた。
「昴さん。一つ聞いても良い?」
「なんでしょう?」
「私がいない間、何をしているの?」
「?!」
突然の問いかけに昴は驚く。何も言えず押し黙った。
「質問を変えるわ。ミシェルの何を調べているの?」
「なぜ私がミシェルの事を調べていると思うのですか?」
昴は毅然とした態度で質問し返した。
「質問しているのは私よ。あなたが何もしないでココに居るだなんて思っていない。
部屋には、あなたが何かを調べていたであろう証拠がたくさん残っているわ」
先ほどまでの寝ぼけ眼のりおとは違う、凛とした表情だった。
「やっぱり…あなたミシェルの正体を知っているんじゃない?」
さすが公安の精鋭だ。嘘は付けないようだ。
だが今はまだ、そのことをりおに知られるわけにはいかない。
事実を知れば、彼女は真っ先に自分がやって欲しくない行動をとるだろう。
睡眠も取れていない。体調も優れない。
今この状況で真実を知られるわけにはいかなかった。
「さあ? 私にはさっぱり。先日も話したようにミシェルは男か女かも分かっていません。それ以上の情報も私は持っていませんよ」
「ふ~ん。あくまでも知らないと?」
「ええ」
「なら、そういうことにしておくわ」
ご馳走様。と言ってりおは席を立つ。
洗い物を済ませると、黙ったまま自室へと行ってしまった。
自室にもどったりおはため息をついた。
昴が何かを調べていることなど、すぐに分かる。
ここ数日タバコの吸い殻が多い。
夜いつも飲むウイスキーは、最近ほとんど減っていない。
ズボンについているシワも、長時間椅子に座っている事を示していた。
沖矢昴の姿で身を隠している今、ジェームズにも待機と言われている。
ここに一人きりでいて、ミシェルの事を考えないなどあり得ないのだ。
(今までの言動からするに、ミシェルの正体に目星は付いている。けど確たる証拠が無い…。
もしくは…信じたくない…とか?)
まだそこまでしか分からない。
(ノエルが秀一さんを知っているかどうか…確かめられると良いんだけど…)
近いうちにノエルと会う必要がありそうだ。
「ッ!」
一瞬殺人鬼の顔になったノエルを思い出す。
(落ち着け…!落ち着け…!)
「ふ~~…」
自分に言い聞かせるように、長く息を吐く。
りおはベッドサイドに置いてあるスマホに視線を移し、じっと見つめていた。