第3章 ~光と影と~
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金曜午後——
りおは警視庁へと再び登庁した。
自分のデスクへと向かう途中、一課が慌ただしくしていることに気付く。
見知った刑事に見つからぬよう、廊下で一課の新人刑事に声を掛けた。
「あのぅ…何かあったのですか?」
「ええ。来葉峠近くの崖で、車が1台転落していると通報があって。今、事故と事件と両方で調べるところです」
「転落事故…! 人は乗っていたのですか?」
「医師が2名乗っていたようです。あ、すみません。自分はこれで!」
先輩に呼ばれ、その刑事は足早に去っていった。
(医師? まさか?)
嫌な予感がする。りおは自分のデスクへと急いだ。
りおが公安部のエリアに入ると、風見もちょうど来たばかりのようだった。
「おう! 広瀬。お疲れ。少しは休めたか?」
「風見さん! 今一課で車の転落事故の通報があったそうです。
その事故車には医者が2名が乗っていたって聞きました。身元が分かったらこちらにも情報貰えませんか?」
「医者が?! 分かった。手配する」
すぐさま風見は電話を取った。
**
「一課からの情報によると、崖からの転落で亡くなったのは、北山康介(きたやまこうすけ)38歳と、佐多圭悟(さたけいご)36歳。
ともに医師です。今朝作成した20人の名簿の中に名前がありました」
風見の報告にりおはうなだれた。
降谷も口元に手を当て、辛そうに目を閉じる。
「ただ、今回タロットカードは発見できていないそうです。
一課は事件と事故、または自死の可能性も含めて調べています」
「カードが無かった?」
りおはその報告を聞いて身を乗り出す。
「ああ。死因は二人とも溺死。転落で意識を失って、そのまま車は水の中だったから…」
「車が転落したのは何時ごろですか?」
風見がメモを見る。
「近くの防犯カメラに映っていたのが、昨日の夜12時半頃。そこから現場までは20~30分ってところだから…寄り道していなければ、転落は深夜1時頃だ。」
「だったら…それはノエルじゃない」
りおが小さく呟いた。
「広瀬?」
「深夜1時なら私ノエルと電話をしていたわ。声の響き方からして、どこかの建物の中。外ではなかった」
降谷はりおの話を聞き、静かに声を掛けた。
「今回手を下したのはノエルではなく、組織の人間かもしれない」
りおは降谷の言葉に目を見開いた。
「まだ不確定だが、同じ防犯カメラに黒のポルシェらしき車が映っていたという報告もあるんだ。
街灯が少ない場所だから、本当にポルシェかどうかは確定していない。
だが広瀬の話を鑑みれば、今回はジン達が手を下したと考えられる」
なぜ今回はミシェルではなく、組織が? 違いは一体何なのだろうか?
一つ謎が解けそうになると、次の謎が顔をのぞかせる。
タロットカードに描かれた、大天使ミカエルに踊らされているようだとりおは思った。
この日は定時に上がるように言われ、りおは夕方6時には工藤邸にたどり着いた。
「昴さん…」
家に着いてすぐ、りおは昴に抱きついた。
「りお。だいぶ無理をしていませんか?
少し休んだ方が良いですよ。
また発作でも起こしたらどうするんです?」
青い顔をしてグッタリと昴に身を預けるりおの姿を見て、いよいよ限界なのではと心配になる。
「あと一つだけ調べたら、少し休む。気になることがあって…」
りおはそう言ってゆっくり昴から離れると、自室へとこもってしまった。
りおは部屋のデスクでPCを開き、清里の周辺を調べていた。
清里以外の被害者がすべて西村と結びつく。
だが、清里との接点がまるで見えてこない。
先日の昴との推理で、今回の被害者たちが『何かしらの治験』で繋がるイメージは出来上がっている。が、それを裏付ける証拠が一つもない。
治験の書類が引き出しからいくつか見つかっているが、それも出所が分からない不確定な書類でしかない。
あくまでも推理上の仮説にすぎないのだ。
病院関係者(西村・北山・佐多)と厚労省職員(村中)。
そして彼らと議員(清里)との接点。
ここを突破できれば、一連の事件が一つにつながる。
「清里本人じゃなくても…身内に…西村と接点があるんじゃ…?」
りおはまず、清里の家族構成を調べた。
「清里には子どもがいない…家族は奥さんだけか」
次に清里の妻を調べた。
カタカタと軽快にキーボードを叩く。
「清里晴美45歳…旧姓は松本。母子家庭…。
清里とはお見合い結婚。
おかしいわね…。清里は代々議員の家柄のはず。
後ろ盾もないこの女性と、お見合いすることになったのはなぜなのかしら?」
りおは晴美の顔写真をPCに映し出した。
「きれいな人ね…。特徴的なのは…鼻?
小鼻が小さくて、スッと高い。あとは…額が丸くて…ん?
額にアザ…かしら…」
拡大してみてみる。額の左端に小さな赤紫色のアザを見つけた。
生え際に近く、髪を下ろしていれば見えない位置だ。写真は和装の為、髪をアップにしていたのでアザの形まで分かった。
「ぶつけたアザじゃないわね。生まれつきのもの?」
あれ? そういえばこんなアザ…どこかで見たような…?
どこで見た?
一瞬だけ…どこかで。
「今回の被害者で私が顔を見たことあるのは…」
記憶をたどり、ハッとした。
「?!」
「に、西村…だけ…?」
引き出しから現れた彼の頭部。そこで彼の顔を見ていた。
「ッ!」
りおの手はすぐにマウスを掴んだが、PCに西村の顔写真を映すかどうか迷う。
今、彼の顔を見たら…。
正気でいれる気がしなかった。
だが、調べない訳にないかない。
「昴さんに確認してもらおう…」
りおは部屋を出て昴を呼びに行った。