第3章 ~光と影と~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
自動販売機の前まで戻ると、降谷がいた。
「広瀬! どこにいたんだ」
りおの姿を見つけると慌てて駆け寄った。
顔面蒼白で明らかに何かあったと分かる。
「スミマセン。ノエルから…電話がかかってきたんです。それで非常階段に出ていたので」
「ノエルから? 彼はなんと?」
「夕べ…一人殺したと」
「村中の事か?」
「おそらく」
「なぜそれを君に?」
「偽らざる自分を知って欲しかったと。そう言っていました」
ラスティーが死に敏感だとジンから聞いて知っていたはず。
わざわざ知らせたのは…揺さぶるためか?
それとも本気で好きになったか?
ノエルの意図が掴み切れない。
だが、りおの顔色が優れない理由は分かった気がした。
「それ以上は話をすることが出来ず、私から一方的に電話を切りました」
「…そうか…」
「コーヒーを買って戻ります」
りおは降谷の横を通り過ぎ、自販機でエスプレッソを購入するとデスクへと戻っていった。
その後ろ姿を見た降谷はつぶやいた。
「本当に…限界…かな…」
***
「これだけやっても、該当者が20人近くいるのか…」
印刷機から出てきたばかりにリストを手に取り、風見がぼやく。
卒業者名簿を絞り込んでその人数は50分の1にはなったが、その全員に警察が張り付いて警護するのは不可能だ。
「今更ですけど、その20人の中に村中もいたのですね…」
りおはつぶやいた。
「ああ。今のところ接点は西村だけだが。
やはりターゲットを調べるために名簿を盗み出したとみて間違いない」
降谷は険しい表情を見せる。
「一人ずつ聞き込みをした方が良いですね。さっそく今日から始めます」
風見は公安メンバーの割り振りをした。
金曜早朝——
3人は一度帰宅し、休息をとることにした。
りおも工藤邸へと戻った。
「ただいま…」
時間は朝5時だ。赤井は寝ているだろう。
静かに家の中に入り、とりあえずソファーに倒れ込んだ。
「ああ…疲れた…」
そのまま眠ってしまいたかった。
(せめて着替えて…ベッドで…)
そう頭では考えているが、体も動かず目も開かない。
そのうちフワフワと浮遊感を感じた。
「?」
不思議に思って重いまぶたを薄く開けると、そこには赤井がいた。りおを抱き上げ、部屋へと移動していた。
赤井はりおをベッドに寝かせると布団を掛ける。
「しゅ…いちさ…」
「起こしてしまったか…。まずは眠った方が良い。おやすみ。りお」
赤井の声を聞いて不思議なほど安心する。
りおはそのまま眠りに落ちた。
***
暗闇の中に笑顔のノエルがいた。
その笑顔が少しずつ曇っていく。
『さくら、泣いているのか?』そう問われた。
一歩、また一歩とノエルが近づいてくる。
『俺と一緒に来るんだ』
近付くたびにその表情が変わる。
ノエルが目の前まで来ると、青く優しい瞳が獲物を狙う殺人鬼の目になり、冷たい笑みを浮かべていた。
「いや…こ、来ないで…」
ノエルから距離を取ろうとりおが後ろに下がる。
やがて左足にヌルリとした冷たい感触。
足元を見ると………
そこでハッとして目が覚めた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
バクバクと耳元で動悸がうるさい。
呼吸は乱れ、全身汗だくになっている。
「はぁぁ…」
最後まで悪夢を見ないで済んだ。
それだけでもホッとしている自分がいる。
額の汗を拭い、ようやく落ち着いて時計を見た。どうやら2時間ほどは眠れたようだ。
「ふ~……」
大きく息を吐き出した。
重い体をなんとか起こして、りおはシャワーを浴びるため部屋を出た。
シャワー後、髪を拭きながらリビングに向かう。
赤井も起きてきたばかりのようだった。
「もう起きたのか? もう少し休まないとだめじゃないか」
「うん。シャワーも浴びたくて…。今日は昼から出勤だから、後でもう少し休む」
ソファーに座り、ふう…とため息をつく。
「髪、まだ濡れてるぞ。ほら、貸してみろ」
タオルをりおの手から取ると、赤井は優しく髪を拭き始める。
「秀一さんに髪を拭いてもらうの、久しぶりだわ。
工藤邸で、無理やりお風呂に入った時以来…かな?」
そうだったか? 返事をしながら赤井はその時の事を懐かしく思った。
「ほら、良いぞ。乾かしてやろうか? このままじゃ風邪を引く」
洗面所へドライヤーを取りに行こうとした時、りおはとっさに赤井の手を掴んだ。
「どうした?」
「隣に座って」
「?」
言われるまま、赤井はりおの隣に座った。
「キスして」
赤井はりおの顔に手を伸ばし、そっと口づけた。
何度かついばむと、深く口づける。
「ん…」
どれくらいの時間そうしていたかわからない。
やがて唇は離れ、赤井はりおを抱きしめた。
「これ以上はダメ。お前を休ませてあげられなくなってしまう」
優しく声を掛けた。
「秀一さん。好きよ。愛してるわ」
「どうした? 朝から熱烈だな。何か…あったのか?」
「ううん。何も。秀一さんあったかい。このまま…寝た…い…」
りおは赤井に抱きついたまま、安心したように眠ってしまった。
そして———
赤井とくっついて眠ったこの時は、不思議と悪夢を見なかった。