第3章 ~光と影と~
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「広瀬! 大丈夫だったか?!」
組織の車を返し、警視庁へと戻ってきたりおの姿をみつけ、降谷は彼女に走り寄った。
「はい。大丈夫です。何も危害は加えられていませんし…。ただ疲れました…」
顔色も悪く、その表情は疲れ切っていた。
「だろうな。一件報告をしたら家まで送るから…。明日報告書の作成を頼む」
降谷は内ポケットからスマホを出しながら、りおにそう声を掛けた。
***
「了解した」
ジェームズは返事をし、降谷からの電話を切った。
「ノエルの身柄は確保できなかった。
だが、今日は殺しではなく別の目的で動いていたようだ。
その目的が何だったのか、まだわからないが…。
とりあえず死者も出ず、りおくんも無事だ」
たった今もらった報告をジェームズはジョディと昴に伝えた。
「良かった。さくらは無事なのね」
ジョディの安堵した声が響く。
「赤井くんも今日はもう帰っていい。
後処理をしてりおくんも家に戻るだろうから」
「…はい」
椅子に座ったまま手を組み、微動だにしなかった昴は返事をすると立ち上がった。
表情は変わらないが、彼の周りにある空気が
フッと和らぐ。
それを感じてジョディは昴に声を掛けた。
「送るわ」
「ああ、頼むよ」
言葉少なに、二人はジェームズの部屋から出て行った。
昴が家に帰ると工藤邸は真っ暗。
まだりおは帰ってきてはいないようだった。
玄関に入り照明をつけようとしたところで、RX-7のエンジン音が近づいて来るのが聞こえる。
そのまま踵を返して玄関を出ると、白い車は門の前で止まった。
運転席から安室が出てきた。
彼の顔には安堵したのか、わずかに笑みがある。
「こんばんは沖矢さん。さくらさんをお連れしましたよ」
「ありがとうございます」
礼をいって車に近づくと、助手席で眠っているさくらが見えた。
かなり疲れていたのだろう。車が止まった事にも気づかぬようだ。顔色も悪い。
それを見て昴は眉を顰める。
自分がそばに居られたなら…。
そう思わずにはいられなかった。
「安室さん。なぜ、危険な作戦をさくらにさせたのです?
彼女は被害者の頭部を発見してまだ間もない。
これ以上の負担は、彼女を再び闇の中へ突き落す結果になりかねません」
昴の拳は固く握られ、強い口調で安室を非難した。
「確かに…それについては謝ります。
こんな作戦しか思いつかなかった。それは僕の責任だ」
安室の声はいつもよりずっと低く、弱々しかった。
「警察としては第3、第4の被害者を出さない事が最優先だった。
だが当のノエルの所在は不明なまま。
彼から仕事の補助を頼まれた事を利用するしか方法がなかったんです」
彼の言い分も分からなくはない。
自分も同じ立場だったら、おそらく同じことを考えただろう。
昴はそれ以上の追及をやめた。
助手席をのドアを開け、さくらに声を掛けた。
「さくら、起きてください」
「ん…。ん? すば…る…さん? もう、朝?」
半分しか開いていない目で昴を見る。
「寝ぼけていないで起きてください。
安室さんに送って頂いたんです。お礼を言って家に入りましょう」
「あ…。スミマセン…。安室さん。ありがとう…ござい…ました」
目を擦りながらさくらは礼を言った。
「いえいえ、礼には及びません。それではまた明日」
RX-7は低いエンジン音を響かせて走り去っていった。
半分寝ぼけていたりおだったが、真っ暗な玄関の前で足が止まる。
「ごめん、昴さん…。先に入って電気をつけてくれる?」
怯えた表情のりおを見て、昴は心が痛む。
まだ西村の事件を引きずっている。こんな状態でノエルに会ってくるとは…。
今は平静を保っているが、どういう影響が今後現れるのか心配になる。
「分かりました。ここで待っててください」
先に玄関に入って電気をつけた。
明るくなった家を見て、ようやくりおに笑顔が戻った。
「昴さんはどこにいたの?」
リビングで上着を脱いでいた昴に、りおは声を掛けた。
「ジェームズに呼び出されていました。
私があなたの所へ行くと読まれていましたよ」
苦笑いをしながら答えた。
「ふーん、なるほど。
ジェームズさんに『監禁』されていたわけだ」
「おや、私に嫌味を言うようになりましたか」
表情は変わらないものの、少々ご機嫌斜めなようだ。
「で、安室さんの前で無防備に寝落ちするほど、疲れて帰ってきたあなたの方はどうだったんですか?」
(昴さんも負けず嫌いだね…)
りおは苦笑いをしながら、今日の事を説明した。
「東都医大へは殺しの為に行ったわけではなかったわ。
彼が車から離れて戻ってくるまで、時間にして20分程。
セキュリティーを破って侵入して…その時間で出来ることと言ったら、データを盗むか、何かを仕掛けるか、もしくは両方…よね」
りおの話を聞き、昴は口元に手を当て考える。
「確かに侵入込みで20分程度であれば、それくらいしか出来ませんね。
データも盗まれているかもしれませんし、盗聴器か何かを仕掛けてきているかもしれません。
もし、なにが盗まれたかを調べるのでしたら、盗聴器が仕掛けられている前提で調べないと。
相手にあなたたちの行動が筒抜けになる可能性があります」
「そうですね。降谷さんにもそう報告します」
りおは昴の見解に同意し、そう返事をした。
だがりおには一つ気になることがある。
今回は《殺し》の仕事ではなかった。
ノエルはジンから『ラスティーは殺しを嫌う』と聞いていた。
(殺しの仕事ではなかったから、私を手伝わせたのかしら?)
ノエルがラスティーを気遣って、一緒に行う仕事を選んでいるとしたら…。
(私が呼ばれない時に《殺し》が行われる可能性があるということ。
それではターゲットを事前に察知出来ない)
次のターゲットが分からない事には、先手が打てない。
それはすなわち、ミシェルを捕らえる事もターゲットを守ることも出来ないということだ。
結局何の手掛かりも掴めていない。
ノエルがミシェルなのかどうかも。
そして今回の連続殺人が、何を意味しているのかも。
ただただ時間だけが経過し、死者が増えていく。
りおは疲れた体をソファーに預け、目を瞑った。
銃を突き付けてきた時のノエルの顔が浮かぶ。
(ノエル…あなたがやったの? 清里も、西村も…)
心がキリリと痛んだ。
「……」
昴はソファーで目を閉じているりおを見つめた。
(俺はミシェルを追うことも、お前を守る事も出来ないのか…?)
真っ青な顔色で、切なげに表情を歪ませるりおの姿は、昴に焦りと不安を抱かせた。