第3章 ~光と影と~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一夜明け、りおは降谷と連絡を取る。
「広瀬、警視庁へ来れるか? 今夜の打ち合わせをしたい」
「はい、大丈夫です」
「9時に先日と同じ会議室だ」
「了解です」
電話でのやり取りを、昴は後ろで黙って聞いていた。
9時。警視庁会議室——
「今日は絶対に失敗は許されない。分かっているな?」
降谷はいつも以上に硬い表情で、りおと風見に声を掛けた。
「「はい」」
「まずは作戦の内容を確認しよう。
前回同様広瀬には盗聴器を仕掛けた状態で車に乗ってもらう。
10時に前回別れた『海の見える公園』だったな?」
「はい。そこでノエルを拾います。その後はノエルの指示に従えと言われています」
「現時点でノエルのターゲットは絞れていない。
西村と清里の接点が分からず捜査は難航している。
事前にターゲットを護衛出来ないので、君とノエルとのやり取りだけが頼りだ」
「はい」
前回の観光案内とはわけが違う。
責任の重さに身が引き締まった。
(誰かの命を背負う。これほどの重圧は無いわ…)
りおの手は無意識のうちに力が入り、強く握り閉められていた。
「広瀬」
「はい?」
「大丈夫か? 顔色が悪いぞ。
…本当は君にこんなマネをさせたくない…。
西村の事件からもまだ日が浅い。
ノエルと会うことだって…かなりの負担を強いていることは分かっているんだ」
降谷にもバレていた…。りおは下を向いた。
「だが、人の命がかかっている。手段は他にない。
これ以上の犠牲者を出さないために…。許してくれ」
降谷はりおに頭を下げる。
「頭を上げてください、降谷さん。警察官として当たり前のことをするだけです。私は大丈夫ですから」
りおはざわつく心を隠して、そう二人に伝えた。
**
「ノエルとの会話を聞きながら、ターゲットの護衛に向かう《護衛班》と、広瀬の身の安全守り、ノエルを確保する《起動班》を用意する。
ターゲットの護衛は万が一の事を考えて2班だ。あちらも広瀬を完全に信用しているのか分からない。最初にガセネタを掴まされることも考慮する」
降谷が用意した資料には《護衛班A》《護衛班B》《起動班》の文字。
そして護衛班を移動させるための配車や、起動班がりおの車を尾行する時の位置など、事細かに書かれていた。
「俺は起動班と行動を共にする。風見は護衛班Aに。
万が一、起動班がノエルの確保に至らない場合は、俺はそのまま追跡をして護衛班と合流する。
風見もA班がガセを掴まされた場合は、すぐにB班と合流するんだ」
「了解です」
「広瀬は俺たちが動いたら、ノエルから離れろ。
ヤツは自分の身が危ないと感じれば、君を人質に取る可能性もあるからな」
「はい」
全体の流れを何度も確認した。詳細を打ち合わせ準備が整う。
3人は会議室を出るとそれぞれの仕事に向かった。
後は約束の時間を待つのみだ。
夕方6時過ぎ、ジョディはジェームズに呼び出された。
「嫌な予感がするんだ。悪いが赤井くんをここに連れてきてもらえないだろうか?」
ジェームズからの命を受け、それから1時間程で昴はジェームズが使っているホテルへと連れてこられた。
「ジェームズ。何の真似ですか?」
明らかに機嫌の悪い声で昴は訊ねた。
「私は君の上司だ。君の考えていることなどお見通しだよ。
今夜、りおくんの尾行をするつもりだろう」
「…」
昴は黙ったままだ。
「公安が彼女を守るために手を打っている。
君が出る幕はない。今夜は外出禁止だ。私とここにいてもらう。良いね」
「ですがっ! ジェームズ!」
ジェームズの言葉に昴(赤井)は食ってかかった。
ここで手をこまねていている場合ではない。
俺がりおを守る。
そしてヤツを———!
ペリドットの瞳は見開かれ、赤井にしては珍しく焦りの色が見えた。
「赤井くん!! 今の君は決して冷静ではないよ。そんな君がりおくんのそばにいてはダメだ」
「ッ!!」
赤井の焦りを十分に理解していたジェームズは、険しい顔をしたまま続ける。
「りおくんを尾行して、ミシェルが現れたら君はどうするつもりなんだね。
1年半前の借りを返すつもりか? りおくんの目の前で、そのミシェルを撃ち殺す気なのか?」
「そ、それは……」
ジェームズの指摘に赤井は一瞬言い淀む。視線が泳いだ。
だがすぐに顔をあげ、激しくまくし立てた。
「しかし公安では動きに制限が出てしまう! 日本では警察官であっても安易に銃が撃てない。
それは降谷君も、風見くんも、そしてりお自身だって同じだ!
ミシェルの腕は間違いなくりおより上。もし車内で命を狙われたら…」
「それはりおくんも分かっているはずだ。
それを回避する術を彼女は持っている。
彼女の能力は君が一番分かっているんじゃないのかね?」
熱くなる赤井とは対照的に、ジェームズの声は驚くほど冷静に部屋に響く。
「君のやっている事はただの自己満足だ。
君のその自己満足でりおくんが危険に晒されたり、もしくは見なくていい現場を彼女に見せつける気かね?!」
いつも温厚なジェームズの口から、厳しい言葉が並ぶ。
赤井は何も言い返すことが出来なかった。
強く握られた赤井の拳を、ジェームズが静かに見つめている。
「シュウ……」
こんなに熱くなった赤井をジョディは初めて見た。