第3章 ~光と影と~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「何も言えないのは公安の仕事だから。
そして、ノエルというヤツに何か直接仕掛けるつもりだな」
抱きしめられ、耳元でそうささやかれた。
なぜそれを…そう言いたかったが、それでは答えを言ってしまうのと一緒だ。
りおは口をつぐんだまま無言を貫き通す。
「なぜ分かったか知りたいか? お前の顔を見れば分かる。
怯えているんだ。先日西村を殺害したかもしれない相手と会うから」
「ッ!」
何も言い返せない。
さすがだなと思うが、今はそれすらも言葉に出せなかった。
「それが正解なら、俺はお前をこのまま部屋に監禁するぞ」
「な、何言って…?!」
物騒な言葉を聞いてりおは驚く。
「ミシェルの力をなめるなよ…。
何をどう仕掛けるつもりか知らんが、小手先の作戦が通用するような相手じゃない。
正体がバレて窮地に陥るのが関の山だ。
そんな危険な真似をお前にさせるわけにはいかない」
「その気持ちは嬉しいけど、かといっておめおめと監禁される気はないわ」
りおはそう言い終わるが早いか、昴の腕からすり抜け、キッと睨んだ。
「ほう…。俺とやり合う気か? 上等だ。外へ出ろ」
「ええ、良いわ。望むところよ」
二人は庭へ出て向き合う。風が二人の間を吹き抜けた。
お互い何度か組手で勝負したことはある。だがこんな喧嘩まがいな事は初めてだった。
二人は《構え》の体勢になる。
昴の瞳は見開かれ、眼光は鋭い。
対してりおの瞳は真っすぐ昴を捉え、一点の曇りもなかった。
先に仕掛けたのは昴だった。
左!右!と拳で狙うが、りおはそれをすべて避けた。
間髪入れずに昴の左足の蹴りがりおを狙う。
それもりおは右腕でガードした。
蹴りを繰り出した昴の足をガードした右腕で勢いよく弾くと、今度はりおが左足で昴を狙う。
昴が素早く避けたので、軸足を変えて回し蹴りを繰り出した。
それもギリギリのところで昴は避けた。
筋力のある昴の蹴りは重い。ガードしたりおの右腕はジンとしびれていた。
そんなことは意に介さず、今度はりおが仕掛ける。
少し距離が開いたことを利用し、昴に向かって一気に走り寄る。
その勢いを味方につけて手刀で昴の首元を狙う。
ジークンドーの手技で流されるが、その流れた動きを利用して体に回転をかけ、蹴りを入れた。
昴は左腕でガードするが、蹴りのスピードが速く、りおの足は昴の肩をかすめた。
(ッ!速い!)
りおは今だとばかりに、連続で蹴りを繰り出す。
昴はギリギリで避け、左腕でりおの足を思いきり弾いた。
大きく体勢を崩したりおに、何発か拳を繰り出す。
りおはそのほとんどをガードしたが、一発だけ左の肩下に拳が入った。
「ぐッ!」
りおが肩を押さえた瞬間を逃さず、さらに蹴りを仕掛ける。
それをりおはサッと体勢を低くしてやり過ごし、昴の軸足に蹴りを入れた。
今度は昴がわずかに体勢を崩す。これ以上長引けば体力的にりおが不利。
昴が体勢を立て直す前に、りおは決死の体当たりをした。
二人は芝生に倒れ、りおが昴に馬乗りになった格好だ。
だがすぐにりおの胸ぐらを掴むと左に引き倒し、あっという間に形勢逆転となった。
はあはあと息を切らした二人は、そのままお互いを睨み合う。
「これで分かっただろう。ミシェルは俺と互角かそれ以上だ。
俺に勝てなければ、ミシェルに勝つことはできん。
お前の捨て身の体当たりは、ひっくり返されればアウトだ」
りおは息が落ち着くのを待って、昴に声を掛けた。
「…それを教えるために…わざわざ吹っ掛けてきたのね」
「ああ。こうでもしないとお前は無茶をするだろう?」
昴は掴んでいたりおの服を離す。
馬乗りになったまま、
「頼むから…そのノエルというヤツに何か仕掛けるのはやめてくれ」
りおに頭を下げた。
「昴さん…それはできないわ…上司からの命令よ。私に拒否権は無い。分かるでしょ?」
「くそっ!」
ドスッ!
りおの顔ギリギリの芝生を拳で叩く。
それを瞬き一つしないで、りおは見ていた。
拳を芝生に押し付けたまま動かない昴に、りおは違和感を覚える。
(ミシェルと秀一さん…接近戦で対峙したことがあったのかしら?
降谷さんから聞いた話では、ある程度距離のある所からライフルで狙っていたはず…)
「昴さん…いえ、秀一さん。
あなた…ミシェルの正体を知っているんじゃないの?」
先ほどからの昴の言動…りおの行きついた答えはそれしかなかった。
昴の体がぴくりと動いた。
しばらくの沈黙の後、昴は口を開く。
「いや、知らない。ヤツが何者か、男か女か、それすらも分かっていないんだ」
「じゃあなぜミシェルの格闘術が秀一さんと互角かそれ以上だと知っているの?
あなた、1年半前にライフルで狙っていた時しか接点がないはずよ」
りおの問いかけに、昴は黙ったまま体を起こし立ち上がる。
「1年半前に殺された者の中に、実業家のボディーガードもいてね。
そいつがミシェルに接近戦で殺害されているんだ。
そのボディーガードとは一度手合わせをしたことがあったんでね」
ホントなのか嘘なのか…。今は分からない。
りおはそれ以上追求しなかった。
芝生に倒れたままのりおに、昴は手を差し伸べる。
りおがその手を掴むと、グッと引き起こされた。
「何を言っても…無駄か…」
昴はため息をつく。
「どうあっても、ノエルに仕掛けるつもりか?」
コクリとりおはうなずく。
「ノエルと対峙できるのか? 顔色…酷いぞ。
どうせ前回のようにお前ひとりでノエルに会うんだろう。出来るのか?」
その問いかけには即答出来なかった。
「怖いよ…でも、やらなきゃ」
「降谷くんに言って作戦を変えてもらえ。
お前がその状態では絶対に失敗する」
昴の口調は再び強くなる。
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
あえて優しい口調でりおは返した。
「もう遅い時間だから家に入ろう。ご近所迷惑だし」
そう言うとりおは家の中へと入った。
リビングに入ってりおはソファーに座る。
昴にはああ言ったものの、自分がノエルを前にして任務を遂行出来るのか不安だった。
(作戦変更…って言ったって他に方法は…ノエルは私に送迎を頼んでいるのだし…)
どう考えても、代替えの作戦は浮かばない。
やはり自分が会うしかない。覚悟を決めた。
その様子を昴は黙ってみていた。
(止められないな…)
説得をあきらめるしかなかった。