第3章 ~光と影と~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おそらく。タロットカードも、殺害に様々な手口を使っているので『自分の仕事だ』と知らせるため。
そして『大天使が舞い降りた』という意味も含めて置いているのだと思います」
タロットカードに描かれた大天使ミカエルは天秤を持ち、死んだ魂を天国へ送るか地獄へ落とすかの審判をする役目を持つ。
「悪いヤツをジャッジするのは自分だと、そういうこと?」
「ええ、そうです」
ますますミシェルの真意が分からない。
西村は清里の汚職とは関係がない事が分かっている。
今回に限って頭部を切断した理由も謎のままだ。
(西村の事件は…ミシェルじゃ…ない可能性も…あるって…こと? それとも他に…何か…)
時々ぼんやりとする頭をフル回転して、思考をまとめようとするが、思うようにいかない。
意識が浮いたり沈んだりする感覚に、りおはグラリとめまいを起こす。
「まったく…。そうやって思い詰めるのはあなたの悪い癖です。
久々に過呼吸の発作も起こしていますから、今日明日はゆっくり過ごしましょう」
りおの体を片手で抱き留めると、昴は手に持っていた捜査ファイルを戸棚に閉まった。
昼前にジョディが捜査資料を届けに来た。デリで買ったというサラダや惣菜を持ってきてくれた。
ジョディが持ってきた資料を、昴はそっとリビングの戸棚の中に隠す。
「せっかく持ってきたのに。どうしたの?」
ジョディが昴に耳打ちする。
「今日明日は捜査の事は忘れてのんびり過ごさせようと思いまして。まだ本調子じゃありませんから。
どうせこの資料にも、現場写真の添付がされているでしょう?」
「ああ、そうだったわ…。私が迂闊だった。
現場は血の海だったみたい。写真にも写っているわ。
そんなの今彼女に見せるわけには…ね」
「ええ。出来るだけ捜査に関係ない話をお願いします」
「分かったわ」
りおがお茶の用意をしている間、コソコソと二人は話をしていた。
「おまたせ~。ジョディがここに来るのって久しぶりじゃない?」
りおはお茶の入ったカップをジョディの前に置いた。
「ああ、そういえばそうね! あまりここに出入りするのも良くないかと思って、最近は外で待ち合わせしてるものね」
ジョディはカップを手に取り一口飲んだ。
ちらりとりおの顔を見る。
首筋の赤い跡を見つけて、思わず目が泳いだ。
「ええ、そうですね。そのうちの一回は、あなたのおかげでだいぶひどい目にあいましたけど」
昴はサラダや惣菜を皿に取り分けながらつぶやく。
昴の一言にジョディはお茶を吹き出しそうになった。
「あ…あ~…あれね…」
昴から皿を受け取りながら、肩をすくめる。
「『あれ』って…もしかして…」
りおも察したのか苦笑いを浮かべた。
「ハハハハハ…」
ジョディは笑うことしかできない。
そう、『あれ』。
昴にFBIの資料を渡すために待ち合わせをした時、ジョディは女子高生の変装…もといコスプレをしたのだ。
《番外編『誤解』》
それを蘭と園子に目撃され、昴は高校生と援助交際をしているのではと疑われた。
しかも、ほんのイタズラ心で昴の頬にコッソリ口紅を付けておいた。ジョディにしてみれば、さくらに目撃させ嫉妬してもらい、二人の仲を深められればと思っていたのだが、それを見つけたのが蘭たちだったため、さらに話がこじれてしまったのだ。
「あの時はホントごめんなさい。シュウからメールをもらうまで、そんなことになっていたとは全然知らなくて…。」
両手を合わせて、眉をハの字にしながら謝った。
「ううん。私は蘭ちゃんたちから聞いて、家を追い出されただけだったから。昴さんの方が大変だったみたい」
そう言いながら、その時の事を思い出してりおは笑う。
「まったく…。女子高生二人に羽交い絞めにされるし、あらぬ疑いまでかけられて…。誤解を解くまでホント大変だったんですから」
「も~だから謝ったじゃない~」
ジョディはそろそろ許して~と懇願していた。
**
「あなたのおかげでりおが笑顔を見せてくれましたよ。助かりました」
警察病院で処方された薬を飲んで眠ってしまったりおに、ブランケットを掛けながら昴はジョディに礼を言った。
「ううん。私も彼女の笑顔が見られて良かった」
ジョディもほっとしたように笑顔を見せる。
「でも、実際の話。被害者のつながりが見えてこないために捜査は難航しているわ。アメリカでの事件では、汚職の関係者はすぐに割り出せたけど…。
今回は次のターゲットが全く絞れない。このままでは第3、第4の犠牲者が出る可能性も…。
殺人が続けは、彼女の心の負担も増えるわけで。それが心配だわ」
ジョディの言葉に昴も同感だった。
日曜日も二人でのんびりと過ごした。
りおは薬を服用しているためか、眠ってしまうことも多い。その間に、昴はジョディが届けてくれた西村殺害の捜査資料に目を通した。
「これは…。かなりの出血だな。降谷くんが入室を止めたのも分かる」
床にはおびただしい量の血液。アングルを変えた数枚の写真が添付されていた。
次のページには血液の跡が残る床に、遺体の形に白線が引かれていた。頭部が無かった事がそこからも推測出来た。
「この出血量からすると、頭部もかなり血まみれだったはずだ。それをりおが見つけたのか…」
事件慣れした自分たちでも、それを見つけた瞬間は良い気持ちはしない。ましてや、りおは「死」にも「血液」にも過剰反応する状態だった。
「だいぶ精神的にも強くなったとはいえ、これは…厳しいな…」
ため息しか出なかった。
日曜の夜——
「りお、無理をして帰っても良いことはありません。
ちゃんと気持ちが落ち着くまで、しばらくここに居てはどうです?」
夕食を食べながら、昴はまだ何となく本調子ではないりおに声を掛けた。
りおはしばらく考え込んでいたが、「そうします。しばらく一緒に居させてください」と、昴の提案を快諾した。
2日間一緒に居てみて分かったことがある。
頭部を発見した応接室が薄暗かったせいか、暗い部屋に抵抗があるようだった。
自室で眠る時も部屋を暗くすることが出来ず、ベッドサイドの電気はいつも点いたままだった。