第3章 ~光と影と~
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そのまま土曜の朝を迎えた。
まどろみの中、りおは誰かに抱きしめられている感覚に幸せを感じる。
ようやく目を開けて、抱きしめてくれているのが赤井だと分かるとさらに安心した。
ひどい悪夢を見た気がした。だがその悪夢を思い出すたびに「俺を見ろ!」と叫ぶ赤井がいた。
体を開かれ、頭の中が真っ白になるまでずっと赤井の声が聞こえていた。
そっと自分の腕を赤井の脇へと伸ばし、抱きついた。
「愛しているわ…。秀一さん」
そういって赤井の胸元に頬を寄せた。
ふと、りおの声が聞こえた気がして赤井も目を開けた。
自分の体に腕を絡めて、りおはうつらうつらとしている。愛おしさで思わず抱きしめる腕に力が入った。
「りお、おはよ」
「ん…。秀一さん…おはよう」
もう少しこのままでいたいというりおのワガママを、赤井は叶えてあげることにした。
「あまり長いことこうしていると、もうひと運動しなきゃいけなくなるぞ」
「も~無理…。誰かさんのせいでだるい…」
そう言いながらぴったりと体を寄せてくる。
(やれやれ、男を分かってないな…)
赤井はため息をついた。
(あれ、秀一さん…背中ケガしてる?)
赤井の背中に手を回した時、ひっかき傷のようなものが幾つかりおの指先に触れた。
「ん? どうした?」
自分の背中に触れたまま、難しい顔をしているりおに赤井は声をかけた。
「秀一さんの背中……」
「背中? ああ…発作を起こした時、相当苦しかったんだろう。俺にしがみついていたな」
「ご、ごめんなさい。こんなケガになるほど…」
赤井を傷つけてしまったことに申し訳なさを感じた。
「良いんだよ。りおはいつも苦しいときに『苦しい』と言ってくれないからな…。
お前が今どれくらい苦しいのかが分かって、それを共有出来て…俺は嬉しかったよ」
そう言って微笑むと、そっとりおの額にキスをした。
時計は朝の9時を回っていた。
ふたりは交代でシャワーを浴び、遅い朝食を取る。
「りお、気分はどうだ?」
「少し頭がぼんやりする。あと、腰が痛い」
「ああ、それはやりすぎたか…」
「ちょっと…!生々しい発言は控えてください」
「すまん」
いつもと変わらないテンポの良い会話に、赤井はホッとしていた。
「あとで降谷くんにメールしてあげると良い。だいぶ心配をしていたから」
「はい」
このまま何事もなく、嫌な記憶が薄れてくれればいいのだが…。
赤井はりおの顔を見てそう願わずにはいられなかった。
朝食を食べ終えるころ、赤井のスマホにジョディから電話がかかってきた。
席を立ち廊下で話をする。
『ハァイ! シュウ! さくらの様子はどうなの?』
言葉こそ明るく振舞っているが、声は緊張しているようだった。
「ああ、過呼吸の発作を起こしたものの、今のところ問題ない。ただ今後どの程度影響があるかは正直分からん」
『そっか。でも今は元気でいるのね?』
「少しぼんやりしているがな」
彼女が元気ならそれでいい。ジョディは胸をなでおろす。
『夕べあった公安との合同会議の資料、後で届けるわね』
「ああ、助かるよ」
『それじゃあ、またあとで』
ダイニングに戻りスマホをそっとテーブルに置くと、りおの方を見る。
食事を終え、食器を洗い始める姿はいつもと変わらない。
ただ時折手が止まり、ぼんやりとしていた。
(カウンセリングをしていた頃も、同じようなことがあったな…)
ふと数か月前の事を思い出す。
あの時もガラスで手を切ったのにも関わらず、流れる血をぼんやり眺めていた。
心がこれ以上傷つかないように、脳が記憶を処理する。
今まさにその過程の途中なのかもしれない。
以前はそこまでたどり着くのに、何度もカウンセリングを重ね、何日も苦しんだ。最近はそういう時間もかなり短くなったように思う。
(少しずつではあるが…強くなったな…)
以前と比べて随分と頼もしくなった姿に、自然と笑みがこぼれた。
りおが片付けを終えると、変装をしに行ったのか赤井の姿はなかった。
リビングに戻り一息つく。
テーブルに視線を向けると、そこにある分厚いファイルに目が留まる。FBIの捜査資料だとすぐに分かった。
(降谷さんもあれと同じファイルを読んでいたな…)
りおはそれに手を伸ばした。
最初のページには5年半前の連続殺人の概要が書かれていた。
被害者の経歴や汚職事件の内容なども詳しく書かれている。
政治家や実業家、経済界の権力者などの名が記されていた。
最初の現場に残された、タロットカードの写真もそこには添付されていた。
カードの裏には『I’m Michel.』とマジックで文字が書かれている。
よく見るとカードには血の跡が残っていた。
「…ッ」
ページをめくる手が止まった。
一呼吸置いて再びページをめくろうとした時、スッとファイルが上へと浮き上がる。
「えっ?」
「これ以上は見せるわけにはいきませんよ」
ファイルはパタンと閉じられ、昴の左手に収まった。
「被害者の現場写真もたくさんあります。今見るのは感心しません」
「…分かっています。けど、どうしても知りたいことがあるんです」
うつむいたまま、りおは続ける。
「今までミシェルはこんな残忍な殺害をしたことがあるのですか?
もしミシェルの仕業だとするならば、目的は一体何ですか?」
あのノエルがミシェル?
優しい笑顔を見せていた彼が、あんな残忍なことをするなんて…。
りおは信じられなかった。
「過去の事件で、遺体を切断するようなことはやっていません。
ミシェルは自分自身を《大天使ミカエル》の化身だと思わせたいようですから」
「ミシェルが大天使ミカエルの化身?
ん? 確か…ミカエルは…ラテン語読み。英語はマイケル。ドイツ語はミハエル。フランス語は…ミシェル…!
じゃ、じゃあ《ミシェル》は自分が《大天使ミカエル》だと?」
りおの問いかけに昴はうなずいた。