第3章 ~光と影と~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…ぅん…?」
りおが目を覚ますと、そこは警察病院のベッドの上だった。
白い天井が見える。カーテンで仕切られた空間に寝かされている事は何となく理解できた。
ふと視線を移すと、降谷が隣で座っていた。
「広瀬…大丈夫か?」
「…降…谷さん…私…?」
「よかった…声は出るようだな」
降谷は安堵の表情を見せた。
りおは何かを考えようとするが、頭がぼんやりして思考がまとまらない。
「降谷…さ…なん…か…ぼん…やり…して…」
言葉を発することも難しかった。
「ああ、安定剤を点滴してるからぼんやりするんだと思う。
大丈夫。落ち着いたら良くなるから」
降谷はそっとりおの手を取る。
点滴をしているせいか、その手は冷たい。両手で包み込む様に握った。
「とりあえずそばにいるから。安心して今は眠った方が良い」
「は…い…」
りおはそのまま目を閉じた。
すぐに穏やかな寝息が聞こえる。
ただ顔色は悪く、りおの顔はいつも以上に白く感じた。
「まさか広瀬が頭部を見つけるとはな…」
降谷はため息をついた。
RX-7 を工藤邸の前に止めた。
時刻は夜8時を過ぎている。
チャイムを鳴らすとインターホンから「はい」という沖矢昴の声が聞こえた。
「安室です。沖矢さん。ちょっと外まで出て来て頂いても良いですか?」
「分かりました」
程なくして昴が玄関の外に姿を現した。
「さくらさんが今、車で眠っています。
彼女を部屋まで運んでいただいても良いですか? 詳しい話は中で」
「ッ!! さくらに何が?!」
「だから話は中で」
一瞬取り乱しそうになったところを安室に釘を刺された。
昴は一度咳払いをすると気持ちを切り替えてRX-7に近づく。
助手席でさくらは眠っていた。
さくらを部屋で寝かせ、昴と安室はリビングで話をすることにした。
「さくらに一体何があったんです?」
「西村孝人が殺害されたことは知っていますか?」
「ええ。ジェームズから聞きました」
安室はひとつ大きく息を吐き、『降谷』に気持ちを切り替えた。
「西村は頭部を切断されていた。頭のない遺体とミカエルのタロットカードが置かれていたんだ。
現場はおびただしい量の出血があったから、広瀬を死体発見現場へは入れさせなかった。
だが、血の匂いで気分を悪くして…向かいの部屋で休ませたんだ。
少し横になって、動けるようになったんだろう。自分が休んでいた部屋の現場検証をひとりで始めた。
そこで…西村の頭部を発見してしまったんだ。
血まみれの頭部を…ね」
「ッ!」
昴の表情が苦しげに歪む。
「俺が悲鳴を聞いて駆けつけた時は、気を失っていた。
警察病院で安定剤の点滴をして、一度意識を回復した時は声も出ていた。心配ない。
今は薬が効いて眠っているだけだ。
問題は薬が切れて目を覚ました時。
発作を起こす可能性もあるから、あなたがそばにいた方が良いと思って。
入院させずに連れてきた」
そこまで説明して、降谷は目を閉じ下を向く。
再び顔を上げた時は『安室』に切り替えた。
「あとは沖矢さんにお任せします。僕はこの後、あなたの上司達と会わなければならないので。
それでは。よろしくお願いしますね」
人の良い〈安室スマイル〉を浮かべると、すぐさま工藤邸を出る。
バタンッ! ブロロロォォォォ…!
安室が車に乗り込むと、RX-7はうなりを上げて走り去っていった。
エンジン音が遠ざかると、昴は再びりおの部屋へと入る。
薬が効いているため、りおはよく眠っていた。
「一つ綻べば、次々と崩れてしまうんじゃないか…。俺はそれが怖いんだ」
昴はりおの頬に触れながら、そうつぶやいた。
***
警視庁の会議室では公安警察とFBI、捜査一課は一部の上役が顔を揃えての合同会議が開かれていた。
「今回の事件の概要をお伝えします。
被害者は西村孝人48歳 西村病院の院長。
東都医科大学を卒業後、大学病院で経験を積み、3年前から西村病院を継いでいます。
この西村病院ですが、経営基盤はウェストホールディングスが持っています。
ウェストホールディングスはこの西村病院の他にも、医療機器メーカーの「NISHI」や製薬会社のWESTMEDY(ウェストメディー)も傘下に持っていますので、医療や製薬関係に絶大な力を持っています。
西村はこのウェストホールディングスのCEOの娘婿に当たります」
「次に西村の死因について報告します。
西村の死因は首を切られたことによる失血死。
死亡推定時刻は午後2時~3時の間。
今日は他の役員が研修で出ていた為、この時間院長の西村は一人で病院に残っていました。
凶器はサバイバルナイフのようなナイフの中でも大型のもので、後ろから一気に頸動脈を切られています。
死後、同じナイフで頭部を切断され…」
「はぁ…」
次々と語られる被害者の情報に、ジョディはため息をついた。
被害者の写真や、現場の写真が添付された資料は、目を覆いたくなるようなものもある。
これをさくらが見たと思うと切なくなる。シュウもさぞかし心を痛めているだろう。
「ジェームズ。今回の殺し、本当にミシェルの仕事なのかしら。
確かにミシェルは銃やナイフなどいろんな手口を使っていたけど、こんなに残忍な方法だった?
ましてや、頭部を切断して隠す意味が分からないわ」
「こればかりは分からんね。
5年半前の連続殺人の際には、ここまでではないが手荒な殺しもあったのは事実だ」
「そうなの?」
ジョディはもう少し捜査資料を読んでおけばよかったと後悔した。
「ミカエルのタロットカードの事は、報道されておらんし、模倣犯という線はあり得んだろう」
「た、確かに…」
ジェームズの言葉に、ジョディはうなずくしかなかった。
会議は続く。
「…ただ、この西村と先日殺された清里議員との接点が今のところありません」
「去年の選挙や清里本人の病気などで、西村病院が何か関わったりしたことは無いのか?」
「ありません。清里は至って健康で、病院にかかったことが無いんです。
選挙も彼は建設関係に顔が効く議員でしたから。
医療系との繋がりは聞いたことがないそうです」
捜査は手づまりの様相を見せ始める。
「まだ第2の事件が起こったばかりです。引き続き清里議員との接点や、西村の最近の交友関係なども調べてください」
「「「はいっ!」」」
「では今回の会議はこれまで」
捜査員たちはわらわらと会議室を出て行った。
ジョディは席を立つと、降谷の元に駆け寄る。
「降谷! さくらの様子はどうなの?」
「警察病院で点滴をしてもらい、今は薬で眠っています。
目覚めた時に発作を起こす可能性があったので、おたくのエースの潜伏先に身柄を預けてきました」
「そう…それなら安心ね」
「安心…でもありませんよ。
普通に目撃してもかなりショッキングですからね」
降谷の手は捜査資料をトントンとまとめる。
「彼女は普通の状態じゃなかった。以前よりはだいぶ良いと言っても、まだまだ完全じゃない。
血の匂いを嗅いだだけであんなに苦しそうにしていた…。それなのに…。
俺のミスだ。彼女を一人にするべきではなかった」
手がグッと握られ、しわの寄った捜査資料。
そこに降谷の悔しさがにじみ出ていた。
***
「う…ん…」
りおの目がわずかに開いた。
「…りお?」
静かに昴は声をかける。
りおは声が聞こえた方に顔を向けた。
「すば…る…さん?」
ぼやけた視界の中に昴の姿を確認したりおは、きょろきょろと状況を把握しようと辺りを見回す。
「あ…れ? 私…どうしたんだっけ?」
「現場検証に行って…倒れた…ようです」
「現場…検証で? そうだ…西村病院に行って…そこで秘書さんと話を…はッ!?」
そこまで言いかけて、りおは息を飲んだ。
「あ…ああ…あ…」
「りおッ!」
みるみる顔色を変え震えるりおを、昴は抱きしめる。
「はッ!…はぁ!…ひぅ…ひゅ…ひ…」
「お、おい! 大丈夫か?」
乱れた呼吸は、やがて過呼吸の発作へと変わる。
昴はりおの口を塞ぐようにキスをした。
吸気を遮断し、過剰に酸素を取り込もうするのを阻止した。
「んッ……ふ……ぅん…く…」
苦しさからか、りおは昴の体にしがみつく。
ギリッと昴の背中に鈍い痛みが走った。
「ふっ…ッん…くぅ…はぅ…ッ」
ままならない呼吸にりおは涙をにじませ、キスから逃げようと、さらに昴の背中に爪を立てる。
昴は少しでもりおの苦しさを紛らわそうと、唇を合わせたまま、りおが弱いところを舌でくすぐった。
「んんッ…ん…んっ…!」
りおの体がビクッと跳ねた。
時々空気を吸えるように口を離し、キスを続ける。
左手でりおの頭を支え、右手は背中にまわす。
背骨に沿って華奢な背中を優しく撫でた。
「んッ! …ふ、ぅん…は…ぁぁ」
苦しさのせいか、それともキスや愛撫に感じてか、りおは尚も昴の背中にしがみつき、体をしならせた。
ふと気が付くと発作は治まり、呼吸はだいぶ落ち着いていた。
しかしりおは昴の体の下で服が乱れ、全身がわずかに赤くし、蕩けた顔をしている。
そんな姿を見て昴はゾクリと身を震わせた。
「怖い思いなんて思い出せなくしてあげますよ!」
昴はウィッグとメガネ、変声機チョーカーを外すとりおに覆いかぶさり、その白い首筋に吸い付く。
「ッん…あぁッ…!」
りおの声が部屋に響き渡った。