第3章 ~光と影と~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その時、りおのスマホが着信を知らせる。
降谷からの電話だったため、りおはそっと赤井の手に自分の手を重ね、その手を腕から外すと着信をタップした。
「はい」
「広瀬! ミシェルが現れた! また一人殺された!」
「?!」
降谷から詳細を聞き電話を切る。
「招集がかかったわ。ミシェルが現れた」
「な、なに?!」
「また一人殺された。
しかも今回のターゲット、清里議員の汚職事件と関りがない。完全ノーマークだった」
りおはそこまで話すと、そっと赤井に口づけた。
「行ってきます」
そう一言告げて工藤邸を後にした。
りおが出てすぐ、ジェームズから電話がかかってきた。
「赤井くん、大変だ。第2の殺人が起こってしまった。
今回は『西村孝人(にしむらたかと)』という男だが、この男清里議員と繋がりが今のところない。
これから日本警察が現場検証を行うようだ。分かり次第詳細を伝える。
くれぐれも君は待機だ。いいね」
そう念を押されて電話は切れた。
「待機…ね…」
自分だけが蚊帳の外のような気がして、赤井は自嘲気味につぶやいた。
***
「広瀬! こっちだ」
西村の務める病院の前で、りおは風見に声をかけられた。
現場はまだ規制線を張っている途中だった。
風見は鑑識や所轄の刑事に声を掛け、りおはその陰に隠れるようにして病院内へと入る。
「院長室」と書かれた部屋の手前で発見時の状況を秘書から詳しく聞いた。
その「院長室」が殺害現場のようだった。
扉は開けっ放しにされており、部屋の中はかなり荒らされていた。
デスクの奥側に被害者が倒れているらしく、足元だけ見える。
りおは一瞬ドキリとするが、深呼吸をして覚悟を決める。
しかし部屋に入ろうとした時、肩に手をかけられた。
「ちょっと待った。広瀬、遺体を見ない方が良い」
声をかけたのは降谷だった。
「え? なぜですか? 現場検証でしょ? 見ない事には…」
「発作を…起こすかもしれない」
「え?」
「……頭部が切断されている」
「?!」
「相当量の血液が流れている。
お前…《赤色》に対する反応はだいぶ良くなったとはいえ、《血液》に対する過剰反応…まだ治っていないだろ」
ドクン!
りおの心臓が跳ねた。
「だからやめた方が良い。って、言ってるそばから顔が真っ青だぞ」
「ッ!」
血の匂いが充満していることに気付いた瞬間、背筋にゾクリと何かが這い上がる。
そのとたん呼吸が苦しくなった。
「はッ!…ふぅッ…くッ…」
「ッ! こっちに来るんだ」
降谷に肩を抱きかかえられ、向かいの「応接室」と書かれた部屋へ連れて行かれた。
部屋のドアがバタンと閉まる頃には、体の力が抜け自力で立っていられなかった。
目の前が暗くなり、周りの音が遠くに聞こえる。
「おい、広瀬! 大丈夫か? おい!!」
「だ…い…じょう…ぶ…です」
そう答えた瞬間、床に座り込んだ。
「全然大丈夫じゃないな…」
降谷はりおを横抱きにかかえると、応接室のソファーに寝かせた。
真っ青な顔をして浅い呼吸をしている姿は苦しそうだった。そんなりおを見て、降谷はそっとその頬に手を伸す。
血の気を失った彼女の顔は少しひんやりしていた。
「……」
ここは事件の最前線。それ以上の感情はしまい込んだ。
しばらくするとりおの呼吸も落ち着き、少し話が出来るようになる。
「広瀬大丈夫か? 具合はどうだ?」
「降谷さん…すみません…ご迷惑おかけしました」
りおは体を起こし立ち上がろうとした。
「ちょ、ちょっと待て。まだ無理だ」
「ッふ……ぅ…」
案の定、足に力が入らず立ち上がることが出来ない。
めまいがして、スーッと意識を持っていかれそうになる。
向かい合う降谷の方へ体が倒れた。
「広瀬ッ!」
降谷はりおの体を抱き留める。
思わず腕に力が入り、そのまま抱きしめた。
時間にして数秒。だが、降谷にとってはとても長く感じた。
一つ深呼吸をして再びソファーに寝かせた。
「情けないです。警察官なのに。血の匂いを嗅いだだけでこんな…」
りおは顔を右手の甲で隠すようにしてつぶやいた。
「仕方がないさ。ほかの警察官より何倍もつらい思いをしてきたのだから…」
降谷はスーツのジャケットを脱ぐと、ふわりとりおに掛けた。
「ここでもう少し休んでいると良い。俺は現場検証に行ってくるから」
「…分かりました」
降谷は優しく微笑むと、部屋を出て行った。
りおはため息をつく。
「現場検証の出来ない警察官か…笑っちゃうわね」
情けなくて涙が出た。
夏の頃に比べれば体調も良くなったし、トラウマに対しても少しずつ改善してきている。
オドゥムの幹部ウジンとの対峙以降、発作らしい発作も起こしてはいない。
それでもこうして時々思い出したように何かが起こる。赤井が心配するのも当然だ。
(早く…早く現場に戻らないと…遺体の部屋には入れなくても、他にも見るところはある…)
ふらつく体を何とか起こし、立ち上がる。
降谷のジャケットを丁寧にソファーの背もたれにかけ、一度深呼吸をした。
まだ死体発見現場を中心に現場検証は始まったばかりだ。降谷がいるということは、一課は足止めを食らっている。
公安が検証できる時間はさほどない。
(まずはこの部屋から見てみよう…)
白い手袋をしてグルリと部屋を見回した。
キレイに片づけられた応接用のテーブルには、灰皿が置かれている。
(灰皿があるのに、ここはタバコのにおいがしない)
クンッと鼻を鳴らして、部屋のにおいをかぐ。
「ッ!」
体がゾワリとした。
(わずかだけど…ここにも血の匂い…?!)
この部屋にあるのは応接用のテーブルとソファー、そして大きな書棚だ。
見ると書棚の一番下…。
それなりに深さのある引き出しに血がこびりついていた。
再び心臓が跳ね、呼吸が速くなる。
(落ち着け)
意識してゆっくり呼吸する。
何回か大きく吸って吐いてを繰り返し、鼓動が落ち着くのを待つ。
「ふ~~~……」
一度大きく息を吐き出すと、一歩ずつ書棚に近づいた。そのまま静かに膝をつく。
「…ん…。よし……」
意を決して引き出しに手をかけ、ゆっくりと開けた。
「きゃぁあああ!!!!」
「な、なんだ? 広瀬の声?!」
遺体のあった部屋で現場検証をしていた降谷と風見は顔を見合わせる。
降谷はすぐさま部屋を飛び出し、りおを寝かせていた部屋のドアを勢いよく開けた。
まず目に飛び込んできたのは、書棚の前で倒れているりおだった。
「広瀬ッ?! どうした?!」
降谷は慌てて駆け寄り、抱き起した。だがりおは完全に意識を失っている。
顔色は驚くほど青白い。
降谷はすぐさまりおの首筋に手を当てた。脈は触れるがかなり弱い。
「一体何があったんだ?」
降谷はりおを抱いたまま周りを見回した。
遅れて部屋に入ってきた風見は、書棚の引き出しが開いたままになっていたので、片膝をついて中を覗き込んだ。
「!!」
風見の顔が一瞬で青ざめる。
「ふ、降谷さん…!! 見てください!!」
「ッ! こ、これは! なんてことだ…。
風見、鑑識を呼べッ!」
「は、はい!」
風見はすぐに立ち上がり、応接室のドアまで急ぐと声を張り上げた。
「鑑識班!! 大至急こちらへ!! 頭部が見つかった!!」