第3章 ~光と影と~
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長いことキスをして抱きしめて、会わなかった時間を埋めていく。
唇が離れると、赤井はりおを自分の胸元へと抱き寄せた。
「参考人と接触した公安刑事…」
りおがつぶやいた。
「私だって知ったのね」
「ああ」
「誰から聞いたの?」
「降谷くんを通してジェームズから」
「そう。正規ルートね」
「出来ればお前の口から聞きたかった」
赤井は素直に気持ちを伝えた。
「それは…出来ないって分かっているくせに…」
りおは辛そうな声で答えた。
「警察といえども、FBIと公安。組織が違う。
情報の共有は原則協定が結ばれてから」
「…ああ」
分かっている。
分かっているんだ、そんな事。
赤井も辛そうに目を閉じ、下を向いた。
「ごめん。心配してくれているんだって分かってる。
ごめんね、秀一さん。ホントごめん」
りおの目から一粒涙がこぼれた。
「今回は『降谷零』から『広瀬りお』への指令だった。だから明かすわけにはいかなかった。
協定が結ばれた後も、FBIは一度《ミシェル》と対峙している。顔を覚えられている可能性もあったから、事後報告の決定がなされていた。
それに、ミシェルとあなたの因縁についても聞かされたわ。なおさら話せなかった…」
ミシェルとの因縁まで知っていると聞いて、赤井は驚いた。
「そうか、そこまで知っているのか…」
りおから体を離し、赤井は自分の目元に手を当てた。
「ミシェルを撃つ時…。それまで冷静だったのに、その時だけ心が…乱れたんだ」
赤井の言葉をりおは黙ったまま、静かに聞いていた。
「前に一度、自身の気の緩みから人ひとり死なせてしまった。
『もう大丈夫。助けられる』と思った瞬間にだ。
だから、ミシェルを撃つ時『絶対に外すな!集中しろ』と自分に暗示をかけた。
それが仇となった。ミシェルに集中していた俺は、ヤツをかばって飛び出した少年の存在に気付けなかった」
赤井の話を聞いて、りおはハッとする。
「ねえ、その『死なせてしまった人』って…」
「さすがに察しが良いな。『スコッチ』だよ」
りおは辛い顔のまま叫ぶ。
「ばかね! あれは…あれは事故だった。誰も悪くない。あなたのせいでも、安室さんのせいでもない。事故だったのよ…!」
「それでも! 銃を奪われたのも、一瞬の気の緩みでリボルバーから手を離したのも! …俺だ!」
「もうやめて!!」
りおは赤井の服を掴む。
「お願い…もうやめて…」
最後は声にならなかった。
「……ミシェルが次の仕事に取り掛かる日は近いわ」
赤井の服を掴み、下を向いたままりおは話し始める。
「なに?」
「ミシェルは過去にも汚職をした政治家とその関係者すべてを葬った。
今回も清里議員に関係した者は3名以上いると言われている。
今週アジトに何度か行ってみたけど、ノエルは居なかった。そしてジンもアジトにいない日の方が多かった」
顔を上げ、赤井の目をまっすぐ見る。
「ノエルがミシェルなら、次の仕事が近い。そう考える方が自然よ」
アンバーの瞳が切な気に揺れた。
「そしてノエルは私に『一緒にアメリカへ行ってくれるなら、日本での仕事が何か君に教えてもいい』と言っていたわ」
「な、なに? 一緒にアメリカに? どういうことだ?」
突然の話に赤井は驚きを隠せない。
「そのままよ。公私ともにパートナーになれって」
「まさか、お前…!」
赤井はりおの腕を掴む。その顔は険しい。
「『はい』っていえば、ノエルがミシェルかどうか分かるわ。
これ以上犠牲者を増やさないためにも、そしてあなたのためにも、早く決着をつける必要がある」
「お前ッ! それが嘘だと分かれば、どういう目に合うか分かっているのか?
警察だとバレれば殺されるんだぞッ!?」
赤井の顔が青ざめていくのが分かった。
「それだけは絶対させられない! りお! だ、だめだ!!」
りおの肩を掴み、見たことが無いほど取り乱していた。
「秀一さん…ねえ、秀一さん! 聞いて!」
赤井の顔に手を伸ばし、声をかける。
「ねえ、一体どうしたの? そんなに取り乱して…。あなたらしくないわ」
赤井と目を合わせ、りおは静かに問いかけた。
「お前、捜査資料全部見ていないだろう…。
ミシェルは狙った獲物は逃さない。どんな手を使ってでもモノにする。過去に殺されたターゲットはすべて手口が違うんだ。
ライフル・ナイフ・薬・至近距離からの銃撃…。その腕は確かだし、格闘技もお手の物だ。
今までの犯人とは格が違う。
そんな奴に狙われれば、お前だってどうなるかわからんぞ」
赤井の手に力が入る。
りおの肩に痛みが走った。
「だから! そのノエルというヤツの誘いに乗るな。
今回ばかりはお前の好き勝手はさせない。どうしてもというなら、俺はお前を監禁してでも止める」
「か、監禁って…」
穏やかでないワードも飛び出し、りおは困惑した。
「わ、分かったわ。彼の誘いには乗らない。
でも、近いうちにもう一度会わなければならない。その時に出来るだけの事を探ってみる。
彼が何しに日本に来たのか…それだけでも突き止めないと」
りおの言葉に赤井は辛そうにうつむいた。
旅行に行って刺客に襲われた時の事が、赤井の脳裏に浮かんだ。
首を絞められ、りおの手がダラリと力を失った瞬間…全身の血が沸騰したかと錯覚したあの感覚。
「くッ!」
思わずりおの腕を掴んでいた手に力が入った。