第3章 ~光と影と~
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「ところで…1年半前にFBIはミシェルを追い詰めたのに、どうして取り逃がしてしまったんでしょうか?」
同じ轍を踏まないためには、その理由を知りたいとりおは降谷に訊ねた。
降谷も同じ気持ちだったのか、目星をつけたページを開くとザッと目を通した。
「捜査資料を見ると…ノエルを撃ち損じたのはどうやら赤井秀一らしいぞ」
「えっ?」
赤井がターゲットを撃ち損じるなんてことは、今まで聞いたことがない。
せいぜいキュラソーとのカーチェイスの時くらいか。
あれだって時速180㎞で突っ込んでくる車を止めたのだから、撃ち損じとは言い切れない。
そもそも700ヤードも離れたところから、数センチの盗聴器を撃ち落とす腕を持っている。
にわかには信じられなかった。
「資料によれば、スラム街の子どもたちが絡んでいたようなんだ。
5年半前の政治家連続殺人の引き金は、スラム街の子の死が発端だったのではと言われているから…」
降谷はパラパラと捜査資料をめくる。
「5年半前に政治家のトーマス・ベネットが収賄や横領などの容疑で逮捕された時、その罪もさることながら金額も莫大で、街は一時市民の怒りが頂点に達し暴動が起きそうだった。
そのためトーマスを移送する際には、地元警察やFBIも駆り出されたらしい。
その時にスラム街の一角だけ、警備が手薄になった為に暴動が起こってしまった。
元々貧しい街だったせいもあって、政治家への怒りは常にくすぶっていた。
暴動が起きるのは時間の問題だった。
初めは小さな暴動だったにもかかわらず、すでに多くの地域が警察関係者で制されていたことがかえって裏目に出た。
抑圧されていた市民がスラム街になだれ込む様に集まり、あっという間に大規模な暴動に発展した。
だが、多くの警察官がトーマスの警護に就いていたため、すぐに対応できる者が誰もいなかった。
結局…数時間後に、比較的近くを警護していたFBIや地元警察のメンバーが鎮圧に向かったらしいが、その暴動で10名以上の市民が亡くなった。
その中には子どもも多くいた。
罪を犯したトーマスに多くの警護が付き、何の罪もない子どもたちは、そのしわ寄せによって命を失った。
いたたまれない事件となったんだ。
その半年後、トーマスとその関係者合わせて4名がミシェルによって殺害された。警察の捜査をかいくぐってね。
スラムの人たちにとって、ミシェルは元凶となったトーマスと警察…両方に天誅を食らわせた…敵を取ってくれた英雄も同然さ」
降谷の説明を、風見もりおも熱心に聞き入った。
「しばらくは地元警察もFBIも随分叩かれたようだ。
そして今から1年半前、ミシェルが再び現れた。
この時もニューヨーク市議の汚職事件が明るみに出た時だった。
5年半前に4名、そしてこの時もすでに4名の命が失われていたため、射殺命令も出ていた。
当然赤井は狙撃チームとして、ミシェルを狙っていた。
街の廃ビルが立ち並ぶところにおびき寄せ、射殺するタイミングを伺っていたようだが、その邪魔をしたのがスラム街のストリートギャングだった。
暴動で死んだ子どもたちの仲間で、この時13歳から18歳の少年になっていた。彼らがミシェルと同じ格好をして、辺りを走り回り狙撃のかく乱をしたんだ。
だが赤井は冷静に対処して、本物を見抜き撃った。
ところが、そのミシェルをかばった少年がいたんだ。
少年の肩を貫通し、威力をそがれた銃弾はミシェルの心臓の手前で止まった。
結果的にミシェルは逃げ、少年は自ら命を絶ったんだ。赤井達FBIの目の前で」
「自ら?! 肩の銃創は致命傷ではなかったんでしょう?」
「ああ。もちろん。おそらく見せしめさ。再び世間からFBI叩きをさせるためにね」
「そ、そんな…」
ミシェルと赤井にそんな因縁があったとは…。
正直、ミシェルが日本に来ているかもしれないという事実を、赤井に知らせたくないとりおは思った。
「赤井はミシェルが日本に来ている事を、もう知っている」
「えっ!?」
りおが何を考えているか分かって、降谷はそう声をかけた。
「昨日、彼の上司が伝えたはずだ。
勝手な行動は控えるよう、釘を刺されたようだがね」
「そ、それで彼は?」
「自分以上に無茶をする奴がいるから、最近自分は冷静でいられる…だそうだよ。
お前の無茶は意外なところで役に立っているんだな」
降谷の嫌味をサラッとスルーして、りおはホッと胸をなでおろした。
「さて、おしゃべりはここまでだ。
ミシェルの過去も少し分かったことだし、午後からが本番だぞ。気を抜くなよ」
降谷に肩を叩かれ、りおはぎゅっと身が引き締まる思いだった。