第3章 ~光と影と~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝食を済ませ、二人はお屋敷の掃除をしていた。
りおがリビングやキッチンを掃除している間に、昴は屋敷の外回りの片付ける。
「さすがに夏ほど草は生えてこないな…」
枯れ葉や草を袋に入れて作業がひと段落した時、ポケットに入っていた昴のスマホが震えた。
画面を見るとジェームズからのメールだった。
『潜伏中の君には大変申し訳ないが、どうしても会って話さなければならないことがある。
明日、午前10時にハイドホテルの812号室へ来てほしい』
ホテルの一室を借りての話となると、何か悪いことでも起こったか…。
昴は『了解』とだけ送信した。
午前中は掃除をし、午後は二人で借りてきたビデオを一緒に観たり、おしゃべりをしてゆっくり過ごした。
夕飯を食べ夜8時になる頃、りおは帰り支度をしてリビングを出る。
「じゃあ、秀一さん。また来週来ます。
金曜日何時くらいになるか、また連絡しますね」
「ああ、分かった。気を付けてな。
毎回思うが…本当に送っていかなくて大丈夫か?」
「大丈夫。夜は組織の人間が動くことが多いし、二人でいるところを見られたくないの…。
まあ、いざとなれば秀一さんに教わったジークンドーがあるからね!
じゃあ、行ってきます」
「ああ。いってらっしゃい」
いつもの挨拶をして、りおは工藤邸を後にした。
月曜日午前9時45分 ハイドホテル——
約束の15分前に、昴はホテルのエントランスにいた。喫煙スペースに入るとタバコに火をつける。
(カフェやレストランで客を装って会うことは何度かあったが、ホテルの一室を借りて…というのは初めてかもしれない。
周りに聞こえてはマズイ話をするということか…)
タバコの吸い口を親指で弾くと、灰がホロリと灰皿に落ちた。立ち上る煙は空調のせいでゆらゆらと揺れている。
悪い予感を感じながら、昴はそれを眺めていた。
10時少し前——
812号室のドアをノックする。
「どうぞ」というジェームズの声が聞こえた。
「失礼します」
昴はドアを開け中に入る。
奥まで進むと、窓際に置かれた小さな応接セットにジェームズは座って待っていた。
「赤井くん。こんなところまで呼び出して悪かった。
さあ、こちらに座ってくれたまえ」
「はい」
昴はジェームズと向かい合う形でソファーに座る。
「何か飲むかね?」
「いいえ。とにかく話を聞かせてください」
「……分かった」
ジェームズは返事をして腕を組み、一つため息をついた。
「清里議員の事件は知っておるかね?」
「ええ。ニュースで見た内容くらいしか分かりませんが。殺害されたようですね」
「ああ。1週間ほど前に大手企業との汚職事件が公になったばかりだった。
金に汚い政治家というのはいつの時代も、どこの国にもいるのだな。
そういえば、我が国にもつい1年半ほど前に、そんな輩が現れて大騒ぎになった。
あの時はニューヨーク市議だったか…」
ジェームズの話を聞いて、昴は顔を上げ片目を開いた。
「ジェームズ。何の話をしているのですか? …ッ…まさか…?」
「そのまさかだよ、赤井くん。清里議員の遺体のそばにタロットカードが置かれていた。大天使ミカエルのカードがね」
「ッ?! ミシェル…あいつが日本に?!」
昴はにわかに動揺した。
「1年半前、君が撃ち損じた《ミシェル》がどうやら日本に来ていると見て間違いない。
我々は昨日付で日本警察と合同捜査の協定を結んだ。今後は公安と行動を共にすることになる」
「公安と?!」
昴の様子を見て、ジェームズはさくらが赤井に何も伝えていない事を察する。
(さすが公安警察の精鋭。ちゃんと線引きをしているようだ)
ジェームズは感心した。
「先ほど公安の降谷から連絡がきた。明日、重要参考人と接触するようだ。
まだミシェルと断定できないが、万が一の事を考えて我々FBIはその接触には関わるなと言われている。
FBIの中には顔を覚えられている者もいるかもしれないからな。
どうやら公安の刑事が直接接触するようなので、その刑事の身の安全を考えての事らしい」
「公安の刑事?」
昴に一抹の不安がよぎる。
「正直、君にこの事を話すかどうか私は迷ったよ。
いくら沈着冷静な君でも、奴の存在はその冷静さを失わせてしまうのではと危惧したんだ。
だが日本の公安とも協力する以上、身内の君に話さない訳にはいかない。
良いかね。私の意を酌んで、決して無茶な行動をしてはならんよ」
ジェームズは昴の様子に注意を払いながら、言葉を選ぶ。
「分かりました。大丈夫です。
私以上に無茶をするのがいるので、逆に冷静にならなければと思うことが最近多いですから」
穏やかな笑顔を見せる昴にジェームズは安堵した。
「だがその無茶をする子も警察組織の人間…君と同じように危険に身を置く立場だ。
その子に何かあれば、それこそ冷静さを欠いてしまうことだってある。油断は禁物だよ」
「はい。肝に銘じておきます」
ジェームズはよほど心配なのか、終始硬い顔をしたまま淡々と話す。
昴も彼の意を酌み、素直に返事をした。
「公安からの連絡は随時伝える」
最後にそうジェームズと約束を取り付けて、二人はホテルを出た。
ホテルを見上げ、昴はりおの事を考えた。
「直接接触する公安の刑事…まさか…」
信号が変わり、目の前の車が動き出す。
大通りにはたくさんの車が行きかっていた。
不安な気持ちを拭えぬまま、昴は帰路についた。
翌日午前中——
りおは警視庁の会議室にいた。
広い会議室の一角で、降谷と風見と3人で向き合う。部屋が広すぎて少し落ち着かない。
「ここへの登庁もようやく慣れてきました。
数年ぶりの登庁の時はどうやって入るか分からなくて、不審者扱いされましたし…。風見さんが助けに来てくれなかったら、出禁になるところでした…」
照れ笑いを浮かべるりおを見て、降谷と風見はやれやれ…という顔をする。
「お前…これからノエルと会うんだろう? 緊張感ってものは無いのか?」
ヘラヘラと笑うりおを横目に、風見は午後の任務の事を思って胃が痛む。
「まあ多少は緊張してますよ…。それよりどこを観光案内しようか決まらなくて。
警備の問題もあるので相談に乗ってもらっても良いですか?」
地図を広げ、万が一の事まで想定して案内する場所の候補を挙げていく。
(ああいうところ、ストイックというか肝が据わっているというか…すごいヤツだよ、ホント)
風見は胃のあたりを押さえ、ため息をついた。
「移動は電車か? 車か?」
降谷はりおの顔を見た。
「それもこちらで決めて良いと思います。ノエルは何も言っていなかったから」
「君の安全を考えると、電車の方が良いだろう。
車じゃあ何かあってもすぐ助けにいけないぞ」
「でも、ほかの乗客に何かあっては…」
「ミシェルは一般人を殺したことはない。すべて汚職事件に関わった人物だけだ。街中で無差別に殺しをするタイプではない」
FBIからの捜査資料を見ながら、作戦を立てていく。
「では、ランチをおごってくれるって言っていたからお昼はこの和風レストランに。ここなら明るくて見通しが良い」
りおは大通りに面したレストランを指さす。
「了解。その時間に合わせて事前に公安の者を配置しておく」
「ここを出たら、近くのショッピングモールへ行きます。そこから電車で東都タワーへ。
日本の建物巡りを希望したら、徒歩で行けるこの界隈のお寺をいくつか巡ってみます」
観光案内ということを考慮して大体のコースをシミュレーションし、刑事の配置を降谷と風見で考えた。
「よし大体こんな感じかな。
あとは広瀬のバッグに盗聴器を仕掛けておく。
最新のタイプで薄くて小さいし、ノイズも出にくいから気付かれないだろう」
降谷がポケットから何かを摘まみ出す。
風見が「あ!」と声をあげた。
「それ、コナンくんが風見さんにつけた…」
「ああ、そうだよ。阿笠博士が作ったシール型発信・盗聴器の改良型だよ」
「改良型?」
りおが不思議そうな顔をする。
「発信器機能を無くして、盗聴機能のレベルを上げてもらったんだ。
お前のスマホには公安のGPSが付いているから発信機能は不要だろ。
これで広瀬と参考人の会話はかなり離れていても聞こえる」
降谷はニッと得意気に笑った。