第3章 ~光と影と~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
客室を出てリビングに行くと、昴がちょうどジャケットを羽織ろうとしていた。
「準備できましたか?」
「はい!」
「それでは出かけましょう」
二人は昴の車に乗り込み、デパートへと出発した。
東都デパート——
二人は紳士売り場へやってきた。
「秋冬物だと、首元隠れる服が多くて助かるわ」
「いつも首元を隠しているせいか、園子さんや世良さんにまで、『そのタートルをめくってみたい』と言われるんですよ…」
昴はうんざり顔だ。何しろJKの追求は殊(こと)の外しつこい。
それはさくらもよく知っている。
「隠されると見たくなるのは人間の心理と言いますか…。仕方がないですよね…」
苦笑いをしながら、さくらは洋服をいくつか手に取った。
昴の体にあてがいながら、考えているようだ。
「これなんかどうですか?今着ているジャケットにも合いそうです」
「良いですね。サイズは…ちょっと試着してみます」
「はい。試着室の前で待っていますよ」
二人は試着室へと移動した。
「わぁ! やっぱり似合いますね! サイズどうですか?」
「ちょうどいいですよ。デザインも良いですし、これ買います」
「良いのがあって良かったわ!」
「さくらに初めて見立てて貰いました。
大事に着ますね」
昴が嬉しそうに言うので、さくらは思わず顔を赤くした。
「そういうところ、タラシだって言われたことありません?」
「さあ? どうだったかな?」
昴は元の服に着替えるとカーテンを開けて試着室を出る。
ニコニコと人の良い笑顔のまま、さくらの質問をサラッと受け流して会計へと行ってしまった。
「あと、そうだ。ここも寄りましょう」
「え? アクセサリー売り場?」
何着か服を購入した後に昴が向かったのは、女性もののアクセサリーが並んだ小さなショップだ。
「私の夏物を買いにデパートへ来た時、本当は買ってあげたかったんですけど…。
歩行者天国で狙撃事件があって、買い物どころではなくなってしまいましたからね…」
そういえば、そんなことがあった…。
特設ステージで歌っていた男性が狙撃された事件。
偶然にも『赤井秀一の殺害動画』と一致し、それを目撃したさくらが発作を起こしてしまったのだ。
あれから2か月以上が過ぎていた。
「コナンくんが蘭さんに何かプレゼントをしたいと相談に来た時は、アクセサリーを持っていないと言っていましたしね。
(番外編『プレゼントは何が良い?』)
今だって、あなたが作ったシーグラスのペンダント一つしか持っていないでしょう。
(番外編『思い出の…』)
せっかくピアスホールが開いているのですし、今日はピアスを見ていきませんか?」
昴はさくらの返事を聞く前に、ツカツカとピアスが並ぶショーケースに向かう。
「え? ちょっ、昴さん?!」
さくらは慌てて昴の後を追いかけた。
「普段使いなら、あまり大きくない方が良いでしょうね。どんなデザインが良いかな」
なんだか昴は嬉しそうだ。
「す、昴さん。私アクセサリーとかホント似合わないんだって…」
「そんな事無いですよ。さくらは自分を過小評価しすぎです」
尻込みするさくらをよそに、昴はショーケースの中のピアスを次々と見ている。
「ほら、さくら。自分で良いなって思うものは無いのですか?」
昴に訊ねられて、さくらはいくつかケースの中を覗いてみた。
その中の一つに目が留まる。
「これ…すごく好きかも」
思わずつぶやいた声が昴の耳にも届いた。
「ん? どれだい?」
さくらが指さしたピアスを見て、昴は思わず顔が熱くなるのを感じた。
「こ、これは…」
さくらが指さしたピアスは、小さなさざれ石のルビーが三粒縦に並んでいて、その下にしずく型のペリドットが揺れていた。
さくららしい、小ぶりでシンプルなピアスだった。
「ふふふ。『赤』と『黄緑』で誰かさんみたいでしょ?」
昴の顔を見て嬉しそうに微笑むさくら。
(そんな顔で微笑むな……どんな顔して良いか分からなくなるだろう!)
昴は思わず自分の口元に手をやる。
ああもう! お前のほうがタラシだよ!
昴は心の中で盛大にツッコミを入れた。
さくらは昴に買ってもらったピアスをすぐにつけさせてもらった。
「よ、よく似合います…」
「何照れてるの?」
「いや、だって…その……あなたの耳元に『彼(赤井)』がいると思うと…」
「妬いてるの? 嬉しいの?」
「なんというか…両方…ですかね」
普段は沈着冷静な昴であり赤井が、耳まで真っ赤にして照れている。
本人は平静を装い、一生懸命隠しているつもりらしいが。
(ジョディが知ったら、きっと目を丸くして驚くだろうなぁ…)
さくらはふとそんなことを考えてしまった。
「昴さん、ありがとう。大切にするね」
さくらはにっこり微笑んだ。
買い物の後は二人でランチをして、工藤邸へと戻った。
「買い物してランチなんて、初めてでしたね」
「そうですね。二人でお出かけは何度もありましたけど…。周りを警戒し過ぎて、避けていましたから…。
でも、外食も良いけど、昴さんの煮込み料理も随分腕が上がりましたから。金曜の夜は楽しみなんですよ~」
今は別々で暮らす二人。
金曜の夕方にりおが工藤邸を訪れ、日曜の夜まで一緒に過ごすのが恒例になっていた。
「煮込み以外の料理も、もう少し勉強しないと」
すっかり主夫ね~と言われても、昴は悪い気はしなかった。
「ところで昴さん、このあと組織のところに行ってきます。ベルモットから呼び出しがあったの」
降谷からと伝えるわけにはいかなかった。
清里の件に関しては、まだ公安と捜査一課しか知らないはずだから。
「分かりました。あなたとの時間が無くなるのは残念ですが…。気を付けて」
「はい。行ってきます」
りおは準備をすると、組織のアジトへと出かけて行った。
****
「ジェームズ! 降谷からの情報は本当なの?!」
ジョディは日本に『ミシェル』が現れたかもしれないという報告に驚いていた。
「ああ、本当だ。まだ断定できないが、おそらく間違いない。
1年半の沈黙を破って、まさか日本にやってきているとは…」
いつもにこやかなジェームズも、今回ばかりは少し青ざめた顔をしていた。
「シュウには伝えたの?」
「いや、まだだ。彼はいま潜伏中の身だ。
『ミシェル』の事を伝えるべきか決めかねている。
赤井くんにこのことを伝えれば、是が非でも探し出そうとしかねない。
しかも今回『ミシェル』は組織と繋がっている可能性もあると降谷くんは言っていた。
現状で彼らが接近しすぎるのはキールのことを考えるとまずい」
ジェームズは頭を抱えていた。
「でも、さくらは公安でしょ?
なら、彼女を通して知る可能性だってあるわ」
「彼女はそんな事をしないだろう。どんなに恋仲になろうとも、自分の仲間の情報はそうそう明かすものではない。
よほどの緊急事態にならない限りはな」
ジェームズの言葉に、ジョディは何も言い返せなかった。