第2.5章 二人の遠出~温泉旅行編~
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早朝
日が昇る直前、昴とりおは深夜に聞いた悲鳴のような音を確かめるべく、山の中を歩いていた。
「深夜で静かだったし、気温も低かったから音は良く通ったんじゃないかな。
旅館からは結構距離があるかもしれないね」
「ええ。滝のあたりまで行ってみましょうか」
山の中は遊歩道のように整備はされているが、かなり道は悪い。りおは息を切らして歩いていた。
「りお、腹の傷は痛みませんか?」
「大丈夫。それよりも…」
「ん? どうしました? どこか痛いですか?」
「……こ、腰が…」
「あ~……(察し)」
「連日…しかも毎回私が落ちるまでって…あなたは鬼ですか? それとも悪魔?」
「それは彼(赤井)に言ってください。私ではありませんから」
「昴さんも秀一さんも、そうやって都合が悪くなるとすぐ別キャラのせいにするんだから…」
都合よくキャラのせいにする昴を睨んだ。
「りお、そんなに睨むとかわいい顔が台無しですよ」
「いいもん。他に人がいるわけじゃな…」
ガサガサガサッ!!
憎まれ口を叩こうとした時、草木の揺れる音がした。
明らかに誰かいる。
「ッ!」
昴はとっさに物音がした方へ駆け出す。
「す、昴さんッ!」
りおは慌てて後を追いかけた。
しばらくすると、
ガラガラガラ…ズーンッ!
何かが転がり落ちたような音が聞こえた。
嫌な予感を感じつつ、りおは昴の後姿を懸命に追った。
広葉樹林の中を抜けると景色が開け、その先が崖だということが分かる。
先に着いていた昴が振り向き、叫んだ。
「さくら! 来るなッ!」
「え?」
制止され訳も分からず立ち止まる。
その時さくらの横に影が近づいた。
昴もその気配を察知する。
「「ッ!!」」
とっさに身構え避けようとしたが、僅かに初動が遅れて左腕を掴まれた。
(ダメだ、左腹にまだ力が入らないから、どうしても避けきれない!)
影の人物は左手でりおの左腕をひねり上げ、右腕で首元を押さえつけた。
ウジンにつかまった時と同じ状況だ。
「さくらッ!」
「日本の言葉で『飛んで火にいる夏の虫』…と言うんだろう?」
かなりの訓練を積んでいることが分かる身のこなし。そして捕まえた人質の拘束の仕方。
「オドゥムの刺客か!」
昴はさくらの首をギリギリと締め上げている男に叫んだ。
「崖の下で死んでいるのは俺の仲間さ。ヤツはケガをしたラスティーが湯治場にいるのではと考えていたようだが…まさかアタリだったとはな」
締め上げる手はそのままに、男はさくらの顔を見下ろす。
「もっとも、ヤツはラスティーにはたどり着けず、期限切れで俺が粛清した。まさかここでヤツが探していたラスティーを俺が見つけるとはね」
フフッと気味の悪い含み笑いをして、男は視線を移し昴を睨みつけた。
「崖の下の男は…やはり病院からつけてきた帽子の男か」
「ああそうさ。新幹線でラスティーにまかれたバカなヤツだ。
ラスティーは藤枝に拘束された。そしてウジン様を殺した。
つまりこの女が都内に戻っている事も知らずに、ずっとこの辺りを調べていたんだよ。
俺は夕べ遅くにヤツを消すために来たんだが…。
ヤツも相当の訓練を受けていてね。とどめを刺せなかった。明るくなってから出血で動けなくなっていたヤツを探し出し、崖下に突き落としたのさ」
右腕でさくらの首を締めあげながら、平然と殺しの状況を説明している。
おしゃべりをしているが男にスキは無い。
さくらを救出しようにも、昴は動くことすら出来なかった。
(くそっ! このままではさくらが…!)
昴は眉間にしわを寄せ、奥歯を噛みしめた。
「ぐっ…ふ…ぅ…」
苦しさですでにさくらは朦朧としていた。
汗が吹き出し顔が紅潮する。
それでもわずかな意識の中で、太い男の腕に爪を立て、何とか逃れようともがく。
その間もアンバーの瞳が光を失いつつあった。
やがて、男の腕を掴んでいたさくらの右手の動きが緩やかになりスルッと滑り落ちる。
そのまま全身の力が抜け、頭を垂れた。
「ふははは。どうやらラスティーが息絶えたようだ」
「ッ!!!」
男の言葉に昴の目がカッと開いた。
まるで心臓を鷲摑みされたような胸の痛みと、全身の血が沸騰したかと思うほどの《怒り》が昴を襲う。
温厚な男の顔が、みるみるうちに殺人鬼を思わせる様な鋭い目に変わっていく。
握った両手の拳はブルブルと震えていた。
男は昴から殺気を向けられると、腹の底から恐怖を感じる。
(な、なんだ?! こいつはッ!)
ただならぬ昴の様子に男が一瞬怯んだ。
一歩、二歩…後ずさる。
昴は逃がすものかと一歩、二歩と男の元へと近づいた。
威圧的に近づく昴に恐怖を感じ、男は邪魔になったさくらをその場へ投げ捨てようと腕の力を抜く。
男の力が抜けたスキを逃さず、さくらが目を開けた。その腕を掴み、みぞおちに蹴りを入れた。
ドカッ!!
「ぐふぉッ!!」
男は腹を押さえて倒れ込む。
さくらもそのまま倒れ込み、ひどくせき込んだ。
「ゴホッゴホッゴホッゴホッ!!」
「さくらッ!」
昴が駆け寄ろうとすると、男は腹を押さえたままサイレンサーの付いた銃を向けた。
バスッ!
銃弾が昴の足元の土を深くえぐる。
「くッ!」
昴は動けず男を睨んだ。
「ぐはッ! ラスティー! よくもッ!」
男は腹を押さえて立ち上がると、倒れているさくらに近づき、左腹のケガめがけて蹴りあげた。
「ッ!!」
蹴られた衝撃でさくらは数メートル転がる。
そのまま動かなくなった。
「くそっ! ラスティーめ! 姑息な手を!」
男は持っていた銃を今度はさくらに向けると
その照準を頭に合わせる。
ガチッ!
撃鉄を起こした瞬間、昴は懐に隠し持っていた銃を抜いた。
バスッ! バスッ!
男の銃を弾き飛ばす。
そのまま躊躇なく男の右足を打ち抜いた。
「ぐあぁッ! お、お前は一体…?!」
まさか銃を持っているとは思っていなかった男は、痛みと焦りの入り混じった顔で昴を睨みつけた。
「お前に名乗る名などない。それよりまだ俺とやり合うか?
それともオドゥムの残党が日本にあと何人いるか教えるか? それを話せば命だけは助けてやる」
昴に銃口を向けられ、足を打ち抜かれた男に逃げ場はない。
だが男はフッと片方の口角を上げると笑い出した。
「ははははっ!! それで俺を脅しているつもりか? 俺の命などすでに将軍様のものだ。お前に教える情報などない。せいぜい女の心配でもしてやるんだな」
そういうと、右足を引きずりながら崖を目指して走り出す。
何をするつもりか察した昴は、さらに左足を狙うが、男は投げナイフを昴に向かって放った。
「ッ!」
すんでのところで避けると、ナイフは背後の木に突き刺さる。
「将軍様万歳!!」
そのスキに男は叫びながら崖下へと飛び降りた。
ドシャッ
男が地面に叩きつけられた音が響く。
昴の表情が歪んだ。
最高指導者を守るため、その命を差し出す行為に虫唾が走った。
ハッとして、昴はすぐにさくらの元へ駆け寄る。
「さくらッ!」
抱き起して頬を軽く叩く。
「さくら! しっかりしろ! おい!」
「…ぅ…ん…」
「さくら! 大丈夫か?!」
「すば…るさ…うッ! くぅ…!」
意識は戻ったが、蹴られた腹部の痛みは相当強いようだった。