第2.5章 二人の遠出~温泉旅行編~
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雨が小屋の屋根を叩く。
その音は次第に強くなっている気がする。
りおは管理小屋の窓から外の様子を伺った。
赤井はまだ戻らない。
「ずいぶん強く降ってきちゃったわ。きっとずぶ濡れで帰ってくる。囲炉裏の火を少し大きくしておかないと…」
薪をいくつか足し、部屋を暖める。
湯を沸かし、冷えた体を少しでも温められるようにと準備をして待っていた。
やがてバシャバシャと走る足音がこちらに向かってくることに気付く。
ガラッ!とドアが開くと、ずぶ濡れの赤井が中に入ってきた。
「ふ~。途中で降られてしまった」
「秀一さん! おかえりなさい。さあ、早く火のそばへ」
りおはタオルを取り出すと赤井に手渡した。
赤井はタオルを受け取り髪を拭く。
ワシャワシャと拭いた後は、ボタンを外して肌に張り付くシャツを脱いだ。
りおはシャツを受け取ると、壁際にあったハンガーにかけた。
「ズボンもずぶ濡れね…」
「ああ。仕方がない。乾くまでパンツ一枚で過ごすか。りお、そこの毛布を取ってくれ」
「赤井パンイチ…」
「りお…寒い冗談だぞ」
ちぇー面白いと思ったのに…とブツブツ文句を言いながら、毛布を手渡した。
「上手くブルーシートで被うことは出来た?」
囲炉裏の火を調整しながらりおは訊ねた。
「ああ。とりあえず急ごしらえではあったがな。
後は野生動物に荒らされなければ良いんだが…」
毛布に包まり、マグカップの白湯を飲みながら赤井は答える。
「そ、そうね…」
赤井の言葉にゾッと鳥肌が立つ。心なしかりおの声が震えた。
「すまん。余計な事だったな」
「え? あ、ううん。大丈夫。気にしないで」
最近赤井はりおの変化に敏感だ。
「そういえば…りおはまだ、赤い色を見ても…ダメかなのか?」
昴の姿で切り付けられた強盗事件をきっかけに、血だけでなく《赤い色》にも過剰反応を起こしていた。
「ううん。《赤い色》はもうほとんど大丈夫。
踏切のライトも、赤い傘も。今では平気よ」
「だが血液は…?」
「そうね…。赤い物なら大丈夫だけど、赤い液体のようなもの…血液を連想させるものは…ダメかな…。
警察官がこんなんじゃいけないよね」
「仕方ないさ。それは俺にも責任がある」
すまなかったな…と小さく謝罪の言葉をつぶやいた。
「私が無茶したからいけなかったの。秀一さんが悪い訳じゃないわ」
「……」
「どうしたの?」
「いや…。珍しく自分の無茶を認めたな、と思ってな」
「私だってたまには…」
そこまで言いかけた時、りおのスマホが鳴った。
「もしもし?」
りおが電話に出る。
どうやら県警本部から救助についての連絡が来たようだった。
「秀一さん、雨が止んだら救助に来てくれるって。
ただ風がまだ強いから救助優先で、遺体の回収は天気の回復を待ってからだそうよ」
「そうか。ブルーシートを掛けてきたのは正解だったな」
赤井は笑顔で答えた。
「救助が来るまでに変装しないといけないね」
「ああ。それまでに服が乾くだろうか? さすがにパンイチで救助されたくはないな」
「もういいじゃん。赤井パンイチで救助されちゃえば」
りおはニヤリと笑う。
「お前が付けたキスマーク…救助の人に晒すことになるぞ。
それを見たヤツは何を想像するだろうな」
「……。服濡れてても着てください」
「お前…鬼か…」
その日の昼前には無事服も乾き、変装を終えた昴とりおは県警のヘリで救助された。
救助後、お腹を空かせた二人の為に県警が頼んでくれたうどんを食べ、強盗の仲たがいの様子について事情聴取を受けた。
駐車してあった車まで戻ってきたのは、昨日温泉に来た時間と同じ頃だった。
「なんか時間が巻き戻ったみたい」
「ええ。この後どうしますか? 1日遅れになってしまいましたけど。
まあ旅館は今のシーズンですから、いくらでも空きがあると思いますが」
「せっかく来たんだし、ここからやり直そうよ」
「そうですね。じゃあちょっと待ってください」
昴はスマホを取り出すと電話を掛けた。
「昨日キャンセルした旅館に連絡したら、今日でも大丈夫だそうですよ」
「やったぁ!」
「それではすぐに向かいましょう。」
二人は車に乗り込み旅館へと向かった。
30分程車を走らせ、二人は旅館に到着した。
山間の小さな旅館だが、手入れが行き届いた風情ある旅館だ。
中に入ると女将と思われる女性がニコニコしながら近づいてきた。
「刑事さんからもお話を伺っております。
昨日は災難でございましたね。さぞお疲れでしょう。さあ、こちらへどうぞ。すぐにお部屋にご案内いたしますね」
そう言って係の者を呼び、二人の荷物を運んでくれた。
通された広い和室。
窓から見える景色は山肌を流れる滝と広葉樹、そしてその先には遠く海が見えた。
「ここはこの旅館の中で、一番美しい景色が見えるお部屋でございます。
紅葉にはまだ早いですが、それでも木々の緑と海の青、滝の白…見ていて飽きません。
時々野生動物たちも姿を見せることもありますよ。
あと、こちらのお部屋には内風呂もございます。
大湯と同じ天然の温泉から引いてきております。
お風呂からも景色が見えますから、そちらもお楽しみください」
担当の女性が微笑みながら説明をしてくれた。
「ところでお二人は新婚旅行でいらっしゃったのですか?」
「え? 新婚りょ…」
「ええそうです。結婚したらぜひ来てみてと友人に紹介されて」
昴はりおの言葉を遮るように答えた。
『オドゥムから身を隠しているのですから、あまり正直すぎない方が良いですよ!』
『そりゃそうかもしれないけど、でも《新婚旅行》だなんて!』
『こんな観光シーズンでもない時期に宿泊するんですよ? 新婚旅行とでもしておかないと、《男とお泊り》《不倫か?!》《恋人か?!》って変に勘繰られるでしょ? 人は根も葉もないうわさ話が大好きですから。
それともりおは勘繰られたいのですか?』
『ぐっ…』
「ご友人のご紹介でございましたか。ありがとうございます。お二人とも仲がよろしいのですね」
コソコソと話す二人を見て、女性はクスクスと笑っていた。
「お夕飯の時刻は6時30分でございます。それまでごゆっくりお過ごしくださいませ」
一通り部屋の説明が終わると、そう言って女性は出て行った。
「ふう~。昴さんが変なこと言うから、緊張しちゃったわ」
座布団に腰を下ろしてりおはぐったりしていた。
「まあまあ。これで他のお客や従業員さんに、変に勘繰られることも無いでしょう。
のんびりできますよ」
隣で昴はクスクス笑っていた。