第2.5章 二人の遠出~温泉旅行編~
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「やっと…着きましたよ」
二人が管理小屋に着いた時、時刻は16時を回っていた。日没が近く、どんよりとした雲が空を覆う。辺りは徐々に薄暗くなってきていた。
「りお、大丈夫ですか?」
「う、うん…。なんとか…」
途中さすがに痛みがひどくなり、何度かおんぶすると昴に言われた。
しかし登りが続く山道でそれはさすがに申し訳なく、りおは昴の肩を借りながら小屋までなんとか自力で歩いた。
「遠慮することないのに」
「30越えたら、20代のようにはいかないでしょ」
「私はあなたより年下のはずですが…」
「……」
「りお…そこで沈黙されると逆にツラいな…」
「ごめん昴さん。疲れて思考がストップした」
お互い息を切らしながら、軽口をたたき合う。
「私はまだまだ思考がストップするほど疲れていませんよ?」
「……だから私より若いって言いたいの?」
どんなに疲れていても、お互いの『負けず嫌い』は健在なようだ。
小屋の入り口に立つとそこにはカギはなく、かんぬきを外すだけで中に入ることが出来た。
小屋の中は思っていたより広く小綺麗で、小上がりを上がると囲炉裏がある。
「元々ハイキングの休憩所として建てたようです。
ただ、コースの安全上の問題や、予算の関係でここまでハイキングコースを作る事を断念した経緯があったみたいですよ」
「なるほど…それで…。管理小屋にしてはちょっとおしゃれなつくりなんですね」
りおは小上がりのふちに腰かけ、リュックを下ろした。
昴は再び外へ出ると、小屋の外回りを一周する。
「薪も裏にたくさんありました。もうこんな時間で天気も怪しいですし、救助に来るのは明日以降でしょうね。
暖を取ることは大丈夫ですが、問題は食料と水ですね」
「水道あるけど……出ないね…。でも水道があるって事はどこか元栓を探せば出るかも。
ちょっと待って…。あ、これかな」
りおが洗い場の下にあったバルブを回すと、蛇口から勢いよく水が出た。
「奥にトイレもありますよ。後は食料ですね」
「それなら少し持ってきているわ。軽食用にって思って。大したものは無いけどね」
りおはリュックからキャンディやチョコ、ビスケットを出した。
「管理小屋に備蓄は無いかな……」
二人でごそごそと小屋の中を探し回った。
「あ…昴さん、乾パンと飲料水ありました。消費期限も大丈夫ですよ」
「これだけあれば1日くらい何とかなりそうですね」
りおは囲炉裏の周りをザッと掃除をして、部屋の隅にあった座布団を置いた。
その間に昴は薪を外から運び入れ、囲炉裏に火を入れる。
電気は来ているようだったが、あいにく電球が切れているらしく、照明が点かない。
それが当たり前になっていたのか、小屋にはランタンが置いてあった。
「ランタン点きますよ。良かった。照明がないよりましですね」
昴の言葉にりおもほっとした表情を見せた。
小屋の中の空気を入れ替えようと窓を開ける。
しばらくすると木の葉に雨の当たる音が聞こえてきた。
「降って来たようですね」
「うん。そろそろ窓閉めるね。ちょっと寒い」
窓を閉め、りおは左足を引きずりながら囲炉裏のそばへと戻った。
昴は火の様子を見ながら時折薪をくべる。
「なんか大変だったけど…でもこういうのも良いね。
火ってコントロール出来ない時は怖いけど、こうやって囲むと不思議と癒される…」
囲炉裏の火に照らされたりおが昴の隣でつぶやいた。
「そうですね。あなたとこうやって火を囲むのも悪くない」
「あ、ねえ、もう秀一さんに戻ってよ。救助は明日向かうって連絡あったんだし」
りおの言葉に昴は頷くとメガネとウィッグを外した。
最後にチョーカーの電源をOFFにするとスルリと首から外す。
「これで元通り」
「ふふ。おかえりなさい。秀一さん」
「ただいま、りお。今日はいろいろあって1日長かったなぁ。
海鮮丼食べたのがずいぶん前な気がするよ」
「そうね。そういえばお腹すいた? 何か食べる?」
「そうだな…。チョコレート。チョコレートが食べたい」
「了解。はい。どうぞ」
「食べさせてくれないのか?」
「え?」
「前に少年探偵団が遊びに来た時みたいに」
どうやら子どもたちに隠し撮りされた時の事を言っているらしい。
《短編集『少年探偵団~隠し撮り~』》
「それ、激写されて後日大慌てだったの誰だっけ?」
「りおじゃなかったか?」
「違うよ。秀一さんでしょ。
哀ちゃんに『これだけ好きをダダ洩れにして、仲の良い同居人とは良く言ったものね。嘘つき!』って言われて言い返せなくなっていたじゃない」
「それは昴だな」
「もう!! 都合悪くなるとすぐ昴さんのせいにするんだから」
そう言いながら、りおはチョコレートの包みを開けて一粒取り出した。
「はい、どうぞ」
チョコレートを指でつまむと赤井の口元に差し出す。
赤井はニッと笑うと、あー…と口を開けパクリと食べた。
「美味しいですか?」
「んー。うまいよ。味見してみるか?」
そう言うが早いか、赤井の顔がりおに近づいた。
チュッと音がしてすぐに唇は離れた。
「……」
「ん? りお、チョコレート好きじゃないのか?」
「好きだよ! 好きだけども! 普通に食べるわよ!
こ、こんな照れくさいの…味なんて分かるわけないでしょ!」
りおは真っ赤になって反論した。
アンバーの瞳が照れているのをごまかすように揺れている。
その瞳の色を見て、赤井は昼間聞こうと思っていたことを思い出す。
今なら…聞けば話してくれるだろうか。