別れに立ち会う人は幸運である
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セノ
・悪い方に過去捏造だけどフワッとしてるのでわかりにくい
「もうお別れだね」
一面の砂。砂しか知らない場所で生きてきた。神殿で過ごそうとも、それは変わらない。神の化身が宿るこの身に自由なんてものはなかった。ないはずだった。そう思い込んでいただけで自由は常にセノの目の前に存在していた。
振り返ってそう思えるようになったのは今だからこそといえるがその時は自由なんてそんな言葉が自身の物であるかなんて考えてすらいなかった。それに知らないものに焦がれることはできないからその時のセノにとって自由とは大して重要なものではなかった。それが変わったのは突然だった。知らなかった外のこと。砂の向こうに広がる緑のこと。知らない頃には戻れなかった。知識を得てしまった。もう、戻れない。
わかっていた。そのための知識だった。決別するためのもの。別離を望ませるためのもの。砂漠を、超えていくためのもの。握られた手はずっと暖かかった。別れの言葉は言えなかった。雷鳴は近くでこだまして雷光は力を帯びていた。腫れ物のような扱いをされていた己を連れ出してくれたその人。その人が笑って紡いだ言葉も……別れの時も。何も言えなかった。何か言おうにもそのために必要な言葉を知らなかった。別れは訪れて過去は砂に消えた。
全ては砂の中にある。その意味を聞けぬままセノはジュライセンのもとで様々なことを学び、今はマハマトラとして生きている。それを聞く機会など訪れぬことは分かっているのにその意味を聞きたくてたまらない。あの手の温もりがまだそばにあるような気がして、今でも時折幻想を追いかける。それは幻想であって、現実にはなり得ない。
目の前で失ったものを取り戻せる術はもはやない。それを知っていながら今日もまたセノはなまえに会いに行く。
次→カーヴェ