別れに立ち会う人は幸運である
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カーヴェ
注意
・カーヴェのトラウマに触れています
・そこまでは書きませんけどこのシリーズの基本的な結末を考えると彼のトラウマ抉るどころか傷口に塩塗ってますのでご注意ください
「もうお別れだね」
なまえにそう言われたカーヴェは幼少の頃のとある思い出が思い浮かんだ。それは父とのことである。死んだ父との最後の思い出。頑張ってほしくて強請っただけだったのにそれがこんなふうに己の大切な人達を傷つけてしまうなんて思っていなかった。
なまえとカーヴェは教令院で出会った。今、彼の知り合いの多くと同じように教令院で知り合った。彼が大切な両親との別れを経た後に孤独の辛さを隠しながら通っていた教令院でなまえと出会い、親しくなった。カーヴェの家のソファで肩を寄せ合いながら並んで座ってもお互いが何も言わずに長い間過ごせるようなそんな関係になれた。個人的に別れを告げてもらえるほど仲良くなった。
別れを告げてもらえることは幸せだ。そして、それならば笑顔で見送らなければ“ならない”。別れを告げるなまえに答えなければならない。たとえ、己がどう思おうともなまえを応援するべきなのだ。彼女の決意に自身の意見なんて挟む余地はない。彼はそう思っている。それはカーヴェに刻み込まれた“罪”から来るもので、無意識のうちに“罰”を望む彼の性質に起因する。孤独は彼にとって辛いことである。しかし、孤独にならなければならない。なまえとの別れは孤独に戻ることと同じ意味を持ち、それは身を引き裂かれそうなほど辛いけれどその別れを受け入れなければならない。それこそが今まで彼女を縛り、そのおかげでカーヴェは孤独を無くし幸せを享受してきた罰なのだ。そんな罪に対する正当な罰だ。得るべくして得た罰であり、これまでが異質だったのだと彼に結論づけさせた。だから彼女の幸せを願い、なまえを笑顔で見送らなければならない。
さようなら、頑張って。そんな言葉で返せば良かった。行かないでとも、行くなとも言えないカーヴェができることなんてその言葉と共に笑顔で見送ることだけだ。それなのに。それなのに結局カーヴェは一度だってなまえに別れの言葉をかけられなかった。彼女はいつもカーヴェのそばにいたのに、チャンスはいくらでもあったのに。別れを言えなかった。幸せを望めなかった。自分が幸せになってはいけないからってなまえまでその位置まで落とすのは間違っている。彼女はこんな卑怯な男を愛してくれた優しい女の子なのだ。けれど望めない。行ってほしくない。ずっとそばにいてほしい。どうしようもなく渇望してしまう。それなのに手放さなければならない。罪を受け入れ罰を望まなければ。
約束は呪いだ。父はカーヴェとの約束を守らなかったから行方不明になって、そして命を落とした。砂漠の暗い暗い砂の中で死んだのだ。父を殺したのは自分だ。一人で孤独に死なせたのは間違いなく息子のカーヴェなのだ。そして母を悲しませ、この国にいられないようにしたのもすべて自分の身勝手な願いのせいだ。父母に恨まれるべき行いをした愚かさの対価を甘んじて受け取らなければならない。逃げてはならない。罪を、罰を受けなければ。自らを追い込むことで自己を確立するような不安定な自分。漠然とした不安。それだけがカーヴェを取り巻いていて。愛する人の歪んだ笑顔を見てなまえがどう思ったかなんて、彼はずっと気づかないまま。考えないまま、2人は別れの日を迎えた。