別れに立ち会う人は幸運である
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ウェンティ
「もうお別れだね」
風の国はいつも穏やかな風が吹いている。それもまた風神バルバトスの恩恵だとモンドの人は言う。風神がその座に着くまでは存在しなかった風車アスターが風神の穏やかな気性を表すように優しく風を受け止め今日も風に揺られている。
はじめて吟遊詩人さんとなまえが冗談混じりに呼んだのはいつの事だったのだろうか。それももうウェンティには思い出せない。かつての都は既に瓦礫と化した。廃墟として名高く、今は龍の棲家となっている。その地の一番高く目立つ場所。その一角にモンド一の吟遊詩人は座っていた。そこに座っていればいつかのなまえの姿が思い出された。
思い出せないなんて嘘だ。本当は彼女の言葉は全部覚えている。大切な友達だった。彼と同じで、世界を変えてくれた人。でも気がつかなかった。なまえがいなくなるまでは、だってずっと会いに来てくれたから。だから、……。本当は友達ではなかったのだと、いつのまにか立場も弁えずに彼女のことが特別なものになっていたのだと会えなくなってようやく気がついた。彼女のことを思い出す時間などとるべきではなかったのだ。ウェンティがウェンティとして居続けるためには、必要のない時間であった。
自由を信条に掲げているのに、彼女に縛られるなんてあってはならない。そんなふうに風神の心が荒れていてもモンドに吹く風はいつもと変わりなく穏やかなままだった。彼女がそう望んだから。ただ風龍廃墟と呼ばれる場所だけがいつもよりも強い風が吹き荒れていたことは風神自身と彼の眷属である龍だけは知っている。
次→セノ