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夜の路地裏は、雨の匂いがした。
湿った石畳の上に、小さな影が六つ並んでいる。どれも細く、どれも怯えたように肩をすくめていた。
「……動くなって言っただろ」
低い声に、六人はびくりと身体を震わせる。檻のような鉄柵の中、彼らは商品だった。年端もいかない少年たち。名前すら奪われ、番号で呼ばれるだけの存在。
一番端にいた少年――まだ幼い顔立ちの彼は、ぎゅっと拳を握りしめていた。怖い。でも、泣かないと決めていた。
そのときだった。
路地の奥から、足音がひとつ、ゆっくりと響いてきた。
コツ、コツ、と規則的な音。雨の滴る音とは違う、はっきりとした存在感。
「こんなところで商売か」
男の声だった。静かで、それでいて妙に通る声。
「誰だてめえ」
見張りの男が睨みつける。しかし次の瞬間、その顔から余裕が消えた。
現れたのは、黒い外套をまとった男。年齢は分からない。ただ、その目だけが異様に静かで――そして、底知れない力を宿していた。
「商品を見せてもらう」
男は淡々と言った。
「はっ、買う気か? ガキどもだぞ」
「関係ない」
短い言葉。その一言で、場の空気が変わる。
見張りの男は舌打ちし、鍵を取り出そうとした。その瞬間――
音もなく、男の身体が地面に崩れ落ちた。
「……え?」
少年たちは息を呑んだ。
何が起きたのか分からない。ただ、黒い外套の男が一歩動いただけだった。
他の見張りたちも、気づいたときには全員倒れていた。争った形跡すらない。ただ静かに、すべてが終わっていた。
檻の前に立つ男は、ゆっくりと膝をつく。
「もう大丈夫だ」
その言葉は、どこか不思議な温度を持っていた。
少年たちは互いに顔を見合わせる。信じていいのか分からない。今まで「大丈夫」と言われて、大丈夫だったことなんて一度もなかったから。
「……ほんとに?」
誰かが、小さく呟いた。
男は少しだけ目を細める。
「ああ。ここから出る」
鍵を壊し、扉が開く。錆びついた音が、夜に溶けていく。
六人は動けなかった。
自由、というものを知らなかったからだ。
「歩けるか」
男が尋ねる。
返事はない。代わりに、一番幼い少年が一歩、恐る恐る前に出た。
男を見上げる。その目はまだ怯えている。それでも――ほんの少しだけ、光が宿っていた。
「……いく」
かすれた声だった。
男は頷く。
「そうか」
その一言だけで、十分だった。
少年たちは一人、また一人と檻の外へ出る。雨が頬に当たる。冷たいはずなのに、なぜか少しだけ心地よかった。
「名前はあるか」
男が歩き出しながら聞いた。
沈黙。
「……ない」
誰かが答える。
男は少しだけ考えてから言った。
「なら、これから決めればいい」
振り返りもせず、ただ前を見たまま。
「お前たちは、もう“物”じゃない」
その言葉は、六人の胸に静かに落ちていった。
意味はまだよく分からない。それでも、その響きは確かに温かかった。
雨はいつの間にか弱くなっていた。
夜の闇の中、七つの影がゆっくりと遠ざかっていく。
それは、終わりではなく――始まりだった。
湿った石畳の上に、小さな影が六つ並んでいる。どれも細く、どれも怯えたように肩をすくめていた。
「……動くなって言っただろ」
低い声に、六人はびくりと身体を震わせる。檻のような鉄柵の中、彼らは商品だった。年端もいかない少年たち。名前すら奪われ、番号で呼ばれるだけの存在。
一番端にいた少年――まだ幼い顔立ちの彼は、ぎゅっと拳を握りしめていた。怖い。でも、泣かないと決めていた。
そのときだった。
路地の奥から、足音がひとつ、ゆっくりと響いてきた。
コツ、コツ、と規則的な音。雨の滴る音とは違う、はっきりとした存在感。
「こんなところで商売か」
男の声だった。静かで、それでいて妙に通る声。
「誰だてめえ」
見張りの男が睨みつける。しかし次の瞬間、その顔から余裕が消えた。
現れたのは、黒い外套をまとった男。年齢は分からない。ただ、その目だけが異様に静かで――そして、底知れない力を宿していた。
「商品を見せてもらう」
男は淡々と言った。
「はっ、買う気か? ガキどもだぞ」
「関係ない」
短い言葉。その一言で、場の空気が変わる。
見張りの男は舌打ちし、鍵を取り出そうとした。その瞬間――
音もなく、男の身体が地面に崩れ落ちた。
「……え?」
少年たちは息を呑んだ。
何が起きたのか分からない。ただ、黒い外套の男が一歩動いただけだった。
他の見張りたちも、気づいたときには全員倒れていた。争った形跡すらない。ただ静かに、すべてが終わっていた。
檻の前に立つ男は、ゆっくりと膝をつく。
「もう大丈夫だ」
その言葉は、どこか不思議な温度を持っていた。
少年たちは互いに顔を見合わせる。信じていいのか分からない。今まで「大丈夫」と言われて、大丈夫だったことなんて一度もなかったから。
「……ほんとに?」
誰かが、小さく呟いた。
男は少しだけ目を細める。
「ああ。ここから出る」
鍵を壊し、扉が開く。錆びついた音が、夜に溶けていく。
六人は動けなかった。
自由、というものを知らなかったからだ。
「歩けるか」
男が尋ねる。
返事はない。代わりに、一番幼い少年が一歩、恐る恐る前に出た。
男を見上げる。その目はまだ怯えている。それでも――ほんの少しだけ、光が宿っていた。
「……いく」
かすれた声だった。
男は頷く。
「そうか」
その一言だけで、十分だった。
少年たちは一人、また一人と檻の外へ出る。雨が頬に当たる。冷たいはずなのに、なぜか少しだけ心地よかった。
「名前はあるか」
男が歩き出しながら聞いた。
沈黙。
「……ない」
誰かが答える。
男は少しだけ考えてから言った。
「なら、これから決めればいい」
振り返りもせず、ただ前を見たまま。
「お前たちは、もう“物”じゃない」
その言葉は、六人の胸に静かに落ちていった。
意味はまだよく分からない。それでも、その響きは確かに温かかった。
雨はいつの間にか弱くなっていた。
夜の闇の中、七つの影がゆっくりと遠ざかっていく。
それは、終わりではなく――始まりだった。
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