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深夜二時。国道を震わせる排気音は、地を這う獣の咆哮に似ていた。
その群れの先頭を走る一台のバイク。漆黒のボディに銀のラインが走るそのマシンに跨る男こそ、県内最大の暴走族『蒼月(そうげつ)』の十一代目総長、青龍藍(せいりゅう あいる)だった。
十九歳。成人を目前に控えたその横顔は、走行風に晒されてもなお、大理石のように冷たく、整っていた。切れ長の三白眼は、前方の闇を射抜くように据え置かれ、一分の隙もない。彼が右手をわずかに挙げれば、後続の百台近いバイクが一斉に速度を落とし、彼がスロットルを回せば、地獄の蓋が開いたような騒乱が夜を支配する。
藍は、組織において「絶対的な正解」であることを自らに課していた。
暴走族という、本来ならば法や秩序から逸脱した者たちの集まりにおいて、彼は皮肉にも誰よりも「規律」を重んじていた。
「人を過度に信じない。期待しない。愛さない」
それが、彼がこの荒くれた世界でトップに君臨し続けるための、たった一つの、そして絶対の生存戦略だった。
彼は知っている。少しでも隙を見せれば、身内ですら牙を剥く。少しでも情を見せれば、ライバルチームとの均衡は崩れ、流血の惨事が起きる。だからこそ、彼は自分の心を分厚い防弾ガラスの奥に閉じ込めた。
「アイルさん、今日のルート、完璧でしたね。サツの検問も、見事に回避できました」
目的地である寂れた海浜公園に到着すると、特攻服を着た幹部たちが次々と歩み寄ってくる。藍はヘルメットを脱ぎ、乱れた前髪を無造作にかき上げた。その仕草一つで、周囲の少年たちの間に感嘆の溜息が漏れる。
「……ルートを選んだのはお前たちだ。俺はただ、先頭を走ったに過ぎない」
藍の声は低く、心地よく響く。彼は決して威張らない。威圧感ではなく、圧倒的な「格の差」を、静かな立ち振る舞いによって分からせる。それが彼のスタイルだった。
彼はメンバー一人ひとりの顔を、意識的に視界に入れる。名前を覚え、その日の体調やバイクの整備状態を、言葉を交わさずとも察知する。
「誰一人として、無駄に傷つけない。虐めない。ましてや、無意味な抗争で殺させない」
それは一見、慈悲深いリーダーの姿に見えるだろう。しかし、その実態は、集団の統制を乱さないための徹底した「管理」に過ぎなかった。彼は自分の善意が「偽善」であると自覚していた。そして、その偽善が他人に悟られないよう、細心の注意を払って「理想の総長」をデコレーションしていく。
「ところで、アイルさん。最近入った連中のなかに、少し調子に乗ってるのがいまして……」
相談を持ちかけてくる後輩に対し、藍は薄く笑みを浮かべた。その笑みには、一切の温度が含まれていない。
「軽いジョークでも言って、緊張を解いてやれ。厳しくするのは、その後でいい」
リップサービスを忘れず、相手が望む「器の大きいリーダー像」を提供し続ける。
彼の内側では、絶え間ない精神的な摩擦が火花を散らしていた。本当は、誰とも話したくない。誰の顔も見たくない。ただ独りで、誰もいない場所まで走り抜けたい。
けれど、彼はバイクを降りてもなお、「総長」という名の重い鎧を脱ぐことを許されなかった。
その群れの先頭を走る一台のバイク。漆黒のボディに銀のラインが走るそのマシンに跨る男こそ、県内最大の暴走族『蒼月(そうげつ)』の十一代目総長、青龍藍(せいりゅう あいる)だった。
十九歳。成人を目前に控えたその横顔は、走行風に晒されてもなお、大理石のように冷たく、整っていた。切れ長の三白眼は、前方の闇を射抜くように据え置かれ、一分の隙もない。彼が右手をわずかに挙げれば、後続の百台近いバイクが一斉に速度を落とし、彼がスロットルを回せば、地獄の蓋が開いたような騒乱が夜を支配する。
藍は、組織において「絶対的な正解」であることを自らに課していた。
暴走族という、本来ならば法や秩序から逸脱した者たちの集まりにおいて、彼は皮肉にも誰よりも「規律」を重んじていた。
「人を過度に信じない。期待しない。愛さない」
それが、彼がこの荒くれた世界でトップに君臨し続けるための、たった一つの、そして絶対の生存戦略だった。
彼は知っている。少しでも隙を見せれば、身内ですら牙を剥く。少しでも情を見せれば、ライバルチームとの均衡は崩れ、流血の惨事が起きる。だからこそ、彼は自分の心を分厚い防弾ガラスの奥に閉じ込めた。
「アイルさん、今日のルート、完璧でしたね。サツの検問も、見事に回避できました」
目的地である寂れた海浜公園に到着すると、特攻服を着た幹部たちが次々と歩み寄ってくる。藍はヘルメットを脱ぎ、乱れた前髪を無造作にかき上げた。その仕草一つで、周囲の少年たちの間に感嘆の溜息が漏れる。
「……ルートを選んだのはお前たちだ。俺はただ、先頭を走ったに過ぎない」
藍の声は低く、心地よく響く。彼は決して威張らない。威圧感ではなく、圧倒的な「格の差」を、静かな立ち振る舞いによって分からせる。それが彼のスタイルだった。
彼はメンバー一人ひとりの顔を、意識的に視界に入れる。名前を覚え、その日の体調やバイクの整備状態を、言葉を交わさずとも察知する。
「誰一人として、無駄に傷つけない。虐めない。ましてや、無意味な抗争で殺させない」
それは一見、慈悲深いリーダーの姿に見えるだろう。しかし、その実態は、集団の統制を乱さないための徹底した「管理」に過ぎなかった。彼は自分の善意が「偽善」であると自覚していた。そして、その偽善が他人に悟られないよう、細心の注意を払って「理想の総長」をデコレーションしていく。
「ところで、アイルさん。最近入った連中のなかに、少し調子に乗ってるのがいまして……」
相談を持ちかけてくる後輩に対し、藍は薄く笑みを浮かべた。その笑みには、一切の温度が含まれていない。
「軽いジョークでも言って、緊張を解いてやれ。厳しくするのは、その後でいい」
リップサービスを忘れず、相手が望む「器の大きいリーダー像」を提供し続ける。
彼の内側では、絶え間ない精神的な摩擦が火花を散らしていた。本当は、誰とも話したくない。誰の顔も見たくない。ただ独りで、誰もいない場所まで走り抜けたい。
けれど、彼はバイクを降りてもなお、「総長」という名の重い鎧を脱ぐことを許されなかった。
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