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青龍星奈、高校二年生。都心から少し離れた町の、ごく普通の公立高校に通う彼女は、学校では特に目立つこともなく、大人しい生徒として過ごしていた。友人はいるが、広く社交的というわけではない。彼女の放課後と休日の大半は、二つの世界に費やされていた。
一つは、愛と熱意を注ぐ**「推し活」**の世界。
「あー、今日のリレー配信も最高だったな……Reluくんのあのツッコミ、天才かよ」
星奈は自室の椅子に座り、スマホを握りしめながら、VOISING所属グループ「すたぽら」の切り抜き動画を繰り返し見ていた。推しは、すたぽらのRelu(れる)と、STPR所属グループ「すにすて」のたちばなだ。二大事務所の異なるグループに推しを持つ彼女は、両社のコンテンツを貪るように摂取する、熱心なリスナーだった。
特に、たちばなの持つ知的でクールな雰囲気と、時折見せる優しい一面、そして芸術的な感性は、星奈の心を強く惹きつけていた。Reluの毒舌ツンデレな関西弁と、裏腹の確かな音楽クリエイターとしての才能も、彼女の憧れの対象だった。
「よし、この感動を胸に、今日も歌おう」
星奈にとって、推したちの活動は、世界から受け取った感動やエネルギーを、自分の中で消化し、発散するための燃料だった。それは彼女を世界と繋ぎ止める、大切な心の安寧でもあった。
もう一つの世界は、歌い手、**藍**の世界。
青龍星奈は、自分の本名を決して明かさず、性別も年齢も不詳の歌い手として、ネットの片隅で活動していた。彼女の活動スタイルは徹底していた。顔出しはライブ以外ではせず、私生活や細かい情報は一切明かさない。
星奈にとって、藍の活動は**「趣味の延長」**であり、彼女自身の自己認識は「無名の人気のない歌い手」で止まっていた。
「今日の歌ってみたも、いつもの再生数だったらいいな。誰にも迷惑かけたくないし、ひっそりやってるのが一番だ」
そんな彼女の認識とは裏腹に、藍のアカウントは異常な伸びを見せていた。
初投稿の歌ってみた**「あれほど欲した幸せを、手放す勇気を僕にくれ」は、投稿から数ヶ月で驚異的な再生回数を記録。YouTubeのチャンネル登録者は100万を優に超え、X(旧Twitter)のフォロワーは150万**を突破していた。その才能は、プロの音楽関係者や、多くのリスナーの間で「彗星のごとく現れた天才」として認知されていた。
しかし、星奈はSNSに疎く、通知設定も切っていたため、その膨大なフォロワー数も、毎日のように書き込まれる熱狂的なコメントの量にも、全く気がついていなかった。彼女の目に入るのは、ごく一部の「いつもありがとう」というようなシンプルなコメントと、平均的な「歌い手」の再生回数(だと思い込んでいる数字)だけだった。
「よっしゃ、作業終わったし、あとはたちばなさんの今日の配信チェックしよっと」
世界に名を轟かせ始めた天才歌い手は、今日も自分の偉業に気づかず、推しの声に耳を傾ける、一介のリスナーとしてスマホを操作していた。
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