（九十九 慧視点）

Reluが退所した翌日から、生活は一変した。

VOISINGでの仕事は続けている。タレントの体調管理、企画サポート、そしてマネジメント補佐。だが、私の心は、もはやVOISINGになかった。私のすべては、Reluの命と安寧を守ることに注がれていた。

Reluは、私が用意した都心から離れたマンションで、二人で暮らし始めた。彼に食事を作り、通院の付き添いをし、そしてただ、そばにいた。

「Relu。本当に何も話さなくてよかったの？Coe.くんもほとけくんも、本当に心配してるよ」

Reluは窓の外を見つめながら、静かに答えた。「これでいいんだ、慧。自分がいなくなった後、彼らが立ち直るには、自分が裏切者になる方が都合がいい。…それに、どうせもう長くない。この秘密を守って、最後まで君と過ごしたいんよ」

彼の頬に触れた。彼の決意の固さと、命を燃やし尽くそうとする覚悟に、何も言えなくなった。

私がVOISINGで働いていることを知っているタレントは、僕にReluの居場所を何度も聞いてきた。

ないこは、目を腫らしながら懇願してきた。「慧さん。Reluが今どこにいるかだけでも教えてください。直接会って、僕たちの気持ちを伝えたいんです」

くにも、憔悴しきった様子で僕に訴えた。「れるちは…本当に、僕たちのこと嫌いだったんですか？そうじゃないって言ってください！」

私は、彼らの顔を見て、どれほど胸が張り裂けそうになっても、Reluとの約束を破ることはできなかった。

「ごめんなさい。私はReluさんの個人的な居場所については、一切お答えできません。VOISINGのタレントの方には、私の口から何もお話しすることはありません」

彼らは、私がVOISINGの人間でありながら、Reluを匿っていることに気づいているようだったが、口を閉ざしている以上、彼らは何もできない。僕のReluへの絶対的な信頼は、VOISING全体への壁となっていた。


その日の夜、僕の個人携帯に、イオ宛てのメールが届いた。送信者は、シクフォニのリーダー、LANだった。


件名：【至急】Reluさんについて

イオさん。お久しぶりです、シクフォニのLANです。VOISINGの件、聞きましたか？

僕らは、Reluさんがそんなことをするなんて、絶対に信じていません。VOISINGに乗り込んでも、話を聞いてもらえませんでした。

イオさんは、VOISINGに所属せず、歌い手として広い人脈を持っています。もし、Reluさんの居場所を知っているなら、教えてもらえませんか？僕らは、Reluさんを助けたい。

僕たちの仲間であるシクフォニのメンバー（いるま、こさめ、暇72、すち、みこと）全員が、同じ気持ちです。返信、お待ちしています。


画面を見て、涙が滲むのを感じた。

（シクフォニの皆…やはり、Reluを信じてくれたんだ）

すぐにReluにメールの内容を見せた。

Reluは、驚いた顔で画面を食い入るように見た後、穏やかな微笑みを浮かべた。

「シクフォニか…。彼らにも、心配をかけてしまったな」

「Relu、どうする？彼らはあなたを信じてる。もし会うなら、イオとして彼らを僕らの家に招いてもいい？」

Reluは、少し考えた後、決意を込めて頷いた。

「会おう。…自分の馬鹿げた退所劇を、まだ信じずにいてくれる人がいる。彼らに、僕の『最後の活動』への想いを、少しだけ話したい」

その週末、僕の隠れ家であるマンションの一室に、シクフォニのメンバー全員がやってきた。

僕はイオの姿で彼らを出迎える。フードを深く被り、中性的な声で話す僕の姿に、彼らは一瞬緊張した。

「イオ、本当にありがとう。まさか、れるちに会えるなんて…！」LANが、興奮した声で言った。

「ここにいるよ」僕が言うと、奥のソファからReluが立ち上がった。

シクフォニのメンバーは、声を失った。

いるまが、真っ先にReluに駆け寄った。「Relu！本当に無事だったのか！心配した！」

雨乃こさめが、涙ぐみながらReluの手を握った。「VOISINGの発表、本当に信じたくなかった…！」

暇72が、冷静だが熱い口調でReluに訴える。「Relu。俺らは、あなたがメンバーの悪口なんて言うはずがないと知ってる。一体、VOISINGで何があったんだよ？」

Reluは、静かに微笑んだ。

「みんな、ありがとう。信じてくれて。…ごめん。あのツイートは、自分が書いたと自白したのは、事実だ。でも、君たちが思っているような理由じゃない」

すちが、Reluをまっすぐ見た。「Reluくん。僕たちは、あなたの味方です。嘘でもいいから、僕たちに本当の理由を教えてくれませんか？」

Reluは、一瞬ためらったが、私（イオ）の顔を見た後、首を振った。

「…理由を話すことはできへん。やけど、君たちがれるを助けたいと思ってくれていること、それは心から感謝している。自分には、やらなきゃいけないことがあるから、今は、この退所を受け入れているんだ」

Reluは、余命のことは決して話さなかった。

みことが、Reluの表情を読み取ろうとする。「…わかった。Reluくんが話せないなら、無理には聞かへん。でも、おれたちは、VOISINGにあなたが乗っ取りの被害者だったことを認めさせたい。どうすれば、Reluさんの潔白を証明できる？」

私（イオ）は、シクフォニの決意に、胸を打たれた。彼らは、損得勘定抜きで、Reluという一人の歌い手を守ろうとしている。

「彼ら（VOISINGのタレント）は、れるを裏切者だと信じている。…そのままでいい。でも、君たちだけは、自分を信じていてほしい」Reluは、そう言って、シクフォニのメンバー一人一人の顔を見た。

そして、私（イオ）が口を開いた。「シクフォニの皆さん。Reluは今、体調を崩しています。私は、VOISINGのマネージャー兼管理栄養士ですが、今はReluのサポートに専念しています。皆さんが、Reluの潔白を証明するために動いてくれるなら、私はイオとして、全力で協力する」

LANは、僕とReluを交互に見て、力強く頷いた。

「…わかりました。僕らは、Reluさんが潔白だと証明するために動きます。Reluさん、必ず戻しますから、それまで療養していてください」

シクフォニの六人は、Reluの言葉を尊重しつつ、Reluを助け出すという共通の目標で、僕（イオ）と固い協力体制を築いたのだった。Reluに残された時間のことを知っているのは、私とReluだけ。僕らは、この秘密を胸に、彼らの善意に託すことにした。