（Relu視点）

声が、自分のすべてだ。

マイクを通して放たれる一音一音が、聴く人の心を揺さぶり、時には安らぎを与え、時には情熱を燃やす。Reluは、この声のおかげで、最高の仲間たちと出会い、**Star Light Polaris（すたぽら）**の一員として、そしてVOISINGという大きなステージの片隅で、夢を追うことができた。

六角形のテーブルを囲む、総勢23人の仲間たち。

いれいすの先輩たち、クロノヴァの後輩たち、そして僕たちすたぽらのメンバー。今はここにいないが、心で繋がっているシクフォニのメンバーも。彼らの笑顔が、僕にとってのすべてだった。この空間で交わされる他愛もない冗談や、次の企画に対する真剣な議論、そして合同ライブで肩を組み合う瞬間。それこそが、僕の命を輝かせる唯一の燃料だった。

「Relu、次はどんな企画がいいと思う？やっぱり、君の企画はバズるからさ」いれいすのリーダー、ないこが笑いながら尋ねる。

「Reluさんはね、頭がいいんだよ。天才的なひらめきがあるの」自分の親友で、すたぽらのリーダーでもある**Coe.**が、当たり前のように僕を褒めてくれる。

僕は、その言葉に、胸が締め付けられるほどの喜びを感じながら、同時に激しい痛みも覚えた。

（ごめん、Coe.くん。ごめんな、みんな）

最近、自分の心臓は、まるで錆びついた機械のように、不規則に、そして鋭く痛むようになった。それは、僕の輝かしい日常の裏側で、確実に進行している終わりのサインだった。

一週間前、僕は独りで病院の診察室にいた。九十九 慧の迅速な手配のおかげで、誰にも知られずに済んだ。そこで医者から告げられた病名は、あまりにも冷酷な現実を僕に突きつけた。

拡張型心筋症。余命、一年。

その日から、世界の色彩が変わった。

僕が見ていた青い空は、やがて来る別れの空の色に。僕が歌っていた情熱的なメロディは、最後の挽歌のように響いた。僕が愛した仲間たちの笑顔は、一年後には僕が見ることのできない、未来の光となった。

医者は言った。「すぐに入院し、治療に専念すれば、延命は見込めます」と。

それを断った。

治療を選べば、自分の活動はすぐに終わる。自分が愛したこの場所、この輝きを、病気を理由に手放すことになる。それは、自分にとって死よりも辛い選択だった。

だから決めたのだ。

「誰にも言わない。最後まで、歌い手・Reluとして生きる」

この決意は、れると、れるの最も信頼する友人、九十九 慧だけの絶対的な秘密となった。彼女は、れるがVOISINGにスカウトした、優秀なマネージャー兼管理栄養士だ。そして、歌い手・イオとして出会った、自分の魂の友人でもある。彼女だけが、僕のこの狂気的な決断を、受け止めてくれた。

（残された時間は、あと一年。人生の最終章は、最高の、そして最も輝かしい活動で締めくくるんだ）

この秘密を抱え込むたびに、胸の痛みが増す。まるで、心臓が自分の嘘に耐えかねているようだ。

しかし、この秘密のベールを、誰にも剥がさせるつもりはない。

この温かい日常を、この仲間たちの信頼を、自分の命が燃え尽きるその瞬間まで、大切に抱きしめていたい。

だが、運命は、僕の静かなる決意を嘲笑うかのように、あまりにも残酷な事件を、すぐそこまで差し向けていた。

想像もしていなかった、信頼の崩壊。 最後まで守りたかった、仲間の絆の亀裂。

それは、れるのTwitterアカウントが、悪意によって乗っ取られた、あの夜から始まったのだ。