（Relu視点）

「Reluくん、これ。ちゃんと全部食べてね。ビタミンと鉄分が不足気味だよ」

VOISINGの会議室。撮影前の軽いミーティングが終わったところで、僕の目の前にカラフルなプレートが差し出された。鮮やかな緑のブロッコリーに、人参、鶏むね肉のソテー。完璧な栄養バランスと、見た目の美しさ。

声をかけてきたのは、自分がVOISINGに誘った恩人であり、今や自分たちの専属マネージャー兼管理栄養士である**九十九 慧（つくも けい）**だ。いつもはきっちりとしたスーツ姿だが、今日はエプロンを外したばかりで、少しだけ柔らかな雰囲気があった。

「ありがとう、慧。でも、いつも完璧すぎるんだよなぁ。普通の飯が食いたい」わざと不満げな顔を作る。

九十九 慧は笑みを崩さない。「普通の食事で体調を崩すのがあなたでしょう。特に最近、顔色が良くないよ。さあ、食べて」

その会話を聞いていたすたぽらのメンバーが、いつものように絡んでくる。

こったんがプレートを覗き込んで目を輝かせた。「うわ、めっちゃ美味そう！ 慧さん、俺にも作ってよ。れるちばっかりずるい！」

「こたは自分で買いなさい」くにが冷静に突っ込む。「慧さん、いつもありがとうございます。れるちは慧さんがいないと本当にすぐ変なもの食べるんで」

**Coe.**が僕の肩を叩く。「にしても、この野菜の色、マジでヤバい。Reluさん、ちゃんと噛んで食えよ。慧さんが作ってくれたんだから」

如月ゆうは、もはや慣れた様子で自分の飲み物を飲んでいる。「れるちが体調管理できてるの、慧さんのおかげだよな。本当に助かる」

僕がみんなに愛されていることを、こんな日常の小さな瞬間に感じる。そして、僕が慧を信頼し、イオとして出会ったあの頃から、彼女が僕の人生でどれほど大きな存在になったか。

「いただきます」と素直にフォークを取った。この温かい日常が、ずっと続くと思っていたんだ。




午後、大規模なコラボ企画についての合同会議が始まった。VOISING所属のいれいす、クロノヴァ、そしてフリーのイオの、総勢18人が一つの大きなテーブルを囲む。

いれいすのリーダー、ないこが企画の骨子を発表している。

「…ということで、次回は『歌い手体力測定コラボ』を企画したいと考えています！」

いれいすのりうらがすぐに反応する。「いいね！ 俺、運動神経には自信あるから負けないよ、特に初兎ちゃんには！」

初兎は笑いながら否定する。「は？ 俺、持久走なら負ける気しないけど。りうちゃんこそすぐバテそうやん」

クロノヴァのかなめは穏やかに笑う。「僕たちクロノヴァは、チームワークで勝利を掴みたいかな。アルケー、期待してるよ」

**ALKHE（アルケー）**が力強く頷く。「任せておけ！ 体力には自信があるからな」

自分もすたぽら代表として意見を出す。「体力測定かぁ。企画自体は面白いけど、企画中に誰かが体調崩してダウン、みたいなオチはなしでね」

その言葉に、いれいすのほとけが悠佑に耳打ちした。「れるち、最近ちょっと心配だよね…」

僕の隣に座っていた九十九 慧は、発言を静かにメモ帳に書き込んでいる。彼女だけが知っている。僕が、この場で誰よりも体調を崩しやすい「リスク」を抱えていることを。

そして、僕の目の前には、シクフォニの席だけがポッカリと空いていた。彼らはVOISINGを退所した今も、自分たちの仲間だと勝手に思っている。

「なぁ、イオ」僕が声をかけると、九十九 慧がすぐに顔を上げた。イオとしての彼女は、性別不詳でミステリアスな存在として知られているが、九十九 慧として僕の前にいる時は、ただの信頼できる友人だ。

「なんだ、Relu」

「次の企画、イオも出てくれないかな。体調管理のプロとして」

イオは少し考える。「僕が？ 慧としてならまだしも、イオとして出る必要はないだろう」

いれいすのIfが茶々を入れる。「イオの身体能力が気になりますよね。きっと、実はすごかったりして？」

クロノヴァのしのが楽しそうに笑う。「ちょっと待って！ イオさんが参加してくれるなら、絶対に見たい！」

イオは困ったように自分を見た。ただ微笑む。みんなとのこんなにぎやかな時間が、自分に残された唯一の宝物になるかもしれない。

「お願い。思い出に」

自分のその一言に、イオは静かに頷いた。「…わかった。Reluの頼みだ。参加しよう」

誰もが笑って、次の打ち合わせに進んでいく。

そのとき、胸に鋭い痛みが走った。思わず息を飲むが、何とか表情には出さない。

（…やばい。最近、この回数が増えてる）

自分は会議室の窓の外、明るい日差しを見つめながら、心臓を抑え込んだ。

（この日常を…絶対に手放すわけにはいかない）