焦凍との対峙を経て、荼毘と星奈の絆は、さらに強固なものとなった。焦凍の炎と氷に守られた星奈の姿は、荼毘にとって、彼女がもはや轟家の誰にも奪われない、自分だけの存在であることを確信させた。

ヴィラン連合の活動は激化し、荼毘と星奈のコンビネーションは、ヒーロー社会にとって最大の脅威となっていた。蒼炎が街を焼き尽くす傍らで、氷がその炎を完璧に制御し、逃げ道を断つ。

しかし、激しい戦闘は、彼らの体に確実に負担をかけていた。特に星奈の体は、荼毘の炎の冷却を担うことで、慢性的な冷気過多に陥っていた。手足の凍傷は改善せず、体の深部から冷え切っている感覚は、彼女から徐々に**「温もり」**を奪っていた。

ある日、任務から帰還した荼毘は、隠れ家の床で倒れている星奈を発見した。彼女の体は、まるで氷像のように冷たくなっていた。

「星奈！おい、しっかりしろ！」

荼毘は慌てて彼女を抱き上げ、自らの炎を微弱に発動させ、体を温めた。改造を終えた彼の炎は、もはや彼女を傷つけることはなかった。それは、純粋な温もりとして、彼女の冷え切った体に流れ込んだ。

意識を取り戻した星奈は、荼毘の顔を見上げ、か細い声で言った。

「ごめんなさい……燈矢くん。私、体が冷たすぎて……あなたの炎が、うまく制御できなくなってきたの」

彼女は、自分の体が、もはや荼毘の炎に耐えられないどころか、彼の炎を完璧にサポートすることすら難しくなっていることを悟っていた。彼女の**「氷の城壁」**としての機能が、限界を迎えていたのだ。

荼毘は、その事実に戦慄した。彼女の氷がなければ、彼の炎はいつか暴走し、彼の命を再び危機に陥れるかもしれない。何よりも、彼女を失うことが、彼にとって最も恐ろしいことだった。

「馬鹿なことを言うな。俺は、お前がいないと炎を使えねえ。お前は、俺の……心臓だ」

彼は、彼女の依存を求めていたはずなのに、今、彼女の衰弱が、彼自身の命の危機を意味していた。

星奈は、凍傷でひび割れた手で、彼の頬に触れた。

「私、知ってる。あなたは、私がいなくても、もう炎を制御できる。でも、あなたは、私がいないと、心の炎が消えてしまうんでしょう？」

彼女の言葉は、荼毘の心の奥底を見透かしていた。彼の復讐の炎は鎮火したが、彼女への愛だけが、彼をヴィランとして生きる理由として燃え続けている。

「……ああ。そうだ。お前が俺を愛したように、俺もお前を愛している。お前を地獄に引きずり込んだのは俺だ。だから、最期まで、お前の隣で生きる」

荼毘は、初めて、彼女の**「氷の城壁」**としての役割を解き放つ決意をした。彼は、もはや彼女の命を犠牲にして、自分の炎を制御するつもりはなかった。

「もう、俺のために無理に氷を使うな。星奈。これからは、俺が自分の炎で、お前を温め続ける」

それは、彼の完全な降伏であり、彼女への永遠の誓約だった。彼女の献身は、彼の心を憎悪から愛へと完全に変えたのだ。


荼毘は、連合の活動を一時的に中断し、星奈の治療に専念した。彼の温かい炎は、彼女の体を内側から優しく温め続けた。しかし、彼女の冷気体質は根本的には変わらず、彼女の体は常に氷を求めていた。

二人は、誰にも邪魔されない隠れ家で、静かな時間を過ごした。その中で、荼毘は一つの決断を下した。

「星奈。俺は、お前と永遠の誓いを立てたい」

ある満月の夜、荼毘は、簡素な隠れ家の中で、星奈に結婚を申し込んだ。指輪など、彼らにとって意味をなさない。彼らが交わすのは、命を懸けた誓約だった。

「結婚、って……ヴィランなのに？」

星奈は、驚きと喜びで目を潤ませた。

「ああ。俺たちの愛は、ヒーロー社会にも、轟家にも、AFOにも、誰にも理解されない、地獄の愛だ。だから、俺たちは、この地獄で、お互いを永遠の共犯者として誓う」

荼毘は、自分の蒼い炎を、二人の手の周りに小さな輪として灯した。その炎は、彼女の手を焦がすことなく、温もりだけを与えた。

「俺は、轟燈矢としての過去を、完全に捨て去った。俺の全ては荼毘だ。そして、お前は、この荼毘の最愛の女だ。お前の存在が、俺の炎の唯一の理由だ」

彼は、彼女のひび割れた手をとり、自分の唇を寄せた。

「俺と、地獄の果てまで、一緒にいてくれ。俺の熱で、お前の冷たさを永遠に溶かしてやる。そして、お前の氷で、俺の狂気を永遠に抑えてくれ」

星奈は、涙を流しながら、強く頷いた。

「はい。私は、あなたの永遠の共犯者。あなたの炎と、あなたの全てを愛している。地獄の果てまで、一緒に踊りましょう、燈矢くん……いいえ、荼毘」

彼女は、あえて「燈矢」ではなく、「荼毘」という彼のヴィランとしての名前を呼んだ。それは、彼が選んだ運命を、彼女が全て受け入れた証だった。

彼らは、炎の輪の中で、熱い口づけを交わした。その瞬間、彼らの愛は、憎悪と復讐の炎を超え、狂気の純愛として完成した。

そして、彼らは改めて、ヴィラン連合の活動に戻った。

星奈は、もう冷却の役割は担わない。彼女の役割は、荼毘の心の安定剤となること。彼女が彼の隣に立つだけで、荼毘の炎は、最高出力を維持しながらも、決して暴走することはなかった。

「氷の共犯者」と「蒼炎の支配者」。

二人は、ヴィランの道という地獄を、お互いの愛という温もりで照らし出しながら、世界に対する反逆のワルツを、永遠に踊り続けるのだった。