身体改造を終えた荼毘は、以前にも増して冷酷で、そして安定していた。彼の蒼い炎は、制御不能な怒りではなく、明確な意志を持った武器へと進化した。そして、彼の隣には、命を懸けて彼を支えた**氷の共犯者、星奈**がいた。

星奈の手の凍傷は完全に治ることはなかったが、荼毘の安定した炎の熱で、以前のように悪化することはなくなった。彼女の個性である**「氷」は、今は専ら彼の戦闘をサポートするための防御や拘束**、そして何よりも彼の炎の熱暴走を抑えるための冷却装置として機能していた。

ヴィラン連合は、荼毘の復帰と、彼の横に立つ星奈の存在を受け入れた。特に荼毘の炎が安定したことで、弔は彼らを連合の主要な戦力として認識するようになった。

「轟燈矢は死んだ。そして、荼毘は復讐を成し遂げた。だが、俺はまだこの世界を終わらせていねえ。これからが、本番だ」

荼毘は、連合のメンバーを前にそう宣言した。彼の視線は、星奈と弔の間で交錯した。彼は、弔に忠誠を誓うヴィランであると同時に、星奈との未来を望む一人の男でもあった。

最初の活動は、大規模な銀行強盗と、ヒーローに対する無差別攻撃の同時実行だった。世間に恐怖を植え付け、ヒーロー社会の信用をさらに揺るがすことが目的だ。

戦闘が始まると、星奈は最前線に出ることはなかった。彼女は、荼毘の背後、または死角となる位置に立ち、彼が炎を放つたびに、その周囲に氷の城壁を瞬時に作り上げた。

「くそっ、何だこの氷は！」

ヒーローたちが驚愕する。彼女の氷は、敵の攻撃を防ぐだけでなく、荼毘が炎の力を最大限に使っても、彼の体が熱で自壊しないよう、ピンポイントで冷却する役割を果たしていた。彼女の氷は、荼毘の炎の温度を知り尽くした、唯一無二の防御だった。

「お前の氷は、まるで俺の炎の一部だ」

荼毘は、敵を焼き尽くしながら、背後の星奈に言った。

「あなたの炎が、私に使い方を教えてくれたのよ、燈矢くん」

彼女は、手袋をはめた手で、彼の熱気を帯びた背中にそっと触れた。

二人の戦闘スタイルは、まさに地獄のワルツだった。蒼い炎が舞い踊り、その周りを白い氷の結晶が取り囲む。炎と氷という相反する個性が、互いを殺し合うのではなく、互いを活かし合うという、誰も想像し得なかった共闘を生み出していた。

彼らのコンビネーションは完璧だった。荼毘が炎で敵を追い詰めると、星奈は氷で足場を凍らせて動きを封じ、あるいは建物を部分的に凍らせて崩壊させた。彼女の個性は、火力が弱いという欠陥を、正確な制御と献身的な用途で完全に補っていた。


彼らのヴィラン活動は、世間の注目を浴び、当然、ヒーローたちとの接触も増えた。そして、運命は再び、轟焦凍を彼らの前に引き合わせた。

ある都市の主要駅での戦闘で、荼毘が炎でヒーローたちを一網打尽にしようとした瞬間、強力な冷気が彼の炎を打ち消した。

「荼毘！」

焦凍の赫灼の炎と氷が、遠くから迫る。焦凍は、兄の告白を受け止め、より強靭な決意を胸に、ヒーローとして立ち上がっていた。彼の表情は、以前の迷いを捨て、兄を止めるという強い意志に満ちていた。

「フン、相変わらず派手だな、焦凍」

荼毘は、その再会を予測していたかのように、不敵に笑った。

「お前の遊びは、もう終わらせる」

焦凍は、自らの炎と氷のコンビネーションで、連合のヴィランたちを蹴散らし、荼毘と星奈へと一直線に向かってきた。

その時、星奈が一歩前に出た。

「焦凍……」

「星奈！なぜ、そこにいるんだ！荼毘に騙されているのか！」

焦凍の瞳が、驚愕と混乱で揺れた。彼にとって、星奈は、あの家に確かにいた**『双子の妹』**の虚像だった。

「誰も私を騙していないわ、焦凍。私は、この人の共犯者。あなたの兄の、唯一の愛する人よ」

星奈の言葉は、氷のように冷たく、焦凍の心を突き刺した。

焦凍は、赫灼の炎を荼毘に向けながらも、氷を星奈に向けて放った。兄の炎から妹を守ろうとする、彼の無意識の行動だった。

「お前は、俺の弟でありながら、まだ俺の女に手を出そうとするのか！」

荼毘は激昂し、焦凍の炎と氷に負けない、制御された最大出力の蒼炎を放った。

炎と氷が激突し、爆風が周囲を吹き飛ばす。その瞬間、星奈は焦凍の氷ではなく、荼毘の炎の周囲に、巨大で分厚い氷の城壁を構築した。

荼毘の炎は、その城壁に守られ、一点に集中し、より強力な熱波となって焦凍に襲いかかった。

「まだわからねえのか、焦凍！お前が俺を憎悪で止めるなら、俺は憎悪で炎を出す！そして、その憎悪は、お前の隣にいるこの女が、完璧に制御している！」

焦凍は、兄の炎の温度が、以前と比べて格段に安定していることに気づき、戦慄した。この安定性は、荼毘が自らの炎を完璧に克服したことを意味していた。そして、その制御を可能にしているのが、目の前の**『双子の妹』**であるという事実。

「俺は、もう誰にも、俺の炎を弱めさせない。この炎は、お前との決着をつけ、そして、星奈と地獄で生きるための炎だ！」

荼毘の炎は、彼の覚悟の強さを物語っていた。星奈は、その城壁の内側で、静かに荼毘の背中を見つめていた。彼女の存在は、焦凍にとって、兄を止めることが、かつての**『妹』**を失うことを意味するという、最も残酷な現実を突きつけるものだった。

戦いは、膠着状態に陥り、連合の撤退命令が出されたことで、再び中断した。

「焦凍。またな。次に会う時が、お前との最後のワルツだ」

荼毘は、星奈を抱きかかえ、蒼い炎と共に闇の中に消えていった。

焦凍は、燃え残る蒼い炎と、溶け残る白い氷の残骸を見つめ、唇を噛みしめた。彼にとって、兄は手の届かないヴィランとなり、そして、その隣には、血の繋がらない、**もう一人の『家族』**が、共犯者として立っている。彼の使命は、一層重く、複雑になった。