荼毘と星奈は、弔率いる敵＜ヴィラン＞連合の新たな隠れ家へと帰還した。全面戦争での大打撃から、連合は体制を立て直し、次なる行動に向けて準備を進めている最中だった。

二人の姿を見た他のメンバーたちの視線は、複雑だった。特にトガやトゥワイスは、星奈が荼毘と行動を共にしていることに驚きと好奇心を隠せなかった。

「おや、荼毘ちゃん。綺麗な子を連れて戻ってきたね。しかも、全身凍傷だなんて、何かあったの？」

トガは、いつものように無邪気な様子で星奈に近づいた。

荼毘は、すぐに星奈を背後に庇い、冷たい視線をトガに向けた。

「こいつは、俺の共犯者だ。手を出すな。それに、お前らが知る必要のない、俺の鎮静剤でもある」

荼毘の露骨な態度に、トガは頬を膨らませたが、荼毘の纏う張り詰めた空気を感じ取り、それ以上は踏み込まなかった。

弔もまた、二人に冷たい目を向けた。

「荼毘。お前は復讐を優先しすぎた。それに、その女……轟家の秘密を知りすぎている。俺たちの計画の邪魔になるようなら、躊躇なく塵にする」

弔の脅しに、星奈は冷静に応じた。

「私は、荼毘くんの計画の成就のために動きました。そして、この身は、荼毘くんの炎を制御するためにある。弔くんの計画の邪魔はしない。むしろ、荼毘くんが暴走しないよう、連合の利益を守る手伝いをするわ」

星奈の揺るぎない覚悟と、荼毘への深い依存を見た弔は、一瞬の沈黙の後、フンと鼻を鳴らした。

「勝手にしろ。ただし、裏切りは許さない」

こうして、星奈は、荼毘の恋人としてではなく、彼のパーソナルな命綱として、ヴィラン連合の活動に組み込まれた。彼女の存在は、荼毘の不安定な精神状態と、暴走しがちな炎の個性を抑えるための担保として、他のヴィランからも認識された。

荼毘の次の計画は、彼の体質改造だった。彼は、自分の炎の熱に耐えられないという**『欠陥』を完全に克服し、炎を自由に制御できる『完全』**なヴィランとなることを望んだ。

「このままでは、また炎に焼かれて死ぬ。星奈。俺は死なない。お前と地獄で踊り続けるために、この体を最強の炎に耐えられるように変える」

それは、荼毘自身への、そしてエンデヴァーへの、最後の挑戦だった。


荼毘の身体改造は、AFOの指示を受けたドクターの手により、秘密裏に進められた。それは、想像を絶する激しい痛みと、命の危険を伴うものだった。荼毘の体質を炎に耐えられるように変えるには、彼の細胞に繰り返し強烈な熱刺激を与える必要があった。

改造が行われるラボで、星奈は荼毘の側に立ち続けた。

「これから先、想像を絶する痛みだ。正気を保てなくなるかもしれない。逃げたくなったら、すぐに逃げろ」

荼毘は、施術が始まる直前、全身を焼かれたような激痛に耐えながら星奈に言った。

「逃げないわ。私は、あなたの氷の城壁。あなたが望むなら、私はあなたを永遠に氷の中に閉じ込めることもできる。でも、私はそうしない。私はあなたの炎を、私がいる限り、誰も、何も傷つけられないように守り抜く」

星奈は、両手に力を込めた。手袋は外され、ひび割れた皮膚が冷気に晒される。

施術が始まると、荼毘のラボ全体を焼き尽くすかのような蒼い炎が迸った。彼の体は悲鳴を上げ、全身の皮膚は何度も焼け爛れ、再生を繰り返した。その激痛は、荼毘の意識を何度も奪いかけた。

「あああああ！クソッ！エンデヴァー！俺は死なねえ！」

荼毘が暴走しかけるたび、星奈は全力で氷の個性を発動した。彼女は、荼毘の体の熱を吸収し、彼の個性が自壊するのを防いだ。

彼女の**「氷」は、彼の「炎」**を鎮めるために、極限まで酷使された。ラボ全体は冷気に満たされ、彼女の手足は白い氷に覆われた。目の下の凍傷は深くなり、彼女自身も、自分の命を削りながら彼を支えている状態だった。

「星奈！やめろ！お前まで死ぬぞ！」

荼毘は、朦朧とした意識の中で叫んだ。

「大丈夫！私は、あなたの共犯者。あなたの炎が弱くなるなら、私の命を炎に捧げる。でも、あなたは、私がいる限り死なない！」

彼女の言葉と、体から伝わる純粋な冷気だけが、荼毘を正気に引き戻す唯一の錨だった。彼女の献身は、荼毘の憎悪の炎を、彼女への愛の炎に変えていった。彼は、この女のために生きなければならない、と強く思った。

数日間にわたる過酷な改造の末、荼毘はついに成功した。彼の体は、炎の熱に耐えられるようになり、蒼炎は以前よりもはるかに強力に、そして安定して放出されるようになった。

荼毘が目覚めると、彼の隣には、冷気の使いすぎで全身を氷に覆われ、意識を失っている星奈の姿があった。彼女の手は、凍傷でひび割れ、出血していた。

荼毘は、改造後の、炎に耐えられるようになった自分の手で、星奈の冷え切った頬に触れた。彼の体からは、以前のような暴走した熱ではなく、安定的で制御された温かさが伝わった。

「……馬鹿な女だ」

荼毘はそう呟きながら、自分の炎の熱をコントロールし、彼女の凍った体をゆっくりと温めた。

「もう、俺は炎に焼かれて死ぬことはねえ。お前が、俺の炎を完全に制御できるようにしてくれた。これからは……俺が、お前を温めてやる番だ」

荼毘は、意識のない星奈を抱きしめた。彼の安定した熱が、彼女の冷え切った体に伝わる。

彼らの**「じれったい関係」**は、互いの個性の相克と、命を削る献身によって、絶対的な依存へと変わった。荼毘の制御された炎と、星奈の命をかけた氷の誓約。二人は、ヴィランの道で、永遠に結ばれたのだった。