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全面戦争は、夜の帳が下りる頃、激しさを増していた。
星奈は、荼毘に指示された遠隔地にある廃墟の一室にいた。手元には、荼毘が綿密に用意した公開システムと、轟家の悲劇を収めた映像データが入ったタブレット。彼女の役割は、荼毘が自らの正体を明かす瞬間を見計らい、世界中のヒーロー、そしてエンデヴァーに向けた情報発信を完璧なタイミングで実行することだった。
全身の凍傷が、緊張と冷気のせいでひどく痛み出した。その痛みは、彼女が今踏み込もうとしている闇の深さを物語っているようだった。
「轟焦凍…」
星奈は、映像に映る焦凍の姿を静かに見つめた。彼女が双子として過ごした数年間、冷さんの心の支えであり、家族の歪みの中心にいた異母弟。同じ個性を持つが故に、燈矢の憎悪の矛先ともなった存在。
やがて、戦場の映像が切り替わった。画面中央には、満身創痍のエンデヴァーと、蒼炎を振りまく荼毘の姿。そして、荼毘が、狂気に満ちた笑みを浮かべ、自らの正体を語り始めた。
「知らねえようだから教えてやる。俺は……轟燈矢だ!」
その言葉が響いた瞬間、星奈は迷わずタブレットを操作した。事前に準備していた、荼毘のメッセージと、轟家の過去の隠し撮り映像が一斉に世界中に向けて配信される。
彼女の役割は、映像の情報の重さを最大限に引き出すことだった。
「映像の補足情報を出す。焦凍と瓜二つの個性を持つが、氷しか使えない『欠陥品』の娘。星奈が、荼毘の計画の全てを知っていたこと。彼女もまた、エンデヴァーと同じ体質を持つ、轟家の『失敗作』であること。この事実が、エンデヴァーの悲劇を完成させる」
荼毘が用意した音声メッセージが流れる。それは、轟家の「失敗作」は二人いたという衝撃の事実を突きつけるものだった。
「俺と星奈は、あの山で死んだ。俺を火力の強い失敗作として、彼女を炎の弱い失敗作として。どちらも、エンデヴァーの求める『オールマイトを超える力』ではなかった」
星奈の目の下の凍傷が、ズキズキと熱を持った。彼女の存在は、エンデヴァーの過去の罪を、より深く、そして個人的なものとして世間に晒すための**「トドメ」**だった。彼女は、自らの存在を最大限に利用し、兄の復讐を完遂させたのだ。
映像の配信が終了し、世間がパニックに陥る中、星奈は深く息を吐いた。蒼炎の光が、タブレット越しに彼女の顔を照らしていた。
(燈矢くん。これで、あなたは復讐を成し遂げた。もう、これ以上、自分を焼き尽くさないで……)
彼女の願いとは裏腹に、画面の中の荼毘は、全身から青い炎を噴き上げ、限界を超えた力で暴れ続けていた。
「自得だぜ、さあ一緒に落ちよう、轟炎司!地獄で俺と踊ろうぜ!」
轟音と共に、映像は途切れた。
星奈は、タブレットを握りしめ、静かに立ち上がった。彼女の体は凍えきっていたが、心臓だけは、彼の狂気的な炎の熱を帯びて激しく鼓動していた。彼女は、兄の復讐の共犯者としての役目を、完璧に果たしたのだ。
全面戦争が終わり、ヴィラン連合は撤退した。社会は、荼毘の告白によって大混乱に陥り、ヒーローの信頼は地に落ちた。
星奈は、荼毘と合流するために、事前に指定されていた山奥の古い隠れ家へと向かった。心臓は不安で張り裂けそうだった。荼毘は、あの戦いで自らの限界を超えて炎を放った。彼の体は、無事なはずがない。
隠れ家の扉を開けると、強い焦げ臭い匂いが鼻をついた。薄暗い部屋の奥、毛布にくるまり横たわっている人影を見つけた。星奈は駆け寄った。
「燈矢くん!」
「……うるせえな。星奈か」
荼毘の声は、かつてないほど掠れて、弱々しかった。彼はゆっくりと顔を上げた。その顔は、以前にも増して焼け爛れ、皮膚の継ぎ接ぎが痛々しい。しかし、その瞳には、復讐を成し遂げた者の虚無感と、僅かな安堵が混ざり合っていた。
「体は……大丈夫なの?すぐに手当を……」
「手遅れだ。何度もこんな体で炎を使った。俺は、もう長くない」
荼毘は、冷酷なまでに事実を告げた。その言葉に、星奈の胸は凍りついた。彼女は、彼の冷え切った手に自分の凍傷だらけの手を重ねた。
「そんなこと言わないで。私は、あなたが死んだと思って、何度も悪夢を見た。あなたが……荼毘として生きる道を選んだなら、私はその隣で共犯者として生きていく。一人にはさせない」
「共犯者、か」
荼毘は、自嘲するように笑った。その笑いは、幼い燈矢の面影を再び見せたが、すぐにヴィランの冷酷な表情に戻った。
「お前は、俺の復讐を完成させてくれた。お前がいなければ、あの映像の衝撃は半減していた。感謝する」
「……」
沈黙が流れた。星奈は、彼への複雑な感情を整理しようともがいた。兄であり、ヴィランであり、そして、今もなお愛してやまない人。
「ねえ、燈矢くん……あの時、私が焦凍の双子じゃないって知って、『あ、恋してよかったんだ』って思ったんだ」
星奈は、ぽつり、と告白した。
「あなたが兄だと知る前、私はずっと、あなたの隣で温めてもらうたびに、この気持ちを隠さなきゃって、自分に言い聞かせていた。でも、私は轟家の娘じゃない。血の繋がりなんて、どこにもなかった。だから……」
彼女は言葉を詰まらせた。
荼毘は、全身の痛みに耐えるように一度目を閉じ、そして、ゆっくりと彼女の手を握り返した。彼の体温は、冷たかった。
「……じれったいのは、お前だけじゃねえよ」
その声は、震えていた。
「俺は、お前を火事から救った。燈矢として。あの時、俺はお前が轟家の娘だと信じていた。そして、ヴィランになって、お前を再会した時、俺は……お前が、俺にとって特別だと気づいた」
荼毘は、静かに、しかし、熱を帯びた瞳で星奈を見つめた。
「お前のその氷しか使えない弱い個性、ひび割れた手、そして、黒髪の可愛らしい顔。全てが、俺の胸を締め付けた。轟家で、俺と同じ失敗作という呪いを背負ったお前を、誰にも渡したくなかった」
彼の瞳の奥で、蒼い炎が揺らめいた。
「だが、俺は轟燈矢だ。炎で全てを焼き尽くし、憎悪で生きている。こんな体、こんな運命。お前を愛することは、お前を地獄に引きずり込むことだと思った。だから、俺は兄という鎖でお前を繋ぎ止めていた。お前への恋心を、憎しみの炎の下に閉じ込めていたんだ」
荼毘は、彼女の手を強く握りしめた。
「お前が轟家の子供ではないと知った時、俺の鎖は一瞬で外れた。だが、俺はもう荼毘だ。復讐を成し遂げた、燃え尽きたヴィランだ。だから、言えなかった。愛してると」
彼の告白に、星奈の瞳から涙が溢れた。氷のように冷たい涙が、凍傷のひび割れを濡らした。
「それでも、私は……それでも、あなたが好き。兄じゃなくても、ヴィランでも、荼毘でも……」
荼毘は、彼女の涙を、火傷のない手の甲でそっと拭った。
「馬鹿だな、お前は。俺は、もうヒーローを倒し、憎むべき親父に復讐した。もう、俺に生きる理由はない」
「違う!」
星奈は、彼の顔に両手を添え、静かに顔を近づけた。
「私を見て。私たちが、本当の家族じゃないと知ったあの時、**『あ、恋してよかったんだ』**って思ったんだ。そして、あなたが兄だと知って、その恋心を諦めた。でも、あなたは、私が轟家の子じゃないって知っていた。そして、私と同じように、その恋を諦めていたんでしょう?」
「……ああ」
荼毘は、諦めたように目を閉じた。
星奈は、その唇に、自分の唇を重ねた。冷たい氷の体温と、焼け爛れた皮膚の熱が、一瞬、溶け合った。
「もう、何も諦めないで。私たちは、ヴィランの道で、共犯者として生きていくの。地獄で踊るなら、私も一緒。あなたの炎が弱くなったら、私が氷で体を冷やしてあげる。だから、私の隣で生きて」
目を開けた荼毘の瞳は、どこか諦念と、そして、新しい炎のような情熱を宿していた。彼は、彼女の体を抱き寄せた。その力は弱々しかったが、確かに彼女を求めていた。
「勝手にしろ。馬鹿め。……だが、覚えておけ。星奈。お前は、この燃え尽きたヴィランの、唯一の生きる理由になった」
彼は、彼女の首筋に顔を埋め、深く、低い声で囁いた。
「愛してる。……俺と、地獄で一緒に踊ってくれ」
こうして、切なくもじれったかった二人の両片思いは、ヴィランの道という残酷な場所で成就した。星奈は、自らの弱い氷の個性と、痛々しい凍傷と共に、最強のヴィランとなった兄の隣で、永遠の共犯者として生きていくことを誓った。それは、世界に許されない、蒼い炎と白い氷が織りなす、地獄の恋物語の始まりだった。
星奈は、荼毘に指示された遠隔地にある廃墟の一室にいた。手元には、荼毘が綿密に用意した公開システムと、轟家の悲劇を収めた映像データが入ったタブレット。彼女の役割は、荼毘が自らの正体を明かす瞬間を見計らい、世界中のヒーロー、そしてエンデヴァーに向けた情報発信を完璧なタイミングで実行することだった。
全身の凍傷が、緊張と冷気のせいでひどく痛み出した。その痛みは、彼女が今踏み込もうとしている闇の深さを物語っているようだった。
「轟焦凍…」
星奈は、映像に映る焦凍の姿を静かに見つめた。彼女が双子として過ごした数年間、冷さんの心の支えであり、家族の歪みの中心にいた異母弟。同じ個性を持つが故に、燈矢の憎悪の矛先ともなった存在。
やがて、戦場の映像が切り替わった。画面中央には、満身創痍のエンデヴァーと、蒼炎を振りまく荼毘の姿。そして、荼毘が、狂気に満ちた笑みを浮かべ、自らの正体を語り始めた。
「知らねえようだから教えてやる。俺は……轟燈矢だ!」
その言葉が響いた瞬間、星奈は迷わずタブレットを操作した。事前に準備していた、荼毘のメッセージと、轟家の過去の隠し撮り映像が一斉に世界中に向けて配信される。
彼女の役割は、映像の情報の重さを最大限に引き出すことだった。
「映像の補足情報を出す。焦凍と瓜二つの個性を持つが、氷しか使えない『欠陥品』の娘。星奈が、荼毘の計画の全てを知っていたこと。彼女もまた、エンデヴァーと同じ体質を持つ、轟家の『失敗作』であること。この事実が、エンデヴァーの悲劇を完成させる」
荼毘が用意した音声メッセージが流れる。それは、轟家の「失敗作」は二人いたという衝撃の事実を突きつけるものだった。
「俺と星奈は、あの山で死んだ。俺を火力の強い失敗作として、彼女を炎の弱い失敗作として。どちらも、エンデヴァーの求める『オールマイトを超える力』ではなかった」
星奈の目の下の凍傷が、ズキズキと熱を持った。彼女の存在は、エンデヴァーの過去の罪を、より深く、そして個人的なものとして世間に晒すための**「トドメ」**だった。彼女は、自らの存在を最大限に利用し、兄の復讐を完遂させたのだ。
映像の配信が終了し、世間がパニックに陥る中、星奈は深く息を吐いた。蒼炎の光が、タブレット越しに彼女の顔を照らしていた。
(燈矢くん。これで、あなたは復讐を成し遂げた。もう、これ以上、自分を焼き尽くさないで……)
彼女の願いとは裏腹に、画面の中の荼毘は、全身から青い炎を噴き上げ、限界を超えた力で暴れ続けていた。
「自得だぜ、さあ一緒に落ちよう、轟炎司!地獄で俺と踊ろうぜ!」
轟音と共に、映像は途切れた。
星奈は、タブレットを握りしめ、静かに立ち上がった。彼女の体は凍えきっていたが、心臓だけは、彼の狂気的な炎の熱を帯びて激しく鼓動していた。彼女は、兄の復讐の共犯者としての役目を、完璧に果たしたのだ。
全面戦争が終わり、ヴィラン連合は撤退した。社会は、荼毘の告白によって大混乱に陥り、ヒーローの信頼は地に落ちた。
星奈は、荼毘と合流するために、事前に指定されていた山奥の古い隠れ家へと向かった。心臓は不安で張り裂けそうだった。荼毘は、あの戦いで自らの限界を超えて炎を放った。彼の体は、無事なはずがない。
隠れ家の扉を開けると、強い焦げ臭い匂いが鼻をついた。薄暗い部屋の奥、毛布にくるまり横たわっている人影を見つけた。星奈は駆け寄った。
「燈矢くん!」
「……うるせえな。星奈か」
荼毘の声は、かつてないほど掠れて、弱々しかった。彼はゆっくりと顔を上げた。その顔は、以前にも増して焼け爛れ、皮膚の継ぎ接ぎが痛々しい。しかし、その瞳には、復讐を成し遂げた者の虚無感と、僅かな安堵が混ざり合っていた。
「体は……大丈夫なの?すぐに手当を……」
「手遅れだ。何度もこんな体で炎を使った。俺は、もう長くない」
荼毘は、冷酷なまでに事実を告げた。その言葉に、星奈の胸は凍りついた。彼女は、彼の冷え切った手に自分の凍傷だらけの手を重ねた。
「そんなこと言わないで。私は、あなたが死んだと思って、何度も悪夢を見た。あなたが……荼毘として生きる道を選んだなら、私はその隣で共犯者として生きていく。一人にはさせない」
「共犯者、か」
荼毘は、自嘲するように笑った。その笑いは、幼い燈矢の面影を再び見せたが、すぐにヴィランの冷酷な表情に戻った。
「お前は、俺の復讐を完成させてくれた。お前がいなければ、あの映像の衝撃は半減していた。感謝する」
「……」
沈黙が流れた。星奈は、彼への複雑な感情を整理しようともがいた。兄であり、ヴィランであり、そして、今もなお愛してやまない人。
「ねえ、燈矢くん……あの時、私が焦凍の双子じゃないって知って、『あ、恋してよかったんだ』って思ったんだ」
星奈は、ぽつり、と告白した。
「あなたが兄だと知る前、私はずっと、あなたの隣で温めてもらうたびに、この気持ちを隠さなきゃって、自分に言い聞かせていた。でも、私は轟家の娘じゃない。血の繋がりなんて、どこにもなかった。だから……」
彼女は言葉を詰まらせた。
荼毘は、全身の痛みに耐えるように一度目を閉じ、そして、ゆっくりと彼女の手を握り返した。彼の体温は、冷たかった。
「……じれったいのは、お前だけじゃねえよ」
その声は、震えていた。
「俺は、お前を火事から救った。燈矢として。あの時、俺はお前が轟家の娘だと信じていた。そして、ヴィランになって、お前を再会した時、俺は……お前が、俺にとって特別だと気づいた」
荼毘は、静かに、しかし、熱を帯びた瞳で星奈を見つめた。
「お前のその氷しか使えない弱い個性、ひび割れた手、そして、黒髪の可愛らしい顔。全てが、俺の胸を締め付けた。轟家で、俺と同じ失敗作という呪いを背負ったお前を、誰にも渡したくなかった」
彼の瞳の奥で、蒼い炎が揺らめいた。
「だが、俺は轟燈矢だ。炎で全てを焼き尽くし、憎悪で生きている。こんな体、こんな運命。お前を愛することは、お前を地獄に引きずり込むことだと思った。だから、俺は兄という鎖でお前を繋ぎ止めていた。お前への恋心を、憎しみの炎の下に閉じ込めていたんだ」
荼毘は、彼女の手を強く握りしめた。
「お前が轟家の子供ではないと知った時、俺の鎖は一瞬で外れた。だが、俺はもう荼毘だ。復讐を成し遂げた、燃え尽きたヴィランだ。だから、言えなかった。愛してると」
彼の告白に、星奈の瞳から涙が溢れた。氷のように冷たい涙が、凍傷のひび割れを濡らした。
「それでも、私は……それでも、あなたが好き。兄じゃなくても、ヴィランでも、荼毘でも……」
荼毘は、彼女の涙を、火傷のない手の甲でそっと拭った。
「馬鹿だな、お前は。俺は、もうヒーローを倒し、憎むべき親父に復讐した。もう、俺に生きる理由はない」
「違う!」
星奈は、彼の顔に両手を添え、静かに顔を近づけた。
「私を見て。私たちが、本当の家族じゃないと知ったあの時、**『あ、恋してよかったんだ』**って思ったんだ。そして、あなたが兄だと知って、その恋心を諦めた。でも、あなたは、私が轟家の子じゃないって知っていた。そして、私と同じように、その恋を諦めていたんでしょう?」
「……ああ」
荼毘は、諦めたように目を閉じた。
星奈は、その唇に、自分の唇を重ねた。冷たい氷の体温と、焼け爛れた皮膚の熱が、一瞬、溶け合った。
「もう、何も諦めないで。私たちは、ヴィランの道で、共犯者として生きていくの。地獄で踊るなら、私も一緒。あなたの炎が弱くなったら、私が氷で体を冷やしてあげる。だから、私の隣で生きて」
目を開けた荼毘の瞳は、どこか諦念と、そして、新しい炎のような情熱を宿していた。彼は、彼女の体を抱き寄せた。その力は弱々しかったが、確かに彼女を求めていた。
「勝手にしろ。馬鹿め。……だが、覚えておけ。星奈。お前は、この燃え尽きたヴィランの、唯一の生きる理由になった」
彼は、彼女の首筋に顔を埋め、深く、低い声で囁いた。
「愛してる。……俺と、地獄で一緒に踊ってくれ」
こうして、切なくもじれったかった二人の両片思いは、ヴィランの道という残酷な場所で成就した。星奈は、自らの弱い氷の個性と、痛々しい凍傷と共に、最強のヴィランとなった兄の隣で、永遠の共犯者として生きていくことを誓った。それは、世界に許されない、蒼い炎と白い氷が織りなす、地獄の恋物語の始まりだった。