これは、全てを焼き尽くす蒼い炎と、その炎に焦がれながらも、炎を鎮めるために生まれた氷の物語。

世界はヒーローとヴィランの二つの極に分かたれ、人々の常識は**『個性』**という名の超常的な力によって塗り替えられていた。しかし、その光の裏側には、個性に翻弄され、運命を歪められた者たちがいる。

轟家。誰もが羨むNo.1ヒーロー、エンデヴァーが築いた、赫灼の炎を継ぐ名門。その家系に、轟焦凍と共に双子として生まれたとされた一人の少女がいた。

彼女――星奈は、焦凍と同じ**『半冷半燃』の個性を奇跡的に受け継いでいた。だが、その力のバランスは極端に偏っていた。炎の力は頼りなく、彼女の個性はほとんど『氷』しか発現しない。そして、彼女の体質は、冷気への耐性が低く、皮膚、特に手の甲と目の下には、常に痛々しい凍傷（ひび割れ）が刻まれていた。彼女は、エンデヴァーが望んだ『完全』な個性の、もう一人の『欠陥品』**だった。

彼女の運命は、轟家の長男、轟燈矢という名の少年と深く結びついていた。

燈矢は、父に認められない自らの炎に苦しみ、その熱で全身を焼け爛れさせながら、ただ父の愛を求めた。そして、全てを終わらせるべく、虚ろな山で猛烈な炎を放ったあの日、まだ幼かった星奈もまた、その火事に巻き込まれた。

彼らは死んだと思われた。しかし、運命の糸は切れなかった。

全てを司るヴィラン、オール・フォー・ワン（AFO）の力によって、二人は地獄の淵から引き上げられた。数週間後に目覚めた星奈は、自分が轟家の人間ではないという残酷な真実を、ドクターから告げられた。そして、AFOの庇護のもと、彼女は死柄木弔と共に、ヴィランの道を歩み始める。

数年後、彼女の前に現れた一人のヴィラン、荼毘。

その蒼い炎、焼け爛れた体、そしてどこか懐かしい眼差しは、彼女の心の奥底に封印されていた兄の面影を呼び起こした。彼女は知らず知らずのうちに、そのヴィランに、切なく、じれったい恋心を抱いていく。

荼毘は、彼女の氷を求め、彼女の献身に依存した。だが、彼は、自分が彼女の兄であり、彼女が抱く愛は許されないと、頑なに彼女を突き放した。

血の繋がりはない。しかし、過去の残酷な運命で繋がれた二人。

彼らの愛は、轟家への憎悪という名の炎に何度も焼かれ、兄妹という鎖に幾度も縛られた。

これは、二人のヴィランが、自らの運命と、世界を敵に回し、**「地獄の共犯者」**として、永遠の愛と誓約を交わすまでの、激しくも哀しい物語である。

蒼い炎と、その炎を鎮める氷が、世界と運命に抗いながら、地獄のワルツを踊り始める。