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(目黒side)
都心の高級マンションのエントランスは、相変わらず冷たかった。
目黒蓮と渡辺翔太は、三度目となる訪問に立っていた。前回、氷室という完璧な門番に完璧に阻まれた場所だ。だが、今回は違う。僕たちの手には、向井康二と阿部亮平が命懸けで掴んだ、天城玲凰の**「心臓」**に触れるための鍵がある。
「翔太くん、大丈夫?」目黒は、横に立つ翔太に尋ねた。
「ああ。怖いのは怖ぇけど、あんなに切実に死にたいって言ってる人に、お礼も言えずに見過ごすなんて、俺には無理だ」
翔太の瞳は、強い意志の青を湛えていた。彼の純粋な情熱こそが、この無謀な作戦の推進力だ。
インターホンを押す代わりに、僕たちは正面の自動ドアから堂々と入ろうとした。もちろん、ロックされていて開かない。その瞬間、エントランスの奥、セキュリティルームの扉が開き、黒い影が滑り出てきた。
「…無駄なことです」
氷室だった。彼は、僕たちに一歩も近づかず、冷たい目で立ち尽くしている。その完璧な立ち姿は、まるで警護用の彫刻のようだ。
「二度と近づかないよう忠告したはずですが。貴方方の無謀な行動は、天城様への侮辱に当たります」
氷室の声は低く、感情の振動がない。
目黒は、臆することなく一歩前に出た。
「氷室さん。今回はお礼じゃない。あなたに会いに来た」
氷室の眉が、わずかに、本当にわずかに動いた。この一瞬の反応を見逃さなかった。
「話すことはありません。すぐに立ち去りなさい。次に私がお会いするときは、手段を選びません」
「手段を選ばない? それは、あなたの**『真のオーナー』**の意向ですか?」
目黒は、あえて「玲凰さん」ではなく、「真のオーナー」という言葉を使った。
「私たちは知ってますよ。あなたが守っているのは、裏社会のトップという立場だけじゃない。あなたが必死に守り続けているのは、玲凰さんの**『孤独』**そのものでしょう」
翔太が、目黒の隣で、氷室の表情を凝視した。
氷室の目が、初めて僕たちを人間として捉えたように感じた。しかし、その表情はすぐに元の無機質な冷酷さへと戻る。
「…戯言を。貴方方のような喧騒の塊に、天城様の孤独など、理解できるはずがない」
「ええ、理解できるはずがない。だから調べた」目黒は、静かに、しかし力強く言った。
「『オメガ・タウロス』。世界の運命を決定づける者。そして、『死』を望む玲凰さんに代わって、あなたがその鉄壁の城を守り続けている。それは、あなたの忠誠心ですか? それとも、『K. M.』というイニシャルへの、あなたの誓いですか?」
その瞬間、氷室の身体が、微かに、本当に微かに硬直した。
目黒は続けた。
「あの人、自分のスーツの裏地に、なぜ**『カメラを構える影』のモチーフを刻ませているんですか。なぜ、その隅に『K. M.』**というイニシャルを隠しているんですか。それは、玲凰さんが、失ったはずの光を、唯一、誰にも見えない形で記憶に留めようとしているからでしょう」
翔太が、その間に紙袋から、あるものを静かに取り出した。それは、康二が準備した、古びたフィルムカメラだ。玲凰さんが裏地に刻んだであろう、あの失われた「写真」のモチーフに、少しでも近づけるようにと選んだ、アンティークな一台。
「玲凰さんは、孤独で死にたいと思ってる。でも、その証拠を、自分で自分の体に、残しているんですよ。それは、誰かに見つけてほしい、って叫びじゃないですか!」
翔太は、フィルムカメラを氷室に向かって差し出した。
「僕たちは、お礼なんてどうでもいい。ただ、玲凰さんが持っているその**『光の痕跡』を、『あなたは一人じゃない』って肯定したいだけなんです。これは、あなたの『真のオーナー』**が失った光の象徴だと思って、受け取ってください」
氷室は、フィルムカメラと、そのカメラを差し出す翔太の純粋すぎる瞳を交互に見た。彼は、数十年、裏社会のトップの影として生きてきた。命の危険、裏切り、血、そして金。あらゆる汚いものを見てきた彼にとって、このアイドルの、あまりにも無垢な善意と、彼らが暴いた**『K. M.』の秘密は、彼の鉄壁の防衛線**を揺るがす、予期せぬ一撃だった。
「…引き下がりなさい」氷室は、震える声で言った。「もう一度、忠告します。貴方方がこれ以上、天城様の深淵に触れようとするならば、私とて……」
その時だった。
目黒は、予定のタイミングだと悟り、エントランスのガラス扉の向こう、夜空に向かって静かに視線を向けた。
マンションから約500メートル離れたビルの屋上。そこから、一筋の強烈な閃光が放たれた。
カシャッ――ン!
向井康二が、超望遠レンズと、最大出力に設定したストロボを使い、最上階のペントハウスの窓ガラスめがけて、無音の一枚を撮ったのだ。
その光は、深夜の闇を切り裂き、玲凰の住む最上階の、分厚い防弾ガラスを貫通し、室内の一点に、小さな白銀の円を描いた。
氷室は、何が起こったのか理解できず、一瞬、夜空と最上階の窓を交互に見た。彼の警護プランには、**「遠方からの光のメッセージ」**など、含まれていなかった。
目黒は、氷室に向かって囁いた。
「あれは、**『K. M.』からのサインですよ。『あなたは、カメラを持つ誰かの心の中に、まだ生きている』**という、メッセージです」
そして、目黒は続けた。
「玲凰さんの**『死場所』は、あなた一人が守るべきものではない。俺たち九人全員が、これから、あの人の『生きる場所』**を一緒に探します。これは、宣戦布告ですよ、氷室さん」
目黒は、静かに翔太からフィルムカメラを受け取り、氷室の足元に置いた。
「受け取りなさい。拒否するなら、俺たちは毎日、ここに来る」
目黒と翔太は、氷室が動揺で言葉を失っている間に、踵を返した。彼らの背後から、氷室の「待て!」という低い声が響いたが、二人は立ち止まらなかった。
一方、最上階。
天城玲凰は、防弾ガラスの窓辺で、いつものようにカクテルグラスを傾けていた。彼の心は、静かな虚無に支配されている。
(…もうすぐだ。この全てが終わる)
そう思っていた、その時。
無機質な部屋を、白銀の円い光が一瞬だけ貫いた。それは、一秒にも満たない、しかし、強烈なフラッシュだった。
玲凰は、反射的に目を細めた。その光は、ただ明るいだけでなく、温かい熱を帯びていた。
そして、その光は、玲凰の脳裏に、数十年前の記憶を呼び起こした。
「お兄様、見て!この光が、わたしの夢なの!」
それは、K. M.と名乗っていた、彼の妹の声。彼女が目指していた「写真家」という夢。その光は、玲凰が長い間、自分の心に封じ込めていた、「生」の希望だった。
玲凰は、初めて、その冷たいグラスを床に落とした。
ガシャン、という音とともに、彼の心に、長く閉ざされていた感情が、一筋の亀裂となって流れ込んできた。
(…なぜ、今、その光を)
玲凰は、窓の外を見た。夜の闇の中、再び光が放たれることはなかった。しかし、その一瞬の閃光は、世界の要の「静かな死」への計画を、大きく狂わせたのだった。
都心の高級マンションのエントランスは、相変わらず冷たかった。
目黒蓮と渡辺翔太は、三度目となる訪問に立っていた。前回、氷室という完璧な門番に完璧に阻まれた場所だ。だが、今回は違う。僕たちの手には、向井康二と阿部亮平が命懸けで掴んだ、天城玲凰の**「心臓」**に触れるための鍵がある。
「翔太くん、大丈夫?」目黒は、横に立つ翔太に尋ねた。
「ああ。怖いのは怖ぇけど、あんなに切実に死にたいって言ってる人に、お礼も言えずに見過ごすなんて、俺には無理だ」
翔太の瞳は、強い意志の青を湛えていた。彼の純粋な情熱こそが、この無謀な作戦の推進力だ。
インターホンを押す代わりに、僕たちは正面の自動ドアから堂々と入ろうとした。もちろん、ロックされていて開かない。その瞬間、エントランスの奥、セキュリティルームの扉が開き、黒い影が滑り出てきた。
「…無駄なことです」
氷室だった。彼は、僕たちに一歩も近づかず、冷たい目で立ち尽くしている。その完璧な立ち姿は、まるで警護用の彫刻のようだ。
「二度と近づかないよう忠告したはずですが。貴方方の無謀な行動は、天城様への侮辱に当たります」
氷室の声は低く、感情の振動がない。
目黒は、臆することなく一歩前に出た。
「氷室さん。今回はお礼じゃない。あなたに会いに来た」
氷室の眉が、わずかに、本当にわずかに動いた。この一瞬の反応を見逃さなかった。
「話すことはありません。すぐに立ち去りなさい。次に私がお会いするときは、手段を選びません」
「手段を選ばない? それは、あなたの**『真のオーナー』**の意向ですか?」
目黒は、あえて「玲凰さん」ではなく、「真のオーナー」という言葉を使った。
「私たちは知ってますよ。あなたが守っているのは、裏社会のトップという立場だけじゃない。あなたが必死に守り続けているのは、玲凰さんの**『孤独』**そのものでしょう」
翔太が、目黒の隣で、氷室の表情を凝視した。
氷室の目が、初めて僕たちを人間として捉えたように感じた。しかし、その表情はすぐに元の無機質な冷酷さへと戻る。
「…戯言を。貴方方のような喧騒の塊に、天城様の孤独など、理解できるはずがない」
「ええ、理解できるはずがない。だから調べた」目黒は、静かに、しかし力強く言った。
「『オメガ・タウロス』。世界の運命を決定づける者。そして、『死』を望む玲凰さんに代わって、あなたがその鉄壁の城を守り続けている。それは、あなたの忠誠心ですか? それとも、『K. M.』というイニシャルへの、あなたの誓いですか?」
その瞬間、氷室の身体が、微かに、本当に微かに硬直した。
目黒は続けた。
「あの人、自分のスーツの裏地に、なぜ**『カメラを構える影』のモチーフを刻ませているんですか。なぜ、その隅に『K. M.』**というイニシャルを隠しているんですか。それは、玲凰さんが、失ったはずの光を、唯一、誰にも見えない形で記憶に留めようとしているからでしょう」
翔太が、その間に紙袋から、あるものを静かに取り出した。それは、康二が準備した、古びたフィルムカメラだ。玲凰さんが裏地に刻んだであろう、あの失われた「写真」のモチーフに、少しでも近づけるようにと選んだ、アンティークな一台。
「玲凰さんは、孤独で死にたいと思ってる。でも、その証拠を、自分で自分の体に、残しているんですよ。それは、誰かに見つけてほしい、って叫びじゃないですか!」
翔太は、フィルムカメラを氷室に向かって差し出した。
「僕たちは、お礼なんてどうでもいい。ただ、玲凰さんが持っているその**『光の痕跡』を、『あなたは一人じゃない』って肯定したいだけなんです。これは、あなたの『真のオーナー』**が失った光の象徴だと思って、受け取ってください」
氷室は、フィルムカメラと、そのカメラを差し出す翔太の純粋すぎる瞳を交互に見た。彼は、数十年、裏社会のトップの影として生きてきた。命の危険、裏切り、血、そして金。あらゆる汚いものを見てきた彼にとって、このアイドルの、あまりにも無垢な善意と、彼らが暴いた**『K. M.』の秘密は、彼の鉄壁の防衛線**を揺るがす、予期せぬ一撃だった。
「…引き下がりなさい」氷室は、震える声で言った。「もう一度、忠告します。貴方方がこれ以上、天城様の深淵に触れようとするならば、私とて……」
その時だった。
目黒は、予定のタイミングだと悟り、エントランスのガラス扉の向こう、夜空に向かって静かに視線を向けた。
マンションから約500メートル離れたビルの屋上。そこから、一筋の強烈な閃光が放たれた。
カシャッ――ン!
向井康二が、超望遠レンズと、最大出力に設定したストロボを使い、最上階のペントハウスの窓ガラスめがけて、無音の一枚を撮ったのだ。
その光は、深夜の闇を切り裂き、玲凰の住む最上階の、分厚い防弾ガラスを貫通し、室内の一点に、小さな白銀の円を描いた。
氷室は、何が起こったのか理解できず、一瞬、夜空と最上階の窓を交互に見た。彼の警護プランには、**「遠方からの光のメッセージ」**など、含まれていなかった。
目黒は、氷室に向かって囁いた。
「あれは、**『K. M.』からのサインですよ。『あなたは、カメラを持つ誰かの心の中に、まだ生きている』**という、メッセージです」
そして、目黒は続けた。
「玲凰さんの**『死場所』は、あなた一人が守るべきものではない。俺たち九人全員が、これから、あの人の『生きる場所』**を一緒に探します。これは、宣戦布告ですよ、氷室さん」
目黒は、静かに翔太からフィルムカメラを受け取り、氷室の足元に置いた。
「受け取りなさい。拒否するなら、俺たちは毎日、ここに来る」
目黒と翔太は、氷室が動揺で言葉を失っている間に、踵を返した。彼らの背後から、氷室の「待て!」という低い声が響いたが、二人は立ち止まらなかった。
一方、最上階。
天城玲凰は、防弾ガラスの窓辺で、いつものようにカクテルグラスを傾けていた。彼の心は、静かな虚無に支配されている。
(…もうすぐだ。この全てが終わる)
そう思っていた、その時。
無機質な部屋を、白銀の円い光が一瞬だけ貫いた。それは、一秒にも満たない、しかし、強烈なフラッシュだった。
玲凰は、反射的に目を細めた。その光は、ただ明るいだけでなく、温かい熱を帯びていた。
そして、その光は、玲凰の脳裏に、数十年前の記憶を呼び起こした。
「お兄様、見て!この光が、わたしの夢なの!」
それは、K. M.と名乗っていた、彼の妹の声。彼女が目指していた「写真家」という夢。その光は、玲凰が長い間、自分の心に封じ込めていた、「生」の希望だった。
玲凰は、初めて、その冷たいグラスを床に落とした。
ガシャン、という音とともに、彼の心に、長く閉ざされていた感情が、一筋の亀裂となって流れ込んできた。
(…なぜ、今、その光を)
玲凰は、窓の外を見た。夜の闇の中、再び光が放たれることはなかった。しかし、その一瞬の閃光は、世界の要の「静かな死」への計画を、大きく狂わせたのだった。