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(渡辺side)
阿部亮平が特定した都心最高級マンションは、外観からして異様な威圧感を放っていた。
「ここが、あの人の城……」
渡辺翔太は、隣でリュックを背負った向井康二を見上げた。康二は首からお気に入りのフィルムカメラを下げ、妙に緊張した面持ちで、その超高層ビルを見上げていた。
「しょっぴー、マジでここ? なんか、俺らみたいなもんが入っていい場所ちゃうで…」
康二の言う通り、ビルのエントランスはまるで美術館のように静謐で、オートロックのガラス扉の向こう側には、黒のスーツを完璧に着こなした男性が二人、微動だにせず立っていた。警備員というより、門番といった方が正しい。
「阿部ちゃんが調べたんだ。間違いない。最上階のペントハウスだ」
翔太は、持ってきた小さな紙袋を握りしめた。中には、グループで選んだ高級ブランドの入浴剤と、全員からの直筆のメッセージカードが入っている。メッセージカードには、たった一言、「命を救ってくれて、ありがとう」とだけ書いた。
「よし、行くぞ、康二。お礼を伝えるだけだ。ひかるとの約束だろ」
「わかった! 俺の陽のオーラで、鉄壁の扉、ぶち破るで!」
康二はそう言いながらも、その声は心なしか震えていた。
二人は深呼吸し、エントランスのインターホンを押した。
「…どちら様でしょうか」
スピーカーから聞こえてきたのは、冷たく、感情の起伏が全くない男性の声だった。
翔太が、事前に練習していた通りの丁寧な言葉遣いで切り出す。
「あの、先日、こちらにいらっしゃる天城玲凰さんにお世話になりました、渡辺翔太と申します。ささやかですが、お礼をお渡ししたくて参りました」
スピーカーの向こう側で、沈黙が訪れた。まるで、二人の言葉が、異国の言語のように理解されていないかのようだ。
数秒後、再び声が響く。
「…そのような人物は、当マンションには居住しておりません。お引取りください」
「えっ」
翔太は思わず声が出た。阿部が調べた情報が、まさかの誤りだったのか?
「ちょっと待ってください! 確かに、最上階の…」
「重ねて申し上げます。当マンションの最上階は、セキュリティ管理上、立ち入り禁止となっております。お客様には、これ以上の迷惑行為を控えていただくよう、忠告させていただきます」
声は静かだが、その裏に隠された鉄のような拒絶が、翔太にははっきりと伝わってきた。
「くそっ!」
翔太はインターホンから手を離し、歯を食いしばった。
「しょっぴー、どうする? 完全にシャットアウトされたな」康二が不安そうに尋ねる。
「…諦めるかよ。あんなに感謝を伝えたいのに」
翔太は、ふと、横の路地に目をやった。その路地は、マンションの搬入口へと続いており、時折、業者の出入りが見受けられた。
「康二、ちょっとあそこに行ってみよう」
二人は路地裏へ移動した。運よく、生花の配達業者が搬入口に車を停め、荷物を降ろしているところだった。
「すみません、ちょっと!」
翔太は意を決して、配達員に声をかけ、素早く尋ねた。
「このビルに、天城玲凰さんという方は住んでますか? 僕、彼の友人で…」
配達員は、少し困惑した表情を浮かべた後、声を潜めた。
「ああ……『アマギ様』ね。噂は聞きますよ。最上階の、人に見られたがらない方ですよね? 警備が尋常じゃないんで、僕らでも直接お部屋には行けませんけど。ただ、週に二回、あの人が来るときだけは、ちょっと空気が違うんで、すぐにわかります」
「あの人?」康二が食いついた。
「ええ。背の高い、細身の、いつも無表情な男性です。黒いスーツを着て。名前は知りませんが、たぶん、アマギ様のお付きの方でしょう。すごく偉い人だと、ここの警備員たちも頭が上がらないみたいで…」
(間違いない。阿部ちゃんの言う『表の管理人』だ)翔太は確信した。
お礼の品を直接渡すのは無理だと悟った翔太は、康二と顔を見合わせた。
「康二、一旦引くぞ。あの『管理人』とやらを、どこかで待ち伏せするしかない」
二人が路地から出ようとした、その時。
マンションの正面エントランスから、配達員が言っていた通りの人物が、滑るように出てくるのが見えた。
背が高く、細身で、黒いスーツを完璧に着こなしている。感情の読み取れない、氷のように冷たい顔。その男は、周囲の喧騒を一切無視し、まるで自分の時間軸で動いているかのように、ゆっくりと歩を進めていた。
(あれだ!あれが、玲凰さんに繋がる唯一の窓口だ!)
翔太は康二とアイコンタクトを取り、すぐに男を追いかけた。しかし、男は角を曲がってすぐに、真っ黒な高級車に乗り込み、そのまま静かに去ってしまった。
「ちくしょう! 早すぎるやろ!」康二が悔しそうに地団駄を踏む。
「待て、康二」翔太は、男が乗り込んだ車のナンバーを、瞬時にスマホのカメラで撮影していた。
「ナンバーは撮った。これがあれば、阿部ちゃんが何かしてくれる」
二人は一旦引き返し、急いで阿部に情報を送った。
数時間後、阿部からの連絡が入った。
『彼の名前は氷室(ひむろ)。表向きは、玲凰がオーナーを務めるスーツブランドの最高責任者だ。そして、彼は玲凰の裏の業務を全て管理する、右腕でもある。ナンバーから、彼が向かった先も特定した。都内港区にある、会員制の超高級ギャラリーだ。』
「ギャラリー?」
『ああ。彼はそこで、玲凰の美術品コレクションの一部を、秘密裏に管理している。おそらく、玲凰は彼を通じて、世間から距離を置いているんだ』
この情報に、宮舘涼太が反応した。
「ギャラリーか。もしかすると、僕のロイヤルな友人から得た情報とリンクするかもしれない」
「舘様!お願い!」
宮舘は静かに頷き、電話で友人との連絡を取り始めた。
翌日、翔太と康二は、宮舘と合流し、氷室が向かったという高級ギャラリーへと足を運んだ。
「涼太、ありがとう。わざわざ付き合ってもらって」
翔太が言うと、宮舘は落ち着いた声で返した。「気にすることはない。僕の友人が、このギャラリーのオーナーと顔見知りだった。オーナーは、僕らが『美術品の知識を深めたい』と言えば、氷室氏に迷惑をかけない程度に、中を見せてくれると約束してくれたよ」
三人でギャラリーに入ると、そこは異空間だった。外界の音は遮断され、照明は計算され尽くし、並べられた美術品は、見る者の魂を吸い込むような静謐な力を放っている。
「さすが、玲凰さんが所有するコレクションだな。ただの富豪の趣味じゃない、歴史の重みを感じる」
宮舘が、ある一点の古い紋章のような彫刻画の前で足を止めた。
その時、ギャラリーの奥から、例の黒スーツの男――氷室が、無表情で現れた。彼の隣には、ギャラリーのオーナーらしき初老の男性がいる。
氷室は、Snow Manの三人を一瞥した。その視線は、まるで虫けらを見るような冷たさだった。
オーナーが慌てて声をかける。
「氷室様、申し訳ありません。こちらは、日本の著名なアイドルグループ、Snow Manの宮舘様とそのご友人です。美術品に大変興味をお持ちで…」
氷室は、オーナーの言葉を遮り、低い声で宮舘に向かって言った。その声は、エントランスで翔太が聞いた声と同じ、感情のない機械のような声だった。
「…宮舘様。お見かけしております。貴方たちが、先日、天城様にご迷惑をおかけした**『芸能人』**ですね」
その言葉には、明確な軽蔑と警告の響きが込められていた。翔太は、全身に鳥肌が立つのを感じた。
「ご迷惑だなんて。私たちは、玲凰様に命を救っていただいた感謝を伝えに参りました」
翔太が前に出ると、氷室の視線が、まるでレーザー光線のように翔太を射抜いた。
「天城様は、貴方方のような表舞台の喧騒を、何よりも嫌っておられます。貴方方の『感謝』は、天城様にとっては**『騒音』**でしかありません」
氷室は、一歩も近づくことなく、冷酷に言い放った。
「彼は、静かに、己の望む結末に向かわれております。貴方方が、その邪魔をするようなことがあれば」
氷室は、口元に微かな笑みを浮かべた。それは、まるで死神の微笑みのようだった。
「…貴方方の未来も、その結末に巻き込まれることになりますよ」
氷室の言葉は、玲凰を取り巻く世界が、どれほど危険で、どれほど強固な壁に守られているかを、痛いほど翔太たちに思い知らせた。
「玲凰さんは、本当に…死ぬことを望んでいるんですか」翔太が絞り出すように尋ねた。
氷室は答えなかった。ただ、静かに、背を向けた。
「お引取りください。二度と、天城様に近づくことのないよう、心より願っております」
そして、彼は、ギャラリーの奥、玲凰の静かなるコレクションの闇へと消えていった。
翔太は、手のひらの入浴剤とお礼のメッセージカードを、強く握りしめた。玲凰の城は、あまりにも鉄壁だった。そして、彼を救うための道は、あまりにも危険な予感に満ちていた。
阿部亮平が特定した都心最高級マンションは、外観からして異様な威圧感を放っていた。
「ここが、あの人の城……」
渡辺翔太は、隣でリュックを背負った向井康二を見上げた。康二は首からお気に入りのフィルムカメラを下げ、妙に緊張した面持ちで、その超高層ビルを見上げていた。
「しょっぴー、マジでここ? なんか、俺らみたいなもんが入っていい場所ちゃうで…」
康二の言う通り、ビルのエントランスはまるで美術館のように静謐で、オートロックのガラス扉の向こう側には、黒のスーツを完璧に着こなした男性が二人、微動だにせず立っていた。警備員というより、門番といった方が正しい。
「阿部ちゃんが調べたんだ。間違いない。最上階のペントハウスだ」
翔太は、持ってきた小さな紙袋を握りしめた。中には、グループで選んだ高級ブランドの入浴剤と、全員からの直筆のメッセージカードが入っている。メッセージカードには、たった一言、「命を救ってくれて、ありがとう」とだけ書いた。
「よし、行くぞ、康二。お礼を伝えるだけだ。ひかるとの約束だろ」
「わかった! 俺の陽のオーラで、鉄壁の扉、ぶち破るで!」
康二はそう言いながらも、その声は心なしか震えていた。
二人は深呼吸し、エントランスのインターホンを押した。
「…どちら様でしょうか」
スピーカーから聞こえてきたのは、冷たく、感情の起伏が全くない男性の声だった。
翔太が、事前に練習していた通りの丁寧な言葉遣いで切り出す。
「あの、先日、こちらにいらっしゃる天城玲凰さんにお世話になりました、渡辺翔太と申します。ささやかですが、お礼をお渡ししたくて参りました」
スピーカーの向こう側で、沈黙が訪れた。まるで、二人の言葉が、異国の言語のように理解されていないかのようだ。
数秒後、再び声が響く。
「…そのような人物は、当マンションには居住しておりません。お引取りください」
「えっ」
翔太は思わず声が出た。阿部が調べた情報が、まさかの誤りだったのか?
「ちょっと待ってください! 確かに、最上階の…」
「重ねて申し上げます。当マンションの最上階は、セキュリティ管理上、立ち入り禁止となっております。お客様には、これ以上の迷惑行為を控えていただくよう、忠告させていただきます」
声は静かだが、その裏に隠された鉄のような拒絶が、翔太にははっきりと伝わってきた。
「くそっ!」
翔太はインターホンから手を離し、歯を食いしばった。
「しょっぴー、どうする? 完全にシャットアウトされたな」康二が不安そうに尋ねる。
「…諦めるかよ。あんなに感謝を伝えたいのに」
翔太は、ふと、横の路地に目をやった。その路地は、マンションの搬入口へと続いており、時折、業者の出入りが見受けられた。
「康二、ちょっとあそこに行ってみよう」
二人は路地裏へ移動した。運よく、生花の配達業者が搬入口に車を停め、荷物を降ろしているところだった。
「すみません、ちょっと!」
翔太は意を決して、配達員に声をかけ、素早く尋ねた。
「このビルに、天城玲凰さんという方は住んでますか? 僕、彼の友人で…」
配達員は、少し困惑した表情を浮かべた後、声を潜めた。
「ああ……『アマギ様』ね。噂は聞きますよ。最上階の、人に見られたがらない方ですよね? 警備が尋常じゃないんで、僕らでも直接お部屋には行けませんけど。ただ、週に二回、あの人が来るときだけは、ちょっと空気が違うんで、すぐにわかります」
「あの人?」康二が食いついた。
「ええ。背の高い、細身の、いつも無表情な男性です。黒いスーツを着て。名前は知りませんが、たぶん、アマギ様のお付きの方でしょう。すごく偉い人だと、ここの警備員たちも頭が上がらないみたいで…」
(間違いない。阿部ちゃんの言う『表の管理人』だ)翔太は確信した。
お礼の品を直接渡すのは無理だと悟った翔太は、康二と顔を見合わせた。
「康二、一旦引くぞ。あの『管理人』とやらを、どこかで待ち伏せするしかない」
二人が路地から出ようとした、その時。
マンションの正面エントランスから、配達員が言っていた通りの人物が、滑るように出てくるのが見えた。
背が高く、細身で、黒いスーツを完璧に着こなしている。感情の読み取れない、氷のように冷たい顔。その男は、周囲の喧騒を一切無視し、まるで自分の時間軸で動いているかのように、ゆっくりと歩を進めていた。
(あれだ!あれが、玲凰さんに繋がる唯一の窓口だ!)
翔太は康二とアイコンタクトを取り、すぐに男を追いかけた。しかし、男は角を曲がってすぐに、真っ黒な高級車に乗り込み、そのまま静かに去ってしまった。
「ちくしょう! 早すぎるやろ!」康二が悔しそうに地団駄を踏む。
「待て、康二」翔太は、男が乗り込んだ車のナンバーを、瞬時にスマホのカメラで撮影していた。
「ナンバーは撮った。これがあれば、阿部ちゃんが何かしてくれる」
二人は一旦引き返し、急いで阿部に情報を送った。
数時間後、阿部からの連絡が入った。
『彼の名前は氷室(ひむろ)。表向きは、玲凰がオーナーを務めるスーツブランドの最高責任者だ。そして、彼は玲凰の裏の業務を全て管理する、右腕でもある。ナンバーから、彼が向かった先も特定した。都内港区にある、会員制の超高級ギャラリーだ。』
「ギャラリー?」
『ああ。彼はそこで、玲凰の美術品コレクションの一部を、秘密裏に管理している。おそらく、玲凰は彼を通じて、世間から距離を置いているんだ』
この情報に、宮舘涼太が反応した。
「ギャラリーか。もしかすると、僕のロイヤルな友人から得た情報とリンクするかもしれない」
「舘様!お願い!」
宮舘は静かに頷き、電話で友人との連絡を取り始めた。
翌日、翔太と康二は、宮舘と合流し、氷室が向かったという高級ギャラリーへと足を運んだ。
「涼太、ありがとう。わざわざ付き合ってもらって」
翔太が言うと、宮舘は落ち着いた声で返した。「気にすることはない。僕の友人が、このギャラリーのオーナーと顔見知りだった。オーナーは、僕らが『美術品の知識を深めたい』と言えば、氷室氏に迷惑をかけない程度に、中を見せてくれると約束してくれたよ」
三人でギャラリーに入ると、そこは異空間だった。外界の音は遮断され、照明は計算され尽くし、並べられた美術品は、見る者の魂を吸い込むような静謐な力を放っている。
「さすが、玲凰さんが所有するコレクションだな。ただの富豪の趣味じゃない、歴史の重みを感じる」
宮舘が、ある一点の古い紋章のような彫刻画の前で足を止めた。
その時、ギャラリーの奥から、例の黒スーツの男――氷室が、無表情で現れた。彼の隣には、ギャラリーのオーナーらしき初老の男性がいる。
氷室は、Snow Manの三人を一瞥した。その視線は、まるで虫けらを見るような冷たさだった。
オーナーが慌てて声をかける。
「氷室様、申し訳ありません。こちらは、日本の著名なアイドルグループ、Snow Manの宮舘様とそのご友人です。美術品に大変興味をお持ちで…」
氷室は、オーナーの言葉を遮り、低い声で宮舘に向かって言った。その声は、エントランスで翔太が聞いた声と同じ、感情のない機械のような声だった。
「…宮舘様。お見かけしております。貴方たちが、先日、天城様にご迷惑をおかけした**『芸能人』**ですね」
その言葉には、明確な軽蔑と警告の響きが込められていた。翔太は、全身に鳥肌が立つのを感じた。
「ご迷惑だなんて。私たちは、玲凰様に命を救っていただいた感謝を伝えに参りました」
翔太が前に出ると、氷室の視線が、まるでレーザー光線のように翔太を射抜いた。
「天城様は、貴方方のような表舞台の喧騒を、何よりも嫌っておられます。貴方方の『感謝』は、天城様にとっては**『騒音』**でしかありません」
氷室は、一歩も近づくことなく、冷酷に言い放った。
「彼は、静かに、己の望む結末に向かわれております。貴方方が、その邪魔をするようなことがあれば」
氷室は、口元に微かな笑みを浮かべた。それは、まるで死神の微笑みのようだった。
「…貴方方の未来も、その結末に巻き込まれることになりますよ」
氷室の言葉は、玲凰を取り巻く世界が、どれほど危険で、どれほど強固な壁に守られているかを、痛いほど翔太たちに思い知らせた。
「玲凰さんは、本当に…死ぬことを望んでいるんですか」翔太が絞り出すように尋ねた。
氷室は答えなかった。ただ、静かに、背を向けた。
「お引取りください。二度と、天城様に近づくことのないよう、心より願っております」
そして、彼は、ギャラリーの奥、玲凰の静かなるコレクションの闇へと消えていった。
翔太は、手のひらの入浴剤とお礼のメッセージカードを、強く握りしめた。玲凰の城は、あまりにも鉄壁だった。そして、彼を救うための道は、あまりにも危険な予感に満ちていた。