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(深澤side)
「まったく、よりによって非常階段で転倒って……」
深澤辰哉は、病院の待合室で頭を抱えた。 精密検査の結果、渡辺翔太は全身打撲と軽い捻挫で済んだ。不幸中の幸いだ。しかし、深澤の頭の中には、翔太を突き飛ばしたアンチの男の顔よりも、黒いコートの男の姿が焼き付いていた。
「礼など、不要だ。私が欲しかったのは、静かな死場所だ」
あの、氷のように冷たい声。まるで、自分が今いる世界から、透明な壁一枚隔てた場所にいるような、異質な雰囲気。
「ふっかさん」
隣に座っていた阿部亮平が、静かに深澤の顔を覗き込んだ。阿部は、騒動の直後から、冷静沈着に状況を整理し、警察への対応や病院の手配をマネージャーと連携して行ってくれた。
「……阿部ちゃんさ、あの人、何か知ってる?」 「誰のこと?突き飛ばした犯人、のこと?」 「いや、違う。助けてくれた、あのコートの男」
深澤が問いかけると、阿部は一瞬、視線を逸らした。
「……僕も、わかんない。ただ」
阿部は、手元の資料を閉じ、深澤にまっすぐ視線を戻した。
「あの状況で、何の躊躇もなく、完璧なタイミングで介入できる人間は、一般人ではない。それだけは確かだと思う。しかも、犯人に対して、過剰な暴力を使わず、完全に動きを封じるあの手際。まるで、訓練された専門家、あるいは……」
「あるいは?」
「裏の人間、とでも言うのかな」
深澤は息を飲んだ。阿部の言葉は、深澤が漠然と感じていた不安を、明確な形にしてしまった。あの男のまとう静寂は、舞台で見る華やかな光とは真逆の、濃すぎる影だった。
「翔太には、余計なことは言わない方がいいかもしれない」
深澤は呟いた。翔太は今、打撲の痛みよりも、あの男の最後の言葉に囚われているように見えた。
その時、病室から岩本照が出てきた。その顔は、リーダーとして事態の収束に努めていた疲労と、まだ隠しきれない怒りが混ざっていた。
「深澤、ちょっと話がある」
深澤と阿部は立ち上がり、岩本について病院の廊下の隅へ移動した。
「翔太は大丈夫だ。でも、明日の朝まで入院させることになった。大事をとって」 「了解。仕事の調整は任せて」 「ああ。問題は、あの男だ」
岩本の声は低かった。
「あの男が言っていた『死場所』がどういう意味かは知らない。だが、翔太は、あいつを恩人だと思っている。俺たちが、ちゃんとしたお礼をしないと、気が済まないって」
深澤は予想していた展開に、小さくため息をついた。
「まあ、そうだよな。助けてもらったんだから、当然だ」 「だが、あの男は、お礼など不要だと拒絶した。そして、尋常じゃない空気を纏っていた」
岩本は、深澤と阿部を交互に見た。
「俺は、あの男が翔太にとって、そしてSnow Manにとって、危険な何かを運んでくる予感がしている。だから、こちらから接触するのは一旦やめたい」
「それは正論だと思う」と、阿部が冷静に同意した。「しかし、翔太の性格上、このまま引き下がると、彼一人であの男を探しに行きかねないよね」
深澤は、長年の付き合いから、渡辺の性分をよく理解していた。彼は一見クールだが、情に厚く、一度決めたら梃子でも動かない頑固さを持っている。そして、あの男の孤独を、まるで自分を見ているかのように感じ取ったに違いない。
「…ひかる」
深澤は岩本の肩に手を置いた。
「俺たちさ、あの男の探求から目を背けるのは無理だと思うよ。だって、俺たちのうちの一人が、命を救われたんだ。それに、俺たちのグループ名、Snow Manってさ、雪だるまじゃん」
「それがどうした」
「雪だるまって、放っておくと溶けちゃうけど、誰かが愛情を込めて、優しく接してあげると、そこに留まるんだよ」
深澤は、言葉を選びながら続けた。
「あの男は、どう見ても『溶けかかってる』。死場所が欲しいなんて言うくらい、生きることに疲弊してる。俺たちはアイドルとして、人を笑顔にする仕事をしてる。なら、あの男の孤独をそのまま見過ごすのは、ちょっと違う気がするんだよ」
それは、グループの**「長兄」としての直感だった。不安を抱くリーダー岩本の感情を受け止めつつ、突き進もうとするメンバー(渡辺)の気持ちにも寄り添い、そしてグループ全体が持つ「人の心を動かす力」**を信じる、深澤ならではの判断だった。
「だから、俺は、お礼を兼ねて接触することに賛成だ。ただし、接触するにしても、俺たち全員で、細心の注意を払ってやる。阿部ちゃんには、あの男の情報を探る役割を頼む」
岩本はしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。
「わかった。だが、深入りはするな。そして、何かあったら必ず俺に報告しろ。いいな、深澤。お前も、阿部もだ」 「もちろんです」 「はい」
こうして、Snow Manは、彼らの日常を救った謎の介入者、天城玲凰という世界の闇の存在に、一歩踏み込むことを決めた。
その夜。
天城玲凰は、都心の高層ビル最上階にある自室の窓辺に立っていた。夜景が、孤独な彼の心を照らすことはない。
彼は、さきほど使った特殊警棒のような細い器具を、冷たい手袋越しに見つめていた。その器具は、人体に麻痺を与える電流を流すためのものだ。
(…なぜ、手を出した)
静かに死を迎えるための計画は、着々と進行している。今さら、無意味な行動は計画を狂わせるだけだ。アイドルの命など、裏社会のトップである自分から見れば、羽虫ほどの価値もない。
しかし、あのアイドルの、震えながらも発した**「助けてくれて、ありがとうございます」**という言葉が、玲凰の硬質な心に、小さな亀裂を入れた。
「礼など、不要だ」
そう言い放ったはずなのに、彼の脳裏には、彼らを残して立ち去る際に感じた、一瞬の温もりがまとわりついて離れなかった。それは、**「生」**の熱だった。
(…厄介だ)
玲凰は、器具をコートのポケットに戻した。彼が自分の人生に終止符を打つ日まで、あとわずかだ。それまでに、彼らを巻き込むわけにはいかない。
(次に会うことがあれば、二度と助けない。そう、決めた)
しかし、裏社会のトップは知らなかった。彼の決意とは裏腹に、彼を救おうとする9つの光が、すでに動き出していることを。
「まったく、よりによって非常階段で転倒って……」
深澤辰哉は、病院の待合室で頭を抱えた。 精密検査の結果、渡辺翔太は全身打撲と軽い捻挫で済んだ。不幸中の幸いだ。しかし、深澤の頭の中には、翔太を突き飛ばしたアンチの男の顔よりも、黒いコートの男の姿が焼き付いていた。
「礼など、不要だ。私が欲しかったのは、静かな死場所だ」
あの、氷のように冷たい声。まるで、自分が今いる世界から、透明な壁一枚隔てた場所にいるような、異質な雰囲気。
「ふっかさん」
隣に座っていた阿部亮平が、静かに深澤の顔を覗き込んだ。阿部は、騒動の直後から、冷静沈着に状況を整理し、警察への対応や病院の手配をマネージャーと連携して行ってくれた。
「……阿部ちゃんさ、あの人、何か知ってる?」 「誰のこと?突き飛ばした犯人、のこと?」 「いや、違う。助けてくれた、あのコートの男」
深澤が問いかけると、阿部は一瞬、視線を逸らした。
「……僕も、わかんない。ただ」
阿部は、手元の資料を閉じ、深澤にまっすぐ視線を戻した。
「あの状況で、何の躊躇もなく、完璧なタイミングで介入できる人間は、一般人ではない。それだけは確かだと思う。しかも、犯人に対して、過剰な暴力を使わず、完全に動きを封じるあの手際。まるで、訓練された専門家、あるいは……」
「あるいは?」
「裏の人間、とでも言うのかな」
深澤は息を飲んだ。阿部の言葉は、深澤が漠然と感じていた不安を、明確な形にしてしまった。あの男のまとう静寂は、舞台で見る華やかな光とは真逆の、濃すぎる影だった。
「翔太には、余計なことは言わない方がいいかもしれない」
深澤は呟いた。翔太は今、打撲の痛みよりも、あの男の最後の言葉に囚われているように見えた。
その時、病室から岩本照が出てきた。その顔は、リーダーとして事態の収束に努めていた疲労と、まだ隠しきれない怒りが混ざっていた。
「深澤、ちょっと話がある」
深澤と阿部は立ち上がり、岩本について病院の廊下の隅へ移動した。
「翔太は大丈夫だ。でも、明日の朝まで入院させることになった。大事をとって」 「了解。仕事の調整は任せて」 「ああ。問題は、あの男だ」
岩本の声は低かった。
「あの男が言っていた『死場所』がどういう意味かは知らない。だが、翔太は、あいつを恩人だと思っている。俺たちが、ちゃんとしたお礼をしないと、気が済まないって」
深澤は予想していた展開に、小さくため息をついた。
「まあ、そうだよな。助けてもらったんだから、当然だ」 「だが、あの男は、お礼など不要だと拒絶した。そして、尋常じゃない空気を纏っていた」
岩本は、深澤と阿部を交互に見た。
「俺は、あの男が翔太にとって、そしてSnow Manにとって、危険な何かを運んでくる予感がしている。だから、こちらから接触するのは一旦やめたい」
「それは正論だと思う」と、阿部が冷静に同意した。「しかし、翔太の性格上、このまま引き下がると、彼一人であの男を探しに行きかねないよね」
深澤は、長年の付き合いから、渡辺の性分をよく理解していた。彼は一見クールだが、情に厚く、一度決めたら梃子でも動かない頑固さを持っている。そして、あの男の孤独を、まるで自分を見ているかのように感じ取ったに違いない。
「…ひかる」
深澤は岩本の肩に手を置いた。
「俺たちさ、あの男の探求から目を背けるのは無理だと思うよ。だって、俺たちのうちの一人が、命を救われたんだ。それに、俺たちのグループ名、Snow Manってさ、雪だるまじゃん」
「それがどうした」
「雪だるまって、放っておくと溶けちゃうけど、誰かが愛情を込めて、優しく接してあげると、そこに留まるんだよ」
深澤は、言葉を選びながら続けた。
「あの男は、どう見ても『溶けかかってる』。死場所が欲しいなんて言うくらい、生きることに疲弊してる。俺たちはアイドルとして、人を笑顔にする仕事をしてる。なら、あの男の孤独をそのまま見過ごすのは、ちょっと違う気がするんだよ」
それは、グループの**「長兄」としての直感だった。不安を抱くリーダー岩本の感情を受け止めつつ、突き進もうとするメンバー(渡辺)の気持ちにも寄り添い、そしてグループ全体が持つ「人の心を動かす力」**を信じる、深澤ならではの判断だった。
「だから、俺は、お礼を兼ねて接触することに賛成だ。ただし、接触するにしても、俺たち全員で、細心の注意を払ってやる。阿部ちゃんには、あの男の情報を探る役割を頼む」
岩本はしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。
「わかった。だが、深入りはするな。そして、何かあったら必ず俺に報告しろ。いいな、深澤。お前も、阿部もだ」 「もちろんです」 「はい」
こうして、Snow Manは、彼らの日常を救った謎の介入者、天城玲凰という世界の闇の存在に、一歩踏み込むことを決めた。
その夜。
天城玲凰は、都心の高層ビル最上階にある自室の窓辺に立っていた。夜景が、孤独な彼の心を照らすことはない。
彼は、さきほど使った特殊警棒のような細い器具を、冷たい手袋越しに見つめていた。その器具は、人体に麻痺を与える電流を流すためのものだ。
(…なぜ、手を出した)
静かに死を迎えるための計画は、着々と進行している。今さら、無意味な行動は計画を狂わせるだけだ。アイドルの命など、裏社会のトップである自分から見れば、羽虫ほどの価値もない。
しかし、あのアイドルの、震えながらも発した**「助けてくれて、ありがとうございます」**という言葉が、玲凰の硬質な心に、小さな亀裂を入れた。
「礼など、不要だ」
そう言い放ったはずなのに、彼の脳裏には、彼らを残して立ち去る際に感じた、一瞬の温もりがまとわりついて離れなかった。それは、**「生」**の熱だった。
(…厄介だ)
玲凰は、器具をコートのポケットに戻した。彼が自分の人生に終止符を打つ日まで、あとわずかだ。それまでに、彼らを巻き込むわけにはいかない。
(次に会うことがあれば、二度と助けない。そう、決めた)
しかし、裏社会のトップは知らなかった。彼の決意とは裏腹に、彼を救おうとする9つの光が、すでに動き出していることを。